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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年08月08日 (月)

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ③【社会学者・萩原なつ子さん】

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ②はこちらから

「としまF1会議」のメンバーは、「不思議がる、調べる、見つめる、歩く、考える」をキーワードに“自分の住んでいる町”を調査。その提案をより強固なものにするため、関連部署がディスカッションできる場を設けました。そうして制作された提案から11の事業が実際に動き始め、区役所も“本気”で対応。少しづつ実現していきます。

--先ほど、「この地域を良くするのは誰がするんでしょう。自分でしょう」という言葉にグッと来たという話がありました。その気持ちを持てるかどうかが、大きいのですね。

萩原氏 そうなんです。その気持ちを持てていれば、またどんどんつながっていくんですよ。「としま100人女子会」でも「としまF1会議」でも、ここで出会った方たちが、またその先でさらにつながっていっているわけですよ。メンバーの中には、民間企業の第一線で働いている女性もいたりするので、企業とのつながりも生まれたり。例えば「としまF1会議」に参加していた大手百貨店に勤務している女性が、最近、区役所の女性のクールビズというアイデアを区役所の方と議論されています。他にも、「やっぱりいつになっても勉強していきたいよね」という思いが提案となって、それが会議を通じて教育関係の大手企業とつながり、「100人ママ会」を実施したり。そこから提案された「1dayカレッジ」を実際にやることになったり。今度また9月3日にやるんですよ。その企業と立教大学と豊島区の三者協働で。そういう学びは自分を高めることでもあるけれども、結果として地域の地域力を高めていくことにもなりますよね。

 

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いま挙げた例は、どれも会議から出てきた提案や、メンバーだった人のアイデアを具体化しているものです。住民あるいは女性たちの考え、これを反映していっている。それでその提案を実現させていくためには、どういったところと結んでいけばよいのか。ここと、こことを“ノットワーク”する。ノット=結び目を作っていきましょうということです。「としま100人女子会」」や「としまF1会議」でゆるやかなネットワーキングができて、課題解決のために関係する人や組織が結ばれる“ノットワーキング”ですね。会議をやることによって、まずは緩やかなつながり=ネットワークが生まれましたと。それで、いろいろな課題が出てきたときに、ああそういえばあの人がいた、あの組織があったというので、そこを結ぶ=ノットワーキングですね。
そうやって結んだことによって課題が解決したら、結び目をほどくんです。私はそれを「結んでひらいて」方式と名付けてます。「結んでひらいて 手を打って 結んで」みたいなね。そして結果につながったら「またひらいて」で、「じゃあね、またなんかやろうね」みたいな感じです。

ネットワーキングっていうのは、そのくらい緩やかなものでいいんですよ。知り合うということで。今回も住民、行政、企業と、いろいろなところが知り合ったことによって、課題が出てきたときに、あの時あんな人がいた、あんな意見が出てたって。それが結果として、その後にいろいろなことを生み出していっているんです。
これは行政職員にとってみても、非常に大きな財産になったみたいですね。自分たちだけじゃないんだって。地域をつくっていくのは、みんなでつくっていく。それが今回、実感できたと思います。今までだったら、どうしても住民と行政が相対することになる。そうじゃなくて、同じメンバー同士としてテーブルに並んで行政の課長さんが座っていたりと、対等で座っているわけですよ。そして、「実はね、こんな悩みがあるんですよ」とか課長さんが言い始めると、メンバーの女性が「そうなんですか。それはね…」と言って対等に語り合ったりして。理念ではなく、「協働」とか「連携」が、本当に実感できたと思います

それで、一番大きく変わったのが広報ですよ。区の広報誌が大きく変わっちゃいました。まず、会議を通じて、メンバーのみんなが行政の中にどんどん入っていくようになりましたよね。これまでは区役所に行くっていったら、証明書なんかをもらいに行く時だけとかじゃないですか。そうじゃなくて、「どう自分たちが地域をつくっていくか」ということで初めて入ったわけですね。そして施策を見ますと、「え?豊島区もなかなかいいことやってるじゃん!」ということに気が付くんですよ。「こんなことやっているなんて知らなった。知らなかったって、どういうこと?広報の仕方が悪いのかも」となったわけです。本当にほしい情報が届いていない。
そういう視点から広報誌を見ていったら、色々な情報がみんなごちゃまぜじゃないかと。子育て中の人は子育て関係のことが特に知りたいだろうし、高齢者だったら高齢者に関係する情報が知りたいだろうし。そういう特集版を作っていったらどうだろう。今のままだと読みにくいから、こういうA4判にしてみたらどうだろうとか。あとホームページが今のままだと見にくいとか。会議では広報のあり方もテーマのひとつになって、そのテーマを選んだメンバーたちが、いろいろなアイデアを提案していくんです。メンバーの中に、偶然、私が以前、内閣府で一緒に仕事をしたことがある広告代理店勤務の女性がいらして、「なんでここにいるの?」って聞いたら、「あのね、実は私、豊島区民だったの」なんてこともありました。
会議のメンバーは、豊島区に在住・在勤・在学の方ならOKなので、その女性のような広報のプロフェッショナルがいれば、私が教えている立教大学の院生もいるし、その会議には広報課長の矢作さんも入っていたから、判断もその場ですぐにできて、どんどん意見が取り入れられるんですよ。やっている間に広報誌が目に見える形で変わっていった。メンバーたちにとっては、自分たちの提案が「見える化」するわけじゃないですか。それでまたやる気が出て。


--そのスピード感はすごいですね。普通だと議会を通してとか、パッと言ったことがパッと施策に反映されることはあまりないですよね。

萩原氏 ないですよね。特にお金がかからないこと、アイデアベースのことだったら本当にOKなんですよ。広報を変えるとかはアイデアベースのことなので、ほとんどお金がかからないですからね。議決もいらない!
区の方としても、タイミング的にちょうどホームページをやり直そうと思っていたところだったから、アイデアをどんどんもらえたっていうことになりましたし。

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私がいつも言っているのは、何かをやろうとすると、すぐにお金がないっていう方に行っちゃうんだけれど、そうじゃないと。お金がないからスタートするのではなくて、まずお金は無限大にあると考えましょうと。それで、まずはアイデアを出す。お金はこれだけしかないので、その範囲で考えてくださいっていうのでは、これはもうつまらない。アイデアだってその範囲の中のものしか出てきません。だからもう無限大で考えましょうって。
私がそういう考え方を学んだのは、北海道の旭川市にある旭山動物園の園長・坂東元さんに、その話を聞いたからなんです。以前、私は、坂東さんや元飼育係で今は絵本作家のあべ弘士さんたちと、天売島という同じく北海道にある小さな離島で「宇宙塾」というのを5年間やっていたことがあります。(「宇宙塾」=天売島がある羽幌町の離島交流活性化推進協議会と旭山動物園などによる小学生から中学生が参加対象で、海鳥ウォッチングなどの自然体験やワークショップに参加するイベント)その時に聞いた話なんですよ。

旭山動物園って16年間、予算がゼロだったらしいです。普通だったら困っちゃうんだけど、坂東さんたちは「予算ゼロっていうことは、無限大ってことだ!」と考えを変えたんですって。そうしたら、そこからもうバンバンみんなのアイデアが出てきて。飼育係の人たちは、看板を作る予算が無いのなら自分たちで作ろうって手書きの看板を作り出して。動物をいちばん知っているのは飼育係だということで、お客さんに飼育係が説明するようになり、そうしたら飼育係のファンができちゃったり。そんな姿をみて、地域の住民も心が動いたんですね。「私たちの動物園だ」と思い始めるようになって、駐車場の管理をボランティアでやり始めたり。

その話を聞いていたから、お金じゃないよね、アイデアで変えられることもあるよねって。予算をつけてくださいっていうのはもちろん大きいけれども、予算だけじゃなくて、いろいろなアイデアを交換することによって、そこに相互作用が起きてくるわけじゃないですか。それこそ化学反応が起きて。それで、まあ今年はダメかもしれないけれど、いつかはそのアイデアに行政職員の誰かが「ああ、あの時にこんなアイデアがあった」と気付いて反映してくれるかもわからないじゃないですか。お金が発生してくることについては、それこそ議会で議決しなきゃいけない問題になりますけれど、そうではない裁量の中でできるものに関しては、取り入れていくこともできますよね。それが実現して可視化されることによって、関わった住民たちのやる気にも火がついていきますし。もちろん首長に会うたびに「ちゃんと予算つけてくださいね!」とは言いますけれどね。(笑)

--それがまた、スピーディーに何でもできるということに繋がるのでしょうね。
萩原氏 そうです。だから「としまF1会議」のF1には、「フォーミュラ1」のF1も掛けているんです。それから、幸福=フォーチュンのFと、未来=フューチャーのF。女性=フィーメールのFと合わせて4つのFですね。みんな掛けちゃえ!って。楽しく、楽しくですよ。

メンバーのみなさんは、仕事をしながら調査・研究をすることになるし、本当に大変なんです。毎月、毎月、会議でプレゼンテーションをやっていくんですが、その間にみんなあちこちへ調査に行くんですよ。ある方は北九州まで行っちゃいました。北九州は空き家のリノベーションの先進地ということで視察に行っちゃったんです。あるいは、子育てについてのナビゲーションでは、横浜市の戸塚区が進んでいると聞きつけると、早速、調査に行かれたり。
あと、豊島区の公園を自分たちの目線で見たとき、どんな評価になるのかということで、実際にランク付けをやってみたりなんてこともありました。それによって、いま区内の公園は大きく変わり始めています。とにかく誰が行っても危なくない、安心・安全な公園でなければならないよねと。子育て中のお母さんだけじゃなく、高齢者にとっても、障害者にとっても、いろいろな方にとって優しい公園というのは、みんなにとっても優しいってことになるじゃないですか。で、結果として地域自体も非常に明るくなっていくことにもなるので。具体的な提案がどんどん出てきて、まずはトイレをきれいにしましょうと。これからトイレが、どんどんすごくきれいになっていっちゃいますよ。それから、元々、区の庁舎があったところが、文化都市ということで劇場が8つぐらいあるきれいな劇場街になるのですけれど、そこにもきれいなトイレが全部できるんですよ。子ども連れのパパやママが安心して使えて、パパやママだけじゃなくて、誰が来てもそこで着替えもできるようにするとか。そういうところにもメンバーたちの提案が、かなり取り入れられているんです。

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こうした豊島区での取り組みは、全国的にもどんどん知られるようになってきていて、先日は新潟県魚沼市の方が来られました。その時「魚沼でも、ぜひ100人女子会をやりたいんですが、100人も女性がいません。特にF1層(20~34歳の女性)はいません」と言われたんです。いいんですよ。F2(35~49歳の女性)でも、F3(50歳以上の女性)でも、その上のF4だっていいんです。「としまF1会議」でも、“元”F1の方ももちろん入っていますし。なんやかやで、みんなが全部つながっていっちゃえばいいんです。

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ④に続きます

インタビュー・地域づくりへの提言

萩原なつ子さん

1956年、山梨県生まれ。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。環境社会学、男女共同参画、非営利活動論等が専門。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了。博士論文では多くの市民活動団体の取り組みを分析。現在も様々な分野の人々との広範なネットワークを活かし、ユニークで斬新な企画・社会システムを提案し続けている。主な著書に『講座 環境社会学 環境運動と政策のダイナミズム』(共著・有斐閣、2001年)、『ジェンダーで学ぶ文化人類学』(共著・世界思想社、2005年)、『市民力による知の創造と発展-身近な環境に環する市民研究の持続的展開』(東信堂、2009年)、『としまF1会議 消滅可能性都市270日の挑戦』(生産性出版、2016年)など。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、東横学園女子短期大学助教授、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学環境情報学部助教授等を経て現職。認定特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事。

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