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2019年08月20日 (火)
自分たちの手で地域経済をデザインしよう 枝廣淳子さんインタビュー(後半)
地域経済のコントロールを取り戻すことは地球環境とどのようにつながっていますか。
今までの経済は効率性だけを重視して分業を進めてきました。効率を上げるには、うちはこれだけ作っていればいい、あとは買えばいい、安ければ地球の裏側からでも持ってくればいい、というわけです。このやり方は、モノを大量に動かさなければならないため、非常に環境負荷がかかります。もちろん、分業によって生産性を上げたことで多くの人が貧困から脱してきたのも事実なので、グローバリゼーションをすべて否定する気はありません。しかしその行き過ぎが、格差の拡大や環境問題を引き起こしています。
さらにこれからは、温暖化の原因であるCO2の排出を抑えなくてはなりませんから、ガソリンなどの輸送コストが高くなると思います。そうするとモノの移動が高くつくようになるので、これまでのように国際分業が最大効率だとは言えなくなってきます。温暖化防止のためのパリ協定の枠組で、排出できるCO2の量が決まってくるからです。しかも電力は比較的、化石燃料から再生可能エネルギーに転換しやすいのですが、トラックや船舶、飛行機などの燃料は、転換はなかなか困難です。お金やアイデアはインターネットで一瞬のうちに無料で遠くまで飛ばすことができますが、モノを運ぶことはそうはいきません。少なくとも次の50年ほどは、モノの移動が高くつくようになるので、今までのようにクリックひとつで安く買って配達してもらえばいい、とはいかなくなるだろうと思います。
環境負荷を考えずに大量にモノを動かすのではなく、それぞれの地域で必要なものを作っていくというやり方が主流になっていけば、モノの移動が減るだけではなく、おそらく消費量も減っていくと思います。今までは分業だということで、誰が買ってくれるかわからないものを大量に作っていたのが、自分たちがほんとうに必要だと思うものを作ればいいということになるからです。たとえばファッション業界でも、今作られているものの半分は廃棄されています。顔の見える関係の中で、大事にモノを作って大事に使う。それは地球環境にとっても良いことですね。
再生エネルギー開発についても「地域の、地域による、地域のため」を提唱しておられます。
今、世界でも日本でも、温暖化対策として化石燃料から再生可能エネルギーの開発に力を入れています。しかし日本では、多くの場合、東京などの大企業が地域に入ってきて、ソーラーパネルを立てる土地代だけを地元に払い、売電利益はみんな東京に持っていってしまいます。これを「植民地型の再生可能エネルギー開発」だと言う人もいます。そうではなく、地元に吹く風、地元に照る太陽、地元に流れる川の水を、地元の人たちが活用してエネルギーを作り、自分たちでも使い、売電もするというやり方をすれば、その利益は地元を潤します。それが「地域の、地域による、地域のための再エネ開発」です。
岐阜県の石徹白町はそのいい例です。豊かな水を生かして、小水力発電を作る取り組みをしています。実は、以前から地元の人たちが使っていた農業用水を使って、もっと大きく水力発電をやりたいという申し入れが県の方からあったそうなのですが、話を聞いてみると、県が費用を全額出すので利益もほぼ全部もっていくという提案だった。そこで石徹白の人たちは、「じゃあ自分たちでリスクを負ってやろう」と、お金を出し合って水力発電を作ることになったそうです。(参考動画:「集落存続への再生可能エネルギー」)
エネルギー開発のための資金も地域の中で集めたわけですね。
地域で何かをやろうとするとき、必要な資金を東京の会社や個人が投資すると、その利益の多くは東京に持っていかれてしまいます。そうではなく、地元で地元のために投資をしましょうという動きが今、世界的に広がっています。これを「ローカル・インベストメント」と呼んでいます。多くの日本人は「投資はお金を増やすため」と思っていますが、それだけではなく、自分たちが作り出したい未来のための投資というものもあるんです。
石徹白では、地域を1軒1軒回って、説明してお金を集めたそうです。そこにも地域の歴史と伝統があります。江戸時代、川から遠かった自分たちの集落に手掘りで水を引いてくれた人がいたから、今、農業ができている。では自分たちは次の世代に何を残すんだろう、というときに、やっぱりエネルギーだろうと。そういう地域の歴史と伝統の上に説得がなされ、納得して投資された方が多かったんだろうと思います。
「このプロジェクトを応援したい」と地域のみんながお金を少しずつ出し合って応援する。または、全国に散らばっているその地域出身の人たちのネットワークで、クラウドファンディングもできます。金融機関から融資を受けるにしても、東京本社の大きい銀行ではなく、地銀や信金など地域に根ざした金融機関の方が、地元のお金の回りという点ではいいですね。そうやって、できるだけ地元の中でやりとりをすることで、いろんなつながりができるほど地域が豊かになると思います。
また、ふつうはお金を出した出資者で利益を分けるんですが、石徹白では利益を分けずに町の未来のために投資しようと、組合を作って農業開発や加工品開発をしています。たとえば、とても甘くて美味しいトウモロコシを作って、それを水力発電でドライ加工してお土産にする。また、取材に来る人たちが増えたので、お客が来るときだけカフェを開いて、地元の女性たちが加工場で作った製品や山菜を出す。エネルギーだけだと女性はなかなか参加しにくいんですが、食に結びつけたことで、男性も女性も関わっています。地域にある資源でみんなの幸せを作ろうということが、結果的に地域経済を回すことになっている例ですね。
地域経済の手綱を自分たちで握るということですね
これまでは地域経済を自分たちで設計する、そういうことを考えてみること自体、よほどの専門家以外はしてこなかったと思います。今のグローバルな経済のかたちが当然だと考えてきた。でもそうじゃない、地域経済のかたちは変えてもいいし、変えられるんだ。そう考える力をひとりひとりがもつことが大事です。
その力とは、「今日の買い物をどうしよう」と考えることでもあるし、大型店が地域に来るとなったら、それがいいかどうかを自分たちで考えて止めるということも含まれます。たとえばイギリスのトットネスという町では、いろんな地元のものがたくさんあることがいいとみんなが思っていた。たとえばコーヒーショップも、それぞれにユニークな地元出身のオーナーがいて、味も違う店がたくさんある。そのことがみんなすごく気に入っていたので、コーヒーのチェーン店が入ることになったとき、「自分たちがほしいのはそっちじゃない、これまでどおりの多様なひとつひとつのコーヒーショップなんだ」といって反対運動をして、チェーン店は入ってこられなくなりました。
チェーン店のコーヒーの方が安いだろうし、開店時間も長かったかもしれない。でも安さや利便性よりも、自分たちにとって何が大事なのか、何を守りたいのか、そのことをトットネスの人たちはずっと話し合ってきたんだと思うんです。これからは日本の地域にもそういう動きが出てくるだろうと思います。「安いかもしれないけど買わないよ。便利かもしれないけど頼まないよ。それよりもこっちの価値が大事なんだ」と。
経済学の中から行動経済学という新しい潮流が出てきたことは興味深い動きです。これまでの経済学では、人間はホモ・エコノミクスであり、当然安いものを買うはずだと決め付けて、伝統などが考慮される余地はありませんでした。でも人間の行動はそれほど簡単じゃないよという行動経済学が出てきて、少しは経済学も実世界に近づいてきたようです(参考:ケイト・ラワースさんインタビュー)。
だからこそ実世界はもうすこし先に行かないとならない。経済効率は基準のひとつであって、すべてではないですよね。都会の下働きのような地域経済ではなく、ほかの地域からのモノに頼るのでもなく、自分たち自身で地域経済の手綱を握って、これは外から入れよう、これは中で作ろうと、自分たちで決める。自分たちの経済を自分たちでデザインする動きが作れると面白いと思います。
前世紀は都市への集中が進んだ結果、さまざまな問題が起きてきた時代でした。都市で便利な生活を送り、たくさんお金を稼いでたくさんモノを持つことが幸せだと多くの人びとが信じてきました。でも今、ほんとうの幸せってなんだろう、という問い直しも広がっています。身を粉にして働いて、たくさん稼いでたくさん買うよりも、もっと地に足のついた暮らしをていねいにしていきたいという人たちが増えています。そういう幸せは地域が提供できるものです。21世紀の地球環境や社会のあり方、個人の幸せを考えたとき、地域がもういちど、人びとの暮らしの中心になっていかなければならないと強く思っています。