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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年09月26日 (月)

"機能別"タテ割り社会に「ヨコ糸」を通し、縦横無尽の安心ネットを張る⑨【財政学者・沼尾波子さん】

「自分たちの暮らす地域には、様々な資源や価値がある」―ひとつひとつは小さくとも、それぞれの土地で展開されるトータルな活動を通じて、仕事と暮らしを成り立たせる術があると、沼尾さんは語ります。

--その地域の実情に即して、ふさわしい解決の方法をそれぞれ探っていくべきと。

沼尾氏 いま、行政の方でも、地域のひとりひとりの課題をすくいあげていくために、「よろず相談窓口」等を設けて、何かあったらここに相談すればひらけるかもしれませんよと伝えていますが、それはそれで大事なのだけれども、課題を抱えている人がどこにいるのか探せないでいることが、実はとても多いですね。極端な例かもしれませんが、生活に困窮する人がいて、なかなか人と繋がれずお金も入ってこないという場合、そうした人たちは繋がり方もあまり上手ではないから、行政がいろいろな制度を用意していたとしても、その情報がしっかり届いていなかったりします。そういうところを、いかにうまく繋げていくか、そのための場や仕掛けをつくることが、とても大事なんだろうと思います。先程の大網白里市の不動産会社がやっているような、お茶を飲んで農産物が安く買えるようなところがあって、そこでなんとなく座っていると「どうしたんですか」と声をかけられて、しゃべっているうちに「実はね…」ってポロポロ話が出てくるような。やっぱりそういうプラットフォーム、公共空間が、掘り起しの上ではとても重要なんですね。

実際に、生活困窮者の方への対応状況を見ても、本人がみずから相談に来た件数って案外少ないんです。どこの自治体も。だからそういう場が、網の目のようにいろんな形で、かつ監視にならないように存在していることがとっても大事なんですよね。とにかくいま都市部は空間管理がものすごく厳格になっていますから、そういう、いたかったらいてもいいよって言えるような自由な公共空間がありません。何だかわからないけれど人がいてという、コモンズのような、アゴラみたいな場所がなくなっていますよね。


--確かに。空間もほとんど全てが、目的別になっていますね。

沼尾氏 そうなんです。目的別なんですよ。何だかわからない人がいるなんてことをしたら、不審者と間違われるとかね。(笑)地域づくりって、新しいものがほんとうに柔軟に色々と関わる中で、総合的に面白いものがあれば人がいくらでも集まってくるポテンシャルはあるんです。昔ながらのものを大事にしつつ、外に向かって開いていくと言いますか。

そこで大切なのは、「自分の地域に誇りがあって、よそもいいけどうちもいいよね」という気持ちですね。自治体職員研修をやらせてもらっていて思うことがあるのですが、若手の自治体職員が意外に地元をきちんと紹介できないんです。研修で「あなたの地元を紹介しなさい」とやるのですが、私が必ず言うのは「役所で用意しているありきたりのパワーポイント資料だけを持って来て、人口がなんとかで、名所がなんとかで、っていうのは絶対にやるな」と伝えるのです。あなたにしかできない、地元の魅力と課題と、これからどういうことに向き合っていくべきなのかを論じろと言うんですけれど、皆さんものすごく悩みますね。そういう目で地元を見たことがなかったと。仕事は首長からのトップダウン、あるいは毎年のこととして振ってくるし資料も用意されている。例えば地方創生の総合戦略でも、こういうものを作れと国から仕事が降ってきたからつくる。我が町はこれが魅力で、こういう名所旧跡があると昔から言われ続けてきたと。

だけど、じゃあ本当にそこに行って、そこにどういう歴史があって、それは全国のどこにもないどういうもので、なにが売りで、どのぐらい人が来てるのかとか、全然、分析していないわけですよ。そういうことを改めて一から考えるということを研修でやると、「私、全然、地元のことをわかっていませんでした」ということになります。それで次に、「じゃあその課題について地元の住人の人から話を聞いてきましょう」というと、「ヒー!」とか言いながら、アポを取って話を聞いてこられます。そうすると「ああ、地域の人たちって、すごく自分たちの地域のことを考えていたことがわかりました」となったりします。
地域の人たちも、そうやって研修とはいえ役所の若い子たちが回ってくると、「今まで役所っていうのは、なんか好き勝手にやってだけかと思っていたけれど、こうやってちゃんと自分の声を聞きに来てくれる子もいるんだ。感心した」と言ってくれるようですし、それを聞いた職員の方も「自分は何かいいことができているのかも」という感じになって。「やっぱり住民の声を聞くって大事ですね」と、ちょっとずつ変わっていきます。たぶん職場では、机に向かっていれば仕事をしているという雰囲気があるのでしょうね。席にいないと「何やってんだ?」みたいな。そこの働き方のところから、首長さんなり課長さんなりが、「お前、外へ出ていってみろ」と言ってくれる職場であれば、もうちょっと地域のことにも目を向けるのだろうと思います。

それでもだんだんと、そういう職場も出てきました。各地区担当の職員を置く動きです。市町村では地区担当制度ということで導入しているところは多いのですが、面白いのは高知県で、「地域支援企画員」という役職を設けています。任命された職員は、県庁でなく、県内市町村の役所・役場に机を間借りして、そこを拠点に地域を回るというものです。県の職員一人一人に、担当する地域が決められ、あとは市役所や町村役場で、机と電話とパソコンなどを借りるんですね。県から市町村に職員を派遣するわけではなく、机を借りているだけなんだそうです。ですので、市町村の役所・役場の中で業務があるわけでもないし、市町村長が任命権者でもない。ただ場所を借りて、ひとりの県職員として地域を回るということをやるんですね。いきなり地域に行けと言われて、上司もいない。役所に行っても、自分ひとり。「何やればいいの?」とすごく悩んだ人もいたらしいです。けれども、そういうことが大好きで、今日はこっちの集落、明日はこっちの集落と、あちこち回って色々と住民から話を聞いていく人もいるそうです。そうやって地域の声を拾い、それぞれの課題に対して「こういう補助制度がありますよ」とか「こういう仕組みがありますよ」と、上手に住民と行政とをつないだり。あるいは市町村職員が悩んでいたら、「それなら県にこういう制度があるよ」とつなぐこともあるそうです。


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地域の中に飛び込んで職務に当たる高知県の「地域支援企画員」

私の知る例で、四万十市に入った「地域支援企画員」のエピソードがあります。市内の大宮地区というところで農協がお店とガソリンスタンドをやっていたのですけれど、撤退することになったんです。そこの集落はもう小学校も統廃合で無くなっていて、買い物をする場もガソリンスタンドもなくなったら、地域の暮らしを成り立たせることがいよいよ難しくなる。そこで、地域の人たちみんなでお金を出してそこを買うことにしたのです。それで、買い物ができる環境をつくり、ガソリンスタンドを経営して、あとはお米の集荷とか農産物の出荷などを行なって、そこをなんとか黒字にする仕組みがつくれないかと。この当時、この地域に入っていた「地域支援企画員」の市川さんという県職員が、そのお店(大宮産業)を管理している地区の自治会長さんたちの話を聞いて、バランスシートをつくって経営シミュレーションもやって、「これだけ売れれば経営として成立できます」という資料を全部つくってアドバイスをしていました。「こういう補助制度がある」といったことも、地域支援企画員が入ってつないだ。地区の方が「彼がいなかったら、うちの地域でこの事業がここまで続けられなかった」と非常に感謝していました。「県庁なんてほんとに遠いと思っていたのに、本当にありがたい」って。


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四万十市大宮地区では「地域支援企画員」の市川さんのアドバイスで
地域づくりが具体的に進み始めた

「地域支援企画員」制度は、徐々にブラッシュアップされていって、年度末に報告会をやって、「自分はこういうふうにうまくいった」とか、「こんな失敗があった」と情報を共有する機会も設けているそうです。段々と地域の側からのニーズも増えてきて、「地域支援企画員」の数は増えてきたそうです。

こんなふうに、日本の各地それぞれのやり方で、これまでの「機能別」の限界を乗り越える、新たな関係の結び直しがどんどん起きています。今回ご紹介したエピソードをきっかけに、みなさんの地域でも新たな取り組み方を見つけていっていただけたらうれしいですね。



"機能別"タテ割り社会に「ヨコ糸」を通し、縦横無尽の安心ネットを張る①はこちらからお読みいただけます。

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インタビュー・地域づくりへの提言

沼尾波子さん

1967年、千葉県生まれ。日本大学経済学部教授。専攻は財政学・地方財政論。日本地方財政学会理事、総務省過疎問題懇談会委員、東京都税制調査会委員などを歴任。慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程修了。学生時代に中国河南省に留学。都市と農村との生活水準のあまりのギャップに仰天しつつ、それぞれの地域特性を踏まえ、地域に根ざした人々の暮らしを支えられるような社会経済システムのあり方について考えるようになる。多様な地域があり、多様な人々が共存できる社会経済のあり方について、先駆的な地域づくりに取り組む地域への訪問を続け、地域の社会経済構造と自治体財政のあり方について研究・提言を続ける。主な著書に「交響する都市と農山村 対流型社会が生まれる」(農山漁村文化協会)など。

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