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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年08月05日 (金)

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ②【社会学者・萩原なつ子さん】

※ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ①はこちらから
日本創成会議が2014年に発表した報告で「消滅可能性都市」に指定された東京都豊島区。これをうけ、20~30代の女性の声を積極的に拾い上げる「としまF1会議」という仕組みをつくり、そこから提案された事業に予算をつけ、政策として実行しました。

提案をつくっていくにあたり重要視したのは思いつきではなく、徹底した調査・研究をベースにしたこと。
自分たちの地域の課題について、住民たち一人ひとりが自ら動くことが重要といいます。

-- 調査・研究と言われると、なかなか簡単にはできないのではと思ってしまいますが。

萩原氏 そう思うでしょう?けれども、そんなことはないんですよ。かつて私が財団法人のアソシエイト・プログラム・オフィサーをしていた時に担当していたのが「身近な環境をみつめよう.市民研究コンクール」です。1979年~1997年まで続いたプログラムですが、調査・研究の主体は住民です。地域には多様な立場の人がいます。多様な能力を持っている人がいます。調査・研究のキーワードは「不思議がる、調べる、見つめる、歩く、考える」などです。そこから課題を発見して、解決策をみんなで考え、実行することなんです。そんなに難しいことではありません。

「としまF1会議」は豊島区の施策を「見つめる、調べる」ことも、提案のためには必要不可欠でしたから、区の職員のメンバーやアドバイザーを通して、横串を刺すことが重要だったんです。つまり、地域でどういう街づくりの施策がされているのかっていうことを知らないと、提案もできないですよね。例えば子どもをめぐる課題についてとなると、どうしても「子ども家庭部子ども課」が担当になっちゃいますけれど、お母さんたちにしてみると、子どもを公園で遊ばせるときに、ここは遊ばせるには危ないので何とかしたいとか、そういう課題を解決したいという場合もあるわけですよね。すると「都市整備部公園緑地課」とつながらなきゃいけないのです。
「女性の視点」というのは、女性だけから見ているわけではないんです。固定的な性別役割分業がまだまだ根強いですから、女性は子育てや介護や看護などのケアする役割を担っているので、そういった子どもの視点、高齢者の視点など多様な視点から見たときには、縦割り行政ではなかなか解決に至らない。困るわけですよね、全部関連することなので。
それで、メンバーは積極的に区役所の、関係する部署に聞き取り調査に行ったりしたんです。その際、会議の担当の豊島区男女平等推進センターがコーディネーターになって、関連する部署に声掛けをして一緒にディスカッションする場を設けることもありました。その効果として、行政内部の縦割りが変わり始めたようです。今まではそれぞれが縦割りで「うちはこれ」ってやっていました。それが、「うちでもこういうことやっている」とか「ここをやっている」とか、「じゃあ、ここを一緒にすれば効率的だね」となっていったり。だから、区の課長さんとか、行政職員の方に加わってもらうというのは、横につないでいくためにはやっぱり大切なことで、それを今回はできたっていうことですよね。特に区の管理職がアドバイザーに入ったことも重要なポイントでした


--行政では良かれと思ってやっていても、なかなか住民のニーズと合致しなかったり。あるいはそもそも行政の施策自体が知られていなかったり。

萩原氏 私は宮城県庁で2年間の行政経験をしていたので、これが大きかったです。何かを始めるにあたっては、相手=行政を知らないといけないので。地域づくりで一番要なのは、やっぱりいろいろなステークホルダー(利害関係者)と、どうつながるかというところですから。行政のやっていることに対して、反対するだけじゃダメなんですよね。対立からは何も生まれませんから。
今回、非常に面白かったことがひとつあるのですが、行政だって地域の皆さんのためにと頑張っているのだけれども、行政内部で「これが大事だ」って上に挙げていっても、「そんなもの住民は望んでない」って一蹴されてしまうこともあるんだそうです。「それはお前の考えにすぎないだろう」と。だいたい、矛盾するようですけれど、住民たちがどのような思いや考え方をしているかということを、職員の方たちが直接聞く機会って、そうそう無いじゃないですか。だから知らないということもあるんですよね。住民の声といっても「どうせその人の個人的なものでしょう」ってなっちゃう。
ところが、「としまF1会議」では、しっかりと調査をしてニーズを掘り起こして提案しているわけですから、説得力がありますよね。「こういうものが大事だ」って言ってくれたわけじゃないですか。「そんなの住民は望んでない」とか、「それは本当に住民の声なのか」とか言われて、「はい」ってなっちゃっていたのだけれど、今回は具体的なことを言ってくださったので、非常に施策にしやすかったと言うんです

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12月に「としまF1会議」の具体的な提案のプレゼンテーションを行いました。最終的に11事業、予算8千800万円で実際に動き始めるかたちになりました。

その11事業とは―、

①「子育てナビゲーター」を区役所新庁舎に配置して、妊娠期を含めた子育て期間中の相談に対応し、必要に応じて関係化へ案内・斡旋を行う。(約1千400万円)
②区役所新庁舎に健康推進課・地域保健課の窓口を設置し、母子手帳交付などの利便性を向上させる。(約2千700万円)
③仕事と子育ての両立を目指し、小学校の新一年生が対象の延長保育を、現行の4施設から8施設に倍増。(約50万円)
④自然や道具を使い工夫して遊びを作り出せる「プレーパーク」の開設時間・曜日を拡充し、出張プレーパークも実施する。(約2千100万円)
⑤住む・育てる・働くが出来る町のコミュニケーションの場としての理想の公園をめざしワークショップで改善策の実現を目指す。(600万円)
⑥区内事業所の社長100人が参加して、ワークライフバランス実現のため、実態調査やニーズの把握を行い、意識改革などを行う。(約136万円)
⑦子育て中も働きたい女性たちのため、空き家・空き店舗を利用したサポート施設を設置し、女性の暮らしや健康についての出張講座も開催。(約26万円)
⑧女性を対象とした起業塾や交流会を行い、豊島区の女性企業家を育成・輩出する。(96万円)
⑨豊島区はソメイヨシノ発祥の地であることから、ブランドづくりの提案や、区内外への発信を行っていく。(120万円)
⑩子育て世代向けの住宅や、子育て支援の拠点として空き家を活用していくため、リノベーションスクールやセミナーを開催し、空き家物件オーナーへの普及・啓発、家守事業を志す人の育成を行う。(約2千900万円)
⑪「情報弱者のために読みやすく手に取ってもらえる広報紙」となるよう、広報誌のデザインや発行形態を刷新する。(約520万円)

 

萩原氏 ①の事業においては、区役所の本気度を感じた出来事がありました。会議のメンバーたちは「子育ての相談に応じてくれる、子育てナビゲーターが必要」、「情報が得られたり相談ができる、子育てインフォメーションセンターをつくってほしい」という提案を出したら、区長がすぐに反応したんです。ちょうど区役所の新庁舎がオープンするタイミングで、その新庁舎はもうほとんど完成しちゃっていたのですが、その中の会議室を壊して、「子育てインフォメーション」を設置したんです。もうほとんどできあがっているところに作るわけですから、その意思決定は大変だったみたいですよ。それがまたメンバーにとってみると、「あ、区長は本気だ」っていうことになるわけですね。

こういう会議の中でプレゼンテーションされたものっていうのは、ある種の「公の効力」といいますか、そういうものを持つんですよね。「としまF1会議でこういう提案がされていましたので、これ、もう取り入れていきませんか?」みたいな感じで、個別ケースで言うのとは全然違うんですよ。それで結果として、自分たちの提案が取り上げられていくことによって、メンバーたちは「え?区役所も本気じゃん!」と手ごたえを実感するようになっていったわけです。「行政のそういう姿は初めて見た!」って。いつもは、「いや、できません」ばっかりだったのが、取り入れてってくれるじゃんって。まちづくりとか地域づくりをやっていくとき、関わっている人たちが「どうせ言ったってダメ」じゃなくて、「言ったことが、なんだか実現していくね」っていう希望を持てたというのは、とても大きいことですよね。
ですから私は、具体的な提案をしていくときに、実現可能性が高いものを出していくことはものすごく大事だけれども、それだけじゃつまらない。「こういうふうにしたいな」っていう夢でいいんです。でっかい夢も語りましょうと。そのうえで、とりあえずこれはすぐにやったほうがいいとか、こっちはじっくり育てていこうとか、そういう順位をつけながらやっていけばいいのです。
上に挙げた内の⑨の事業は、そんな夢から始まったんですよ。豊島区ってソメイヨシノ発祥の地なんですね。(※江戸時代の染井村、現在の豊島区駒込地域が発祥と伝えられる)なので、女性のメンバーは、みんな何か桜色を身に付けようって。提案の中には、豊島区改め「さくら区」というのもあったんですよ!これはね、いまのところは実現していませんが、夢がありますし。

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ③」に続きます

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インタビュー・地域づくりへの提言

萩原なつ子さん

1956年、山梨県生まれ。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。環境社会学、男女共同参画、非営利活動論等が専門。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了。博士論文では多くの市民活動団体の取り組みを分析。現在も様々な分野の人々との広範なネットワークを活かし、ユニークで斬新な企画・社会システムを提案し続けている。主な著書に『講座 環境社会学 環境運動と政策のダイナミズム』(共著・有斐閣、2001年)、『ジェンダーで学ぶ文化人類学』(共著・世界思想社、2005年)、『市民力による知の創造と発展-身近な環境に環する市民研究の持続的展開』(東信堂、2009年)、『としまF1会議 消滅可能性都市270日の挑戦』(生産性出版、2016年)など。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、東横学園女子短期大学助教授、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学環境情報学部助教授等を経て現職。認定特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事。

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