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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年08月30日 (火)

"機能別"タテ割り社会に「ヨコ糸」を通し、縦横無尽の安心ネットを張る②【財政学者・沼尾波子さん】

“機能別”に管理され、その中での効率化を目指し続けてきた今のシステム。それぞれの機能が成り立つ一方で、全体として見た時に「私たち人間はいったい何を追求しているのだろう?」ということが、非常にわかりにくくなってしまいました。
暮らしをトータルに支えるシステムとは、どういうものなのか?真剣に考え直さなければいけない時期に来ていると沼尾さんは言います。


--“機能別”のシステムがこれほど高度に進んだのは、どのような背景があったからなのでしょうか?

沼尾氏 自治体財政のほうから考えてみたいと思いますが、1950年代中頃、つまり「地方交付税制度」が創設されるあたりの時期、これは昭和の市町村合併が進んだ時期でもあったのですが、当時、ひとつの市町村に中学校がひとつという単位での合併が目指され、おおよそ1万ぐらいあった自治体が3,300~400ぐらいになっていきました。それ以降の地方財政を見てみると、その後、高度成長期をむかえ、経済も大きく発展しましたが、「農・工格差」が起こって、地方圏ではなかなか経済が伸びないという事態が起きました。

高度成長期の財政状況を長野県小海町の事例を使って紹介します。地方税の税収自体は、ほぼ横ばい。にもかかわらず、財政規模はどんどん大きくなっていっています。なぜそんなことが起きたのかというと、1950年代末から1970年までの間に、「地方交付税」「国庫支出金」「都道府県支出金」が地方税の税収の何倍もの規模で膨らんでいくのです。大きいところだと10倍ぐらいに財政規模が膨れ上がっている。

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そこで何が起こっていたかというと、それまでは道路であれば「道普請」だったり、農地の整備も地域の助け合いでやるということだったし、学校や病院を建て直す場合にも、自分たちの共有林の木を切って供出するとか、寄付をするとか。つまり地域の助け合いの中で、インフラも暮らしも地域での関係も守っていました。
それが、経済成長の中で、より便利なもの機能的なものという発想が前面に出てきて、中央省庁が縦割りでそれぞれの施策を推進するための事業を実施し、都道府県から市町村に予算が下りて、省庁ごとに“機能別”で補助金が付いたり、地方交付税も付いてくるようになった。生産や生活に関わる様々なことがらを“機能別”に行政が担うようになり、それまで地域でやっていたものまで、お上に任せるようになっていったわけですね。

この時期には同時に、やっぱり稼げるのは都市だからということで、農家の長男までもが都会に出ていくという事態が起こった。「こんなところにいたってダメだよ」と言われて、若い人が農山村から都市部へと出ていく。そういうふうにして、トータルに暮らしを守っていた地域の中における関係性が、20世紀の経済成長の中で、効率的で便利な機能を持つ空間での仕事と暮らしの形に組み替えられていったのです。
さらに技術の進歩も伴って、それぞれが“機能別”に、高度に専門化・特化していった。それによって便利になっていく。それこそが“豊かさ”なのだという価値観を追求してきたのが20世紀だったのだろうと、思うわけです。そうやって“機能別”で進めることに価値が見出され、効率化していこうという方向へどんどん進んでいった。そして役所の組織も財政・予算のシステムは、いまだに事業別で、施策の目標を設定して、KPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)で数値化していって、一機能・一事業みたいな仕組みになっています。そうやって進んできたこれまでのあり方を、これからどう変えていくかが、まさにいま問われているのです。


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その点では「地域づくり」、とりわけ対人サービスの部分を、福祉とか子育てといったところでの「地域づくり」も含めて、行政はそこをどういうふうに総合的な仕組みとして再編できるか。仮に行政が機能別だとすれば、その縦割りのものに住民とかNPOとか町内会・自治会で横串を入れる。トータルに組み直すように民間の活動とうまく連携することで、トータリティを確保できる仕組みを作れるのか。そこがたぶん問われてくるのだろうと思います。


--そうした実例を、「地域づくりアーカイブス」では、動画での紹介を通じて、それぞれの地域で活用していただけたらと思っています。

沼尾氏 「地域づくりアーカイブス」で紹介されている事例はいずれも、キーパーソンだったり、キーになる機関があって、縦割りのものに上手に横串を刺せている事例だと思います。行政にそういうことをやれる職員がいるのか、NPOがあるのか、町内会・自治会に力があるのか、地域にどういう人や組織、資源があるのかということによって、それぞれ異なるでしょうね。縦割りに横串を刺していく方法を考える場をどう持っていくか。関係のつながり、チェーンみたいなものを取り結んでいく。それがたぶん、これから求められているソフトの意味での公共空間構築なんじゃないかと思います。それがいま、地域づくりに求められている大変重要な課題だと思います。

とはいえ、非常に難しい問題もあります。個人や地域が機能別に成り立っていると、他のところが見えなくなってくる。自分を中心に物事を考えるようになると、社会の分断が起きてくることになります。例えばイギリスのEU離脱の話でも、イギリスの「3つの分断」が露わになったと指摘されています。ひとつは、富裕層と貧困層の間の分断。もうひとつは、高齢者と若年世代の世代間の分断。3つ目が、地方と都市部の地域の分断。
これは日本でも全く同じようなことが起っていて、例えば、かつては高度成長期に地方から都会に来た人たちが数多く都市部に住んでいるので、地方交付税を地方圏の自治体に配分してもそれ程“文句”が出なかった。しかし最近は、首都圏で生まれ首都圏で育った人も多い。そんなことから、地方交付税の地方配分に対して“文句”が出るようになってきた。それだけにとどまらず、例えば「一票の格差」という課題においても、人口の少ない地域では、もはやひとつの県で一人という国会議員定数枠も無くなってしまった。
一人一票で人口割りしていくと、どうしても都市部の意見が強くなるという結果になりますよね。それがさらに進んで行ったらどうなるでしょうか。これからますます財政が厳しくなっていった時、地方交付税で全国どこでも標準的な行政サービスを担保するための財源保障をしようという国民の合意が、どこまで維持できるのだろうかと。この点が、大変心配な問題です。


--「ナショナルミニマム」(国家が国民に対して保障する生活の最低限度の水準)を、私たち一人一人がどう考えていくべきかが問われている?

沼尾氏 「ナショナルスタンダード」と言い換えてもいいのですが、それを今までのような“機能別”の発想で個別の機能で効率的に達成しようとすると、どうしても規模の経済性を発揮せざるを得なくなります。結局、合併や広域化、あるいは民営化という方向に行くことになるわけです。例えば総務省は「連携中枢都市圏」をつくって、人口20万人の都市を拠点に、周辺とネットワークで結び、中核的な機能を集約する方向性を打ち出しています。それに要する財源として、地方交付税は連携した地域の中心部に渡すので、その先は地域内で話し合ってやっていきなさいというやり方をしていくわけですね。
けれども先程ふれたように、人々の暮らしというのはものすごく多層で多様であり、それらが連関しながら成り立っているものなのです。ですから“機能別”に効率化していくことが、本当に暮らしの豊かさを生むのかというと、それはわからないわけです。むしろ小規模なところで、例えばひとつの施設に図書館も、子育て機能も、高齢者の見守りも、農産物の直売所も、いろいろな機能を全部置くといったかたちにして、「範囲の経済」で効率化するというやり方もあるわけですよね。実際にその地域で暮らしている人たちからすれば、“機能別”に特化した施設があちこちに分散してあるよりも、そこ行けば何でもできてしまうというような場所がひとつあるほうが、ものすごくいいわけですよ。そういうトータルで「何でもあり」というような仕組みは、小さな地域の人々にとってすごく利便性にかなっている。そういうものを模索していくのに、適切な規模とか単位というのがあると思うのです。

“機能別”タテ割り社会に「ヨコ糸」を通し、縦横無尽の安心ネットを張る③に続きます

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インタビュー・地域づくりへの提言

沼尾波子さん

1967年、千葉県生まれ。日本大学経済学部教授。専攻は財政学・地方財政論。日本地方財政学会理事、総務省過疎問題懇談会委員、東京都税制調査会委員などを歴任。慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程修了。 学生時代に中国河南省に留学。都市と農村との生活水準のあまりのギャップに仰天しつつ、それぞれの地域特性を踏まえ、地域に根ざした人々の暮らしを支えられるような社会経済システムのあり方について考えるようになる。多様な地域があり、多様な人々が共存できる社会経済のあり方について、先駆的な地域づくりに取り組む地域への訪問を続け、地域の社会経済構造と自治体財政のあり方について研究・提言を続ける。主な著書に「交響する都市と農山村 対流型社会が生まれる」(農山漁村文化協会)など。

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