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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年08月31日 (水)

"機能別"タテ割り社会に「ヨコ糸」を通し、縦横無尽の安心ネットを張る⑤【財政学者・沼尾波子さん】

④では、機能・役割が細分化してしまった世の中を、相互に理解しあい共感しあえるよう関係を繋いでいく「通訳者」「インタープリター」が求められている、というお話を伺いました。

--どのような人たちが「通訳」「インタープリター」になり得ると思いますか?

沼尾氏 都市と農村をつなぐということで言えば、ひとつは「地域おこし協力隊」のメンバーたちです。都会の若い子が田舎に入っていって、「ああ、こんなに農村にはいいものがあるじゃないか!」と気付くと、地元の方たちは「なんてことないと思っていたけれど、これってすごい価値があるものなんだ」と気付かされる。
例えば茨城県常陸太田市の里美地区には、20代の女性たちが地域おこし協力隊で入り、その後も現地に定住して活動しているのですが、地元のお母さんたちが地元の食材で作った定食を出そうという時に、値段をいくらに設定するか話し合ったそうです。お母さんたちの意見は800円。でも協力隊の女性たちは「これ2,500円で出せますよ」って。もう一度それぞれの良さを知って、関係性をつなぎ直す。彼女たちは、いま求められるそこを担う人材=「通訳者」となっていますね。


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茨城県常陸太田市里美地区 地元のお母さんたちと地域起こし協力隊のメンバーたちの名コラボで地元食材をプロデュース

ところが残念なことに、いまの学校教育は大学まで含めて、まさに“機能別”“科目別”に学んで「あなたは文系」「あなたは理系」と仕分けるんだけれども、いろいろな技術やノウハウ、情報を持っている多様な人々が集う場をコーディネートしてうまく意思疎通を図ることや、異なる立場や異なる意見を持つ人々のなかで新しいものをクリエイティブに作り上げていくとか、そういう訓練をやってきていないんですよ。総合学習の時間がそれをやるものとして2000年から段階的に導入されていったわけですが、私のゼミの学生に話を聞くと「総合学習の時間は席替えの時間でした」とか「日本史の教科書が終わらなかったから、総合学習の時間にやりました」といった話ばかりで、地域の人と話をするとか、みんなで考えて何かを作るとか、そんなことは一度もやらなかったっていう学生が大半なのです。恐らく学校の先生自身も、そういうことは教わった経験がないわけですから、どんな授業をすればいいのかわからないでしょうね。

いま「地域おこし協力隊」の若い子たちは、研修も含めてたぶん現場でいろいろな目に遭って、ヒーヒ―言いながら育っている感じですね。制度として始まった最初の頃は、本当に地域づくりをやりたいとの思いで「通訳者」として取り組んでいる人たちがとても多かったです。まあ、最近は、就職も厳しいし、“自分探し”の旅の中で「地域おこし協力隊」になったという人もいるようですが。

--それぞれの良さを知って関係性を結び直す。そのためには地域の人々も、これまでとは違う見方や考え方を受け止め、互いに認め合っていく柔軟性も必要なのかなと思いました。

沼尾氏 あちこちの地域を見ていての印象ですけれども、昔からの宿場町だったり、若い人を受け入れたりしているオープンな地域は、元々「よそ者」が出入りすることに抵抗が少ないところが多い気がしますね。例えば島根県の邑南町(おおなんちょう)。「A級グルメ」を掲げて地域の魅力を産業として育成しつつ、多くの移住者も入っている中山間地域の町ですが、あそこは歴史的に、たたら製鉄の地として、日本海側からも瀬戸内側からも人が行き来する宿場町でもあったので、よその人が出入りすることにそんなに違和感がないと伺いました。よそ者が出入りすることに対して、慣れているそうです。


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「日本一の子育て村」をキャッチフレーズに掲げる島根県邑南町 
全国各地から多くの若い世帯が移住してきている

あるいは、守るべき既得権益が少ない地域も、比較的オープンですね。逆の例を挙げますと、集落に昔からの大規模な共有林があって部落の財産みたいになっているところだと「よそ者が入ってきたら、俺らの財産に何をされるかわからない」ということになる。あとは地理的に行き詰まりの場所で、外から人が入って生活したことがないという地域。そういう地域では、よそから人が来ることに慣れていなくて、「なんかよそ者が来たぞ」というふうになりますね。一言で農山村といっても、「よそ者」を受け入れる寛容度には、大いに地域差があります。

ではそうやって閉じているところは、全然、若い人が入る余地がないのかというと、必ずしもそうではありません。例えばその地域に住んでいるじいちゃんの孫が移住して来たとします。「孫ターン」ですね。その孫が友達を呼び寄せたとき、孫がじいちゃんと友達の「通訳者」になることができれば、じいちゃんつながりでその友達もだんだんと地域の中で受け入れられていったりします。半分身内みたいな人がうまく媒介になって、まさに「通訳者」として「この子は大丈夫なんだよ」と言って地域の中に入れていく。
瀬戸内海に周囲27㎞の小さな島、愛媛県の中島という島があるのですが、この島には過去4年間で45人の若者たちが移住しています。首都圏などで活動をしていたミュージシャンたちが「NPO法人農音」を設立して、行政の支援も何もないところにどんどん移住してきているのですが、一番最初に移住した田中佑樹さんという方の奥様のおじいさまとおばあさまが、もともと中島にいらしたそうなんです。お二人がお亡くなりになって、空き家になっていた奥様のご実家に田中さんが住むこととなった。奥様は、住むなら中島ではなく10㎞対岸にある松山市がいい、島には住まないと言われたそうです。田中さんはお婿さんとして行っているのですけれども、島に移ってみたら「あの家の孫の婿か」ということで受け入れてもらったそうです。彼は今まで島にはいなかったようなバンドマンなんですけれど、その田中さんが今度は上手に地元の人とよそから来た若者をつないでいく。その田中さんたちの移住生活を見て、「なんだか良さそうだ」と、一人、また一人、時には家族でと、中島に入ってくるようになったのだそうです。行政が「移住に補助金を出します」など言うよりもずっとインパクトが大きくて、「何かあったら田中君に相談すればいいや」って地元のじいちゃんばあちゃんも思っている。移住した若者たちも思っている。


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愛媛県の中島に移住した田中さん
地元の農家の方から、重いみかんかごを上手に担ぐコツを教わる

それと、田中さんは全く無理強いをしないのです。「それぞれ島で何をやりたいかは違いますからね」というスタンスで、移住希望者が来たら2~3日でも付き合って島を一通り案内して、「こんな島ですけれど、なんか面白そうだったところはありますか?」とか聞く。移住希望者が「あのミカンの選果場がおもしろそうだった」と答えたら、「じゃあ、そこのバイトから始めてみます?」といった感じで、とりあえずうちに一緒に住んでもいいし誰々さんの家に住んでみますかと、じわじわっといろんな人と付き合ってもらっていく。「生き方は人それぞれだし、島での暮らし方もいろいろあっていい」と田中さんは言うんですね。画一的にここに住めとか、こうしなさいとかいったレールを引かない。まさに「通訳者」ですよね。

それで田中さんに話を聞くと、何も問題がないかというと、そういうわけでもないと。やっぱり若い男の子たちがワーッと集まって、夜中まで海辺で太鼓やギター片手に大騒ぎして、地元の人に「お前ら帰れ!」と怒鳴られまくった。それで「すいません…」となったこともあったりしたそうです。「それはそれで大変なんですけどね」ということでしたが、そういうことも含めて島の一員としていろいろなことを教わったり、逆に島の人たちの力になったりしながらワイワイ過ごしているそうです。

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地元の方との「通訳者」である田中さんを通じて
たくさんの若者たちが島に移住してきた



“機能別”タテ割り社会に「ヨコ糸」を通し、縦横無尽の安心ネットを張る⑥に続きます 

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沼尾波子さん

1967年、千葉県生まれ。日本大学経済学部教授。専攻は財政学・地方財政論。日本地方財政学会理事、総務省過疎問題懇談会委員、東京都税制調査会委員などを歴任。慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程修了。学生時代に中国河南省に留学。都市と農村との生活水準のあまりのギャップに仰天しつつ、それぞれの地域特性を踏まえ、地域に根ざした人々の暮らしを支えられるような社会経済システムのあり方について考えるようになる。多様な地域があり、多様な人々が共存できる社会経済のあり方について、先駆的な地域づくりに取り組む地域への訪問を続け、地域の社会経済構造と自治体財政のあり方について研究・提言を続ける。主な著書に「交響する都市と農山村 対流型社会が生まれる」(農山漁村文化協会)など。

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