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地域づくり情報局

土佐の森から~未来へのたより

高知県いの町のNPO法人「土佐の森・救援隊」中嶋健造さんたちによる「自伐型林業」での山林・中山間地再生への挑戦。

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2016年11月21日 (月)

自伐型林業は、現行林業と中山間地域が抱える問題点を根本的に解決し、どの地域でも展開できる林業の王道、中山間地域の主産業

私が林業に関わり始めて最初(平成15年前後)に林業視察会に参加した現場が、高性能林業機械を使い生産性を追い求めている新進の素材生産業者が実施している現場、つまり効率重視の強度な間伐(一度に行う伐採量が通常よりも多い間伐)を大規模に進めている現場であった。
仲の良い友人から誘いを受け「林業再生の最先端の現場の視察会」と銘打たれていた。その事業体の事務所で説明を受け、その後現場へ向かった。
そこで見た光景は、静寂な森林からいきなり凄まじい機械音に包まれたかと思うと、伐ったままのスギが、1分もするかしない間にたちまち、設定された長さの丸太に切り刻まれるという作業であった。また我々がボランティアで間伐している現場とは、かなり違う強度間伐された現場でもあった。事業体幹部が説明する態度は自信満々、これこそ林業改革現場であると胸を張っていた。高性能林業機械の作業風景は複数の大型機械で見ている者を圧倒する風景であった。

その光景に視察者は歓声を上げていたが、しかし私には、樹木という生物を扱っているという感覚を失っていると見えた。その現場が活用している事業も「森の工場」という冷たさを感じる事業名であった。この時に「この林業は冷たい、こういう林業ばかりにしてしまってはいけない」という強い意識が生まれ、接し始めたばかりの自伐林業は、小規模ながら生物に優しく、持続的な林業ができるのではないかと直感して、今につながっている。この過間伐(大量間伐)された現場は林内が隙間だらけになり、翌年の台風により山林の残った立木のほとんどが風倒木となって持続性を失った。

本題に戻そう、前回、委託・請負型の請負事業体を主体とした現行林業の問題手を列挙したが(以下に再整理)、
① 「林業は山林所有者にはできない」(林業は山林所有者や地域住民ではできないという一般認識。森林経営が消滅、中山間地域から林業が消え去り、条件不利地農業だけとなり衰退した)
② 「林業は儲からない」(主伐→再造林は大赤字、間伐等の森林整備も赤字、故に林業実施者激減)
③ 皆伐や大型作業道が土砂流出や環境悪化を招く、他、獣害の拡大

自伐型林業がこれらの問題の根本療法となるかが重要である。結論から言うと、すべての問題点を自伐型林業は根本から解決できると考えている。その根拠を以下に説明する。
まず持続的森林経営であるが、自伐型林業はこの視点がないとそもそも成り立たない。間伐を繰り返しながら、残った木の生長を利用し、材積・材質の向上により収入を徐々に増やしていく手法である。細かい立地や地形・土質・気候等を見ながら適木や育林手法を、一つの山の中でも変えながら、臨機応変に対応していく林業である。その山林の知識や経験が必要で、まさにフォレスターであり森林経営である。また林業は季節性があるため地域特性を生かした兼業型になる場合が多く、実に多様な経営が展開されるのである。
次に自伐型林業の展開手法である「長伐期 択伐施業」とは、2割以下の間伐を繰り返しながら、残った木が成長することで次の間伐時(約10年後)には面積当たりの材積を大きくアップさせていく。材積が増えるということは収入も間伐毎に増えるということで、80年を超えてくると質も大幅にアップする。200年スパンで見た場合、50年皆伐に比べ生産量は3~5倍、収入は数十倍になると考えられる。これが、自伐型林業が儲かる大きな根拠である(参照「図:択伐マジック」)。この展開がうまくいった山林は、日本一の天然林と言われる高知県千本山の状態に近づいていることに気が付いた。つまり理想的な天然林は自伐型林業者の目標林となるのである。将来、安定した天然林のような凄い森を創出する林業家も生まれるかもしれない。

20161121_001.png長伐期択伐施業実施者は、間伐を繰り返しながら、何らかの理由で皆伐せざるを得なかった場合は小規模に再造林を行っていく。大規模に再造林をするとコストが高くなり労働力不足といった“再造林問題”が生じるが、小規模な再造林であれば、空いた労働力や時間の中で再造林を行うことができ、長期的な間伐収入内のコストで賄え、経済的にも安定した中で実施できる。


20161121_002.jpg間伐4回実施後の90年の森。材積はhaあたり1,000㎥を超える

20161121_003.jpg 10回目の間伐実施中の130年生の森

 

20161121_004.jpg間伐19回実施後の200年越えの森

自伐に必要な作業道は小規模(2.5m以下)で高密度に敷設(2.5m以下だと林地は減らない)することで、小型機械でも生産性と安全性を確保していく林業である。高密度に敷設された山林では、小型機械でもかなり生産性が上がる。1トンの林内作業車だけて搬出している自伐林家で、「1日7㎥ぐらいであれば十分できるよ」と言う人も存在する。大径木(断面の直径が大きい樹木や、幹が太い樹木)化していることも生産性をあげることにつながっている。
生産性以上に高密度路網(密度高く整備された林道や作業道など)で重要な点は安全性の飛躍的向上である。1haあたり300mを越えた自伐林家の方がしみじみと「haあたり200mを超え始めたころから飛躍的に安全性が向上した。300mになれば三ちゃん林業(じいちゃん・ばあちゃん・かあちゃんでもできる林業)が可能になると確信した」と言っておられたが、実際にこういう山に入ってみると本当にそうだと思えるのである。林業を始める際はきちんとした林業研修を受けるのは当然であるが、危険度が高いとされてきた林業作業を、安全性を飛躍的に向上させる自伐型林業の展開手法は大きな特徴であり、大いに注目されてよい点である。

また小型機械でよいため低投資・低コスト型となり、山林所有者や地域住民等の参入容易性が生まれる。これも新規参入者を増やすには実に重要なことである。使う機械も小さいため山への負荷は小さい。それと最近わかってきた重要なことがある。長年展開してきたベテラン自伐林家の森は、昨今の強烈な豪雨を頻繁に受けても、全国で被害続出の中、不思議なくらい崩壊を起こさないのである。この要因として高密度な小規模作業路網(壊れない道づくり)が効いていることがわかってきた。作業道が谷を渡る際は「洗い越し」工法(谷の水を作業道上に直角に流す工法)を使い、これは砂防工事で敷設する堰堤の役目をする。
幹線作業道(上下に移動する道)から枝状に敷設する枝道(幹線から横に出る道で、実際に作業する道)は、30mピッチ(間隔)にほぼ平行に敷設され、これは山腹工(土砂流出を止めるために山腹を階段状に土砂流出を止める砂防工法)の役目をする。そして、作業道を安定させるために行う「木組み」はアンカーの役目をし、尾根の両側を使いながら登るヘアピンカーブは、水を尾根の両側に分散させる役目をする。haあたりの路網密度が200mを越えてくるとこの機能が徐々に発揮されてくるようである。自伐を展開すればするほど、災害に強い森、災害を予防する森となるのである。幹線は尾根、支線は中腹へという敷設方法、2.5m以下という巾と丁寧な敷設がカギではないかと見ている。
これまでも森林整備することが災害に強い森になるということは言われてきたが、この自伐林家たちの成果はレベルが違うと言える。また一人がカバーする面積は約50ha以上となることも多く、持続性も担保される。この自伐型林業者の成果は環境保全政策としても画期的であると言ってよい。


20161121_005.jpg階段のように入った作業道(山腹工の役目)

また昨今大問題になっている獣害であるが、現在集落以外の山林がすべて獣の生息領域になり、その面積が以前より広くなっているために頭数が増えているのである。自伐林業者が里山に毎日のように入るようになれば、里山が人間領域となり獣が入りづらくなる。これが獣の生息領域を減らすことになり頭数を減らし、また彼らは猟を趣味にもするのである。自伐展開は獣害対策の根本療法ともなるのである。
日本国中の中山間地域で実施されている業は農業である。中山間地域の農業は山間地であるため条件不利地農業となり収入が得にくい。輸入農産物に押され、地域人口も減り、農業人口も毎年減り続けている。つまり、中山間地域の主業は本来農業ではなく林業、それも自ら行う自伐林業なのである。自伐型林業を主業にしながら副業として農業を展開することが、本来の中山間地域の生業スタイルだと考える。そうすれば、年間収入100万円以下の農業が逆に武器になってくるのである。中山間地域の農業の再生は、大規模化や高付加価値化ではなく、自伐型林業との兼業化なのである。中山間地域の観光業もしかりで、林業で生計が成り立つことでグリーンツーリズムも生きてくるのである。
このように自伐型林業は林業だけでなく、中山間地域の様々な問題を解決する根本療法となるのである。どうしてそうなるか、国土の7割を占める森林国であるからである。ここをよくよく考えないといけないと感じる。そろそろ最終章だが、それはまた次回。

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土佐の森から~未来へのたより

中嶋健造さん(NPO法人 土佐の森・救援隊 理事長)

IT、自然環境コンサルタント会社等を経て、2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。現在、理事長。地域に根ざした環境共生型の林業は、山の所有者が自分で伐採する”自伐”であると確信し、「林業+バイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立。森林・林業の再生、中山間地域の再生、地域への人口還流、地方創生、森林環境の保全・再生等のために、自伐型林業の全国普及にまい進している。

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