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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年05月23日 (月)

"定常型社会"の時代へ①【京都大学こころの未来研究センター教授・広井良典さん】

広井良典さんは、公共政策・科学哲学を専攻されていますが、いまの社会が直面する様々な課題、例えば豊かさや富が多くの人に行き渡らずに偏在していることや、これまでのような拡大・成長を絶対的な目標とするあり方について、様々な角度から考察を行ってきました。そして、少し前の時代までは、私たちにとって当たり前に存在していた地域のコミュニティの中に、将来を切り拓くための手がかりが埋もれていると指摘します。

今回のインタビュー、広井さんはいったいどんな発見へと、私たちを導いてくれるのでしょうか。


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--日本のみならず世界各国で、これまでのような経済成長を最大の価値として進んでいく社会システムは、限界を迎えつつあると指摘されています。私たちは、今後、どのような将来像を探っていけばいいのでしょうか。

広井氏  私は2001年に『定常型社会-新しい「豊かさ」の構想』(岩波新書)という本を出しまして、私たちが生きる社会や経済においてこれからも「拡大・成長」をめざしていくのか、それとも「定常型社会」を求めていくのかを問いかけました。「定常型社会」とは、右肩上がりの成長、特に経済成長を絶対的な目標としなくとも十分な豊かさが実現されていく社会のことです。「ゼロ成長」社会といってもいいかもしれません。当時は「定常型社会」なんてものはあり得ないという異論がかなり多かったのですが、最近は「拡大・成長」が望めなくなりゼロ成長でも贅沢というくらい、マイナス1~2%ぐらいがようやくだろうという見方がされるようになってきて、「定常化社会」について改めて真剣に考える必要があると思っています。
ここ数年、人口減少社会というテーマがよく論じられますが、日本の人口カーブは、江戸時代ぐらいまでは大体3千万人でフラットに移行していました。それが幕末の黒船ショックといいますか、その頃からグラフの線が直立するぐらい人口が増加していって、同時に経済も拡大・成長を続けていきました。さらに明治以降は富国強兵、太平洋戦争後は経済成長と、とにかく経済が拡大・成長することが豊かさであり幸せにもなれるのだと、良くも悪くも突き進んできたのがここ100年ぐらいの日本だったと思います。


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けれどもそうした拡大・成長が望めなくなっていく中で、世界では新たな別の指標として、例えば幸福度の研究が具体的な政策も含めて非常に活発に行われるようになっています。その一つとして国連の「ワールド・ハピネス・レポート2016」というものがありますが、そこでの1位はデンマークで日本は53位。ミシガン大学が中心となって行われた2008年「世界価値観調査」の幸福度ランキングでも、1位はデンマークで日本は43位。イギリスの研究者たちが作成した2006年「ワールド・マップ・オブ・ハピネス(=世界幸福地図)」だと、日本は90位といった具合で、経済的な豊かさの割に幸福度があまり高いとはいえない状況があります。いまだに過労死というようなことが言われていたり、日本はとにかく成長ということで走ってきて一定の豊かさは得られたわけですけれども、相当な無理をしてきた面があったのだと思います。

hiroi_001_003.jpg(出所)World Values Survey 2008、World map of happiness2006(広井良典教授)

それから、ちょっと別の角度から見ると、ある意味で皮肉なことにと言うべきか、出生率が都道府県で一番低いのが東京で、一番高いのが沖縄。こうしたことを見ても、“24時間戦えますか”的なライフスタイルでやっていくと、結果的に出生率が下がって人口減少というマイナスの結果になってしまっているということで、これまでの発想を変えて、経済成長一辺倒から「定常型社会」に方向転換していくことを考えるべきではないでしょうか。
人口グラフの線が直立になるくらいに伸びていた時代というのは、言い方を変えると、すべてが良くも悪くも東京や大都市に向かって流れていった時代ということです。今の学生に話しても何のことやらと通じませんが、私が中学生の頃に太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」という曲が、いまで言うAKBどころではない大ヒットになりました。これは、高度成長後期にすべてが東京に向かって流れていったことを歌ったもので、「東へと向かう列車」というように、“東京に向かうことがハッピーになる”というわけだったのです。それはそれで別にいけないわけではなくて、それなりの背景があったのですけれど、ややひとつの方向にすべてが流れ過ぎていた。
ところが、そういう時代が、2005年に初めて人口が減少に転じ、その後、ちょっと上下する時期がありましたけれど2011年からは完全な減少期に入って、グラフで見るとほんとうにジェットコースターのような急降下になって、これまでとは逆の流れが始まるということです。拡大・成長一辺倒から別の価値観なり社会のあり方、すべてが東京や大都市に向かって流れていた時代から別の流れが始まる。いまはちょうどそのスタートラインで、大きくとらえれば、これまでの延長では考えられないような別の流れが始まる入り口の時代と言えると思います。今までが「地域からの離陸」、つまり飛行機が飛び立つように人々が地域から離陸していくような時代だったとすれば、これからは「地域への着陸」というような方向の時代であると思いますし、学生とか若い世代を見ていても、そういう傾向、ローカル志向が非常に出てきているように思います。

--国家が主導して、高度経済成長を引っ張っていった時代とは違うと。
広井氏  そうです。私がよくする話に、“社会インフラのS字カーブ”というのがあります。ちょうどS字のように、最初は緩やかに、そして一気に普及して、また成熟してフラットになるというS字カーブというのがあります。

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※(出所)通産省『創造的革新の時代』、1993年

これを明治以降で見てみるとはっきりおもしろくて、第1のS字カーブが鉄道。鉄は国家なりみたいな感じで鉄道が整備されていきますよね。第2のS字カーブが戦後の高度成長期で、これが道路。自動車とか関連産業と一体となってどんどん日本経済を引っ張っていくし、国土の形を変えていったわけです。それがやがて成熟していって、第3のS字カーブが高度成長後半ということで、これは高速道路とか空港とか公園なんかも入りますけど、そういうものがわりときれいなS字カーブを描いている。
ここで大事なのは、鉄道とか道路、高速道路、空港というのは、ローカルにはプランニングができない性格のものだということです。工業化時代というのは、経済の空間的なユニットというか広がりがナショナルレベル、つまり国レベルに広がっているので、そうなると霞が関で中央集権的にプランニングするのが効率的であったわけです。
ではこれからのS字カーブはどんなものが考えられるかというと、私の理解では、それは福祉であるとか、環境であるとか、まちづくりとか、それから、農業なども重要性が高まっていくと思います。福祉、環境、まちづくり、農業、あと文化なんかもそうだと思いますけれど、これらはどれも非常にローカルな性格のもので、まちづくりはその典型ですけれど、地域をどういうふうにするかとか、福祉や医療にしてもこの地域でどういうふうにケアのサービスが受けられるようにするかということになりますので、問題解決の空間的なユニットが広がりローカルなものにシフトしている。これまでの国レベルから、ローカルへとシフトしているのです。若い世代の関心がローカルなものに向かうというのも、そういう経済構造の変化とも連動していると思っています。

--なるほど。国という単位でやる公共事業的なものが、もう一巡したというか、伸びきってしまったということですね。
広井氏  まさにそうですね。そういう社会経済構造の変化が起きているのです。これは日本に限ったことではなくて、英語で「ローカライゼーション」という言葉がありますように、イギリスでも言われていることであり、国によって多少の温度差はあるかとは思いますけれど、ドイツや北欧といったヨーロッパ諸国は、基本的にそういうローカルな分権的といいますか、地域で経済が循環するという流れは非常にはっきりしていると思います。
それから、さっき第4のS字カーブが福祉・環境といったものになると言いましたけれど、実はもう1つその間に大きくあったのが、やはりITとか情報化。これはもうナショナルというよりグローバルなもので、それが90年代以降、特にワーッと広がっていったわけです。このグローバル化、情報化の流れはいまもまだ相当強いものとしてあるわけですが、インターネットのインフラの普及などを見ても、もうまさにS字カーブの成熟段階にいまだんだんと入りつつあるというふうに言えると思います。
これはちょっとまだ議論があるところですけれども、私は「グローバル化の先のローカル化」というふうに考えていて、もちろんグローバル化を否定する必要はないのですけれど、よく「グローカル」なんていうことも言われますように、グローバル化、情報化の波もかなり進んで、だんだんさらに着陸していくようなローカル化という流れが、いま非常に顕著になっているのではないかと思っています。

"定常型社会"の時代へ②【京都大学こころの未来研究センター教授・広井良典さん】へ続く

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広井良典さん

1961年、岡山市生まれ。京都大学こころの未来研究センター教授。公共政策および科学哲学専攻。東京大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員、千葉大学法経学部教授などを歴任。環境・福祉・経済を統合した「定常型社会」(持続可能な福祉社会)を提唱し、コミュニティや社会保障のあり方から、哲学・資本主義の考察に至るまで幅広く研究を続ける。主な著書に『定常型社会』(岩波新書)、『日本の社会保障』(岩波新書・第40回エコノミスト賞・第34回山崎賞)、『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書・第9回大佛次郎論壇賞)、『人口減少社会という希望』(朝日選書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)。

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