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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2021年09月06日 (月)

競争する社会から 「共創」する社会へ 経済思想家・斎藤幸平さんインタビュー 【前編】

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前編 “コモンを住民の手に取り戻す

『人新世の「資本論」』が大きな話題となっている経済思想家で大阪市立大学准教授の斎藤幸平さんに、これからの地域社会が持つ新たな可能性について語っていただきました。

 

 人新世の時代」とは何か

 ——斎藤さんの著書にある「人新世」とは、そもそもどのような時代なのでしょうか。

 「人新世」とは地質学の概念です。簡単に言えば、地球上の最新の地層、つまり地球の表面を、人類の経済活動の痕跡——たとえば道路やビルやダムだったり、農地やゴミ捨て場のように——、つまり人類が生み出した何らかのものに覆われ尽くしてしまった時代のことを言います。そのような時代に突入した背景には、絶えざる経済成長を求め続ける資本主義があります。資本主義のグローバル化が行き着く先まで行き着いた時代、それが「人新世」です。

 「人新世」において、2つの問題が深刻化しています。そのひとつが気候変動です。日本でも今、毎年のように大規模な水害が起こっていますが、世界を見ても、スーパーハリケーンや山火事などの異常気象が多発しています。これまで先進国は二酸化炭素排出という環境負荷を外部化してきたのですが、地球は有限のため、ついには、先進国さえも気候変動の影響から逃れられなくなっている。しかも、これらの自然現象を人類が制御することは不可能です。このまま放置していては、自然環境破壊は進む一方で、人は住むところを無くし、食料不足や水不足の中、多くの命や生物の多様性が失われていくでしょう。

 そして今、環境破壊の問題と同じく深刻な問題となっているのが、富の格差と貧困の問題です。この問題の解決方法として、さらなる経済成長を達成することで、末端にいる労働者たちの生活も豊かにしていこうといういわゆるトリクルダウンの考え方がありましたが、実際には機能しませんでした。たとえ、それが成功していたとして、世界の国々で、労働者から富裕層までがいままでよりもさらに豊かな生活を追求したら、地球環境のほうがもたないことはもうわかりきったことですね。

 私たちはこの有限な地球の、限られた資源、限られた環境の中で、無限の富を追い求め、無限の経済成長を続けることに対して、ブレーキをかけていかなくてはならないと思います。つまり、脱成長です。「人新世」とは、脱成長の時代だと思います。

 ——「脱成長」は斎藤さんの今回の本の最も重要なキーワードのひとつですね。「脱成長」が今なぜ私たちの社会に必要なのでしょうか。

 まず、世界中を席巻してきた新自由主義型のグローバル化が明確に行き詰まっているという現実があります。企業がどんどんグローバル化して、安い労働力を海外に求めて、モノを安く作り広く売って儲けるようなやり方が続けば、先進国の単価が高い労働者たちはお荷物になり、競争に巻き込まれる中で、労働者たちは非正規雇用になり、賃金も下がり、社会保障も削減されていく。そのように生活条件が悪化していく人たちが多数いる中で、一部の富裕層だけがどんどん資産を増やしていく。そのような状況がこの間長く続いていました。けれども、資本主義が開拓するフロンティアがもはや残っていない。パイが広がらないなかで、中国やブラジルも台頭し、奪い合いが激しくなっています。そして、地球環境も悪化している。これまでのような成長を前提とした経済は立ち行かなくなっているのです。

 「脱成長」と言うとき、経済成長を止めてしまったら、ただでさえ足らない富が行き渡らなくなるのではないかと主張する人もいます。それは間違いです。富が足りないから成長しなければならないのではなく、富は十分にあるにも関わらず、一部の人がそれを独占していることが問題なのです。だからこそ、これからの私たちには、脱成長と同時に、今ある富をより適切な形で配分していくことが求められています。

 富をきちんと再配分し、豊かな持続可能な社会を作っていく方向に、今こそ舵を切らなければ。それを私は、脱成長型のコミュニズムである、と考えているんです。

 経済優先の社会からWell-Beingの社会へ

 ——経済が発展することで誰もが豊かにになるというこれまでの思考を、なかなか捨てきれない人も多いのではないでしょうか。

 例えば今の日本は、コロナ禍もあってまったく経済成長をしていませんし、GDPも減りました。こんなにも多くの人が失業して困窮状態に陥っているのに「脱成長」なんてとんでもない、今こそ経済成長が必要ではないか、と思う人も多いでしょう。ワクチン接種が今後広まったら、まずは経済回復を最優先にして、その上で、貧困層の生活保障をしたり、気候変動対策にも取り組んでいこう。そういう議論になりがちですが、これはまったく逆なんですね。

 コロナ禍は、たしかに悲惨な事態を社会にもたらし、格差と貧困を拡大させているわけですが、それはむしろ、今までの社会が成長を前提としてしか設計されていなかったからこそ、コロナ禍で経済が成長しなくなった瞬間に、破壊的な事態が起きたのだと見るべきです。

 「経済成長」の名の下に、目先の利益、利潤、株の配当などばかりを重視して、社会保障費や医療費、病院や保健所の数などを減らすなど、公的な医療や福祉を削減していった。その結果として、今回のような社会的危機が起こったときに備える体制が、非常に不十分になってしまっていた。経済を重視して、意図的に社会福祉を削っていった社会の、結果としての危機に対する脆弱さが今露呈しているのだと思います。

 経済の論理で動く市場に、ありとあらゆる事柄を任せてしまうことはとても危険なことです。経済の物差しで見れば、危機なんて、いつ起きるかもわからないものにお金をかけることは、利益に直では結びつきません。対策をするにしても、まず、利益を出すことを優先し、残りの部分を使って、危機管理にどのくらいの予算を充てるか、という考え方にならざるを得ない。

 コロナ禍という危機のさなかにある今、そうした考え方がどれだけ不合理なものかはもう、私たちにも理解できるはずです。しかも、コロナ禍が最後の危機ではありません。むしろ、これは人新世の危機の始まりです。気候危機が深刻化し、その影響によるパンデミックもこれから起きるでしょう。だからこそ、これから目指す社会は、人々が心身共に良好な状態であること=「ウェルビーイング」な社会、持続可能な社会を、経済的な利益を増やすことよりも重視していく社会に変わらなければならないと思うのです。そこにしか我々の未来はない。

 その反省をもとに、私たちは、危機が訪れたときに、どう、人々を守っていくか、弱い立場に置かれた人たちをどのように優先的に守っていくかの仕組み作りや、危機に対応できるだけの資源や予算の配分について、真剣に考えていかなければいけない。そういうことだと思います。

 「コモン(公共財)」を市民の手に取り戻す

 ——今、コロナ禍で奮闘されている、医療関係者を始めとしたいわゆる「エッセンシャルワーク」層の脆弱さも指摘されていますね。

 看護や介護、清掃、バスや鉄道の運転手などは、我々の社会を支えている、なくてはならない仕事です。しかし、経済重視型の世界では、金融や製造業など、数字や「生産性」で評価される仕事ばかりが高く評価され、これらの「ケア労働」と言われる仕事などは、報酬も社会的地位も低く扱われているという現実があります。

 僕の本では、これら人々が生きていくのに必ず必要なもの——水や電気や交通、介護や医療、そして自然など。これらを共有財=「コモン」と呼んでいます。今の経済優先の資本主義社会は、これらの「コモン」を囲い込み、民営化などして利潤を追求しつづけてきました。今、この「コモン」をもっと積極的に増やし、再び市民の手に取り戻そうという動きが、海外でも少しずつ広がっているんです。

 たとえば、パリ市では、30年ぶりに、民営化されていた水道を再公営化しましたし、ドイツのベルリン、アメリカのアトランタなどでも公営化されました。「民営化」というと何か今まで国家に独占されていたものが、民の元に戻されたっていうような錯覚を起こしますが、実際には「民営化/privatization」とは、「私物化」ですね。だから、今広がっている「再公営化」の動きは、むしろ、企業経済によって私物化されてしまっていた公共財を、再び市民の手に取り戻す。「市民営化」だと言ってよいと思います。

 市民がコモンの主導権を握ることが重要

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すべての人が生きていくために必要な水を、人々の手に取り戻す

 ——水道を再公営化したパリ市では、民営化していた30年の間に、にどのような問題が起こったのでしょうか。

 民間企業は、利益を出すのが目的ですから、水道料金でどうやって利益を出すか。手っ取り早いのは値上げです。次にやるのは、既存の従業員を、非正規社員へ変えていくことでしょう。そして、水道管のメンテナンスなどを、「効率化」の名の下に簡素化していくことになります。そうして利益を上げたとしても、そのお金はまず、株主への配当に充てられます。企業とはそういうものなのですから。

 つまり、民営化をすることで、最終的には水道料金も上がり、水質も下がり、安全性を脅かされるということにもなりかねません。また、水道料金を上げたとして、その分のお金が、どこでどのように使われているか、ということも、民間企業の場合は公開する義務はありません。表面的には経営が厳しいからといって、メンテナンスに充てられるべき予算が配当に回されていても確かめようがないのです。

 これらはすべて、住民や企業で働いている労働者にとって、何のメリットにもなりません。パリ市では、民営化の契約更新の時期を前に、市民がこのおかしさに対して声をあげ、再公営化へとつなげていきました。

 ——公営化によって、それらの問題はどのように改善されたのですか?

たとえば、集められた水道料金を、どのようなところに使い、どのような運営に使っていくか。それらの意志決定をする経営部門に、市民の代表者たちが関与できるようになりました。利益の一部分、たとえば年間に100万円なら100万円を、どのように使うかを参加している市民たちが決めることもできるようになったのです。

 その話合いの中で、たとえばどんな人でも利用できる無料のウォーターサーバーを町中に設置する、水源地となっている土地の周囲では、積極的に有機農業を行うようにし、環境保全を強化する、などの施策が実践されています。水源に、農薬や化学肥料が入り込んでしまうと、水の安全が脅かされてしまいますからね。

 それらの動きは、企業の利益という視点からみれば、必ずしも嬉しくはない話でしょう。しかし、市民が自発的に参加することで、自分たちの水を管理したり、意思決定をしていく。そのような経験を重ねることが、市民たちの自信にも繋がり、今度は電気も同じようにしていこう、バスや鉄道もそういうふうにしていこうという形で、その成功事例がさらなる想像力を拡げていくような動きに繋がっているんです。それらのノウハウは近隣の国々の都市にもシェアされていて、大きな波を作っています。非常に面白い状況になっているんですよ。

 これらの動きは、「公営化」というよりも、本当の意味での「民営化」つまり「市民営化」と捉えるべきだと思いますね。

——公営時代にも、さまざまな問題があったからこそ、「市民営化」という再選択が重要なのですね。

 そうですね。何でもかんでも公営化さえすれば、問題が解決すると言っているわけではありません。必要なサービスを、国でも企業でも、一部の人たちが管理する、という状況はやはり不効率で不透明です。だからこそ、今進んでいる再公営化の流れの中では、市民参加ということが非常に重要な鍵になっています。市民が参加することが、市場の論理に流されないための防御壁になり、コモンをみんなの手に取り戻すためのさまざまなアイディアが生まれていくと思います。

 新しいコモン社会は地域づくりから始まる

 ——私たちが発信している地域づくりアーカイブスでも、地域初のさまざまな動きが生まれています。

 日本でも、自分たちの地域の有機野菜を、地元の小学校の給食に積極的に取り入れていくような試みが、広がりつつありますね。地元の農家の人たちの応援にもなるし、子どもたちに安心で健康な食品を提供していくことができる。

 どこの食材かもわからない大量生産のお弁当でコスト削減するのではなく、市民が積極的に関わっていくことで、目に見える形で、安心、安全、安価な地元のネットワークを拡げていく。利用する側にとっても、その差は明らかです。こうした流れっていうのは今後ますますポジティブなものとしてとらえられ、広がっていくのではないかと期待しています。

 市民たちが営んでいく、という意味では、日本でもNGOやNPOなどの試みが多くありますが、最近私が注目しているのは、ワーカーズコープやワーカーズコレクティブという新しい労働者協同組合の形です。この関連法律は去年できたのですが、その地元のニーズを満たすために、労働者たち自身で意志決定をしながら自分たちで出資をして会社を作ってそれで地域作り地域おこしをしていく働き方です。それは地域との協働であるし、働きがいも保証されていくものです。

 ワーカーズコープ/コレクティヴは、地元市民たちの集まりで、行政など公的な団体でもなく、普通の企業の一形態ではありますが、労働者たちによる民主的な運営が行われ、地域の人たちと手と手を取り合っていく新しい運営の形を作り出しています。この動きは、まさに「市民営化」の非常に良い例だと思っています。

 

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インタビュー・地域づくりへの提言

斎藤幸平さん

1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism : Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。『人新世の「資本論」』(集英社新書)で新書大賞2021を受賞。

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