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土佐の森から~未来へのたより

高知県いの町のNPO法人「土佐の森・救援隊」中嶋健造さんたちによる「自伐型林業」での山林・中山間地再生への挑戦。

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2016年10月11日 (火)

日本の林業と中山間地域の問題点

私が、自伐型林業を始めた原因の一つは、現行林業への疑問や違和感を強く感じていたからである。「山林所有者や地域住民は林業への意欲がなく、林業はできない」という認識。「農業はやっているのに、なぜ林業はやらないのか」単に危ないからだけとは到底考えられなかった。だから自分で林業に取り組んでみた。当然危険はあるが、どこに危険があるか認識していれば、われわれの力で林業が可能であることを証明できた。また、働きかければたくさんの人が興味を持ち、一緒に参加してくれることもわかった。

 

「高性能な林業機械がないとできない」という認識も一般にあるように思う。高性能な林業機械が入っている現場を見た。山を征服するかのような威圧感。木を生物ではなく「物」として扱う傲慢さを感じた。列状間伐(山林を列状に分け、その列に入った木を全伐する手法)を遠目で見たときに、バカでかいケジゲジが山を壊している(列状間伐を遠くから見たり、衛星写真を見ると、大きなゲジゲジが這っているように見える)感覚を持った。

こんな大きな機械が本当に林業に必要なのか。こうした疑問を元に小さい機械で実践してみると、十分に材木を搬出できた。逆に小さいほうが、コストが安く採算が合うこともわかった。小規模な作業道(幅2.5m以下)を路網のように敷設することが、小さな機械で森林施業を効率的に実施するコツであることも分かっ。そして、それが危険とされる林業の安全性を飛躍的に向上させることも分かった。環境負荷は小さい機械の方が小さいことも分かった。長年使う道として、水処理をきちんとして造られた作業道は予防砂防、予防治山になることも分かってきた。

20161011_001.jpg 皆伐地の作業道崩壊


実践の中で行き着いた私論として、日本の林業と中山間地域の現状を俯瞰的に簡単にまとめてみたい。これまで学者中心の林業論とは明らかに違うと思っている。

日本の森林率は7割(農地率は12%)、温帯地域に位置して雨も多く(ヨーロッパの3倍以上)、樹種も多くよく育つ。本来、世界の林業をリードする大産業が存在していてしかるべきだが、現状は衰退産業の代名詞的状況。GDPは1800億円(平成26年:農林水産省発表)と小さい(日本全産業では486兆円)。国等による投資額は約2500~3000億円とされ、投資額より生産額が少なく、産業の体をなしていない。森林面積が日本の4割しかないドイツの林業GDPは880 億 ユーロ(1兆2千億円)で、全GDPの5%を占めており、日本の約7倍である(面積当たりでは15倍となる)。林業&木材産業の就業者100万人以上で自動車産業より多い大産業を形成し、日本と比べ面積当たりの就業者は10倍以上、素材生産量も4倍という状況。ドイツより樹木がよく育つ環境にあり、同じ先進国である日本は、ドイツと同規模かそれ以上の(100万人以上の就業力のある)林業・木材産業が存在してしかるべきである。林業・木材産業は中山間地域産業であり、疲弊著しい中山間地域にとって、この産業喪失が地域の疲弊、農業の衰退に直結しているといえる。

日本の林業は、世界的に見ても好立地に位置しているにもかかわらずなぜ衰退産業化したのだろうか。

まず、戦後の中山間地域政策は農地率1割の農業中心に展開され、7割の森林を使う林業が軽視された。また、ほぼ同じ地域で展開されているにかかわらず、農業と林業が農水省内の縦割り行政の中で分離された。

次に、昭和39年の木材自由化を受け、大規模化が志向され始め昭和40年以降は山林所有者や地域住民が林業を実施するのではなく、森林組合(専業事業体)が請負で一気に実施する形が一般化し、山林所有者や地域住民が実質的な林業から切り離された。これにより機械力等のある各地の森林組合が独占する形となり、競争のない「ぬるま湯」の状態になったといえる。またこの所有と施業が分離されたことによる最大の問題点は、日本林業から森林経営の実質的消滅につながったことである。山林所有者は森林組合等へ丸投げすることから木材情報等にも疎くなり森林経営から自然に離れていった。では請け負う森林組合が森林経営をやってくれているかというと、そうではなく彼らは木を伐ったり、搬出したりという伐採業や素材生産業を山林所有者から請け負って実施しているのであり、固定した山林の森林経営を実施しているのではないのである。山を変えながら伐採業を展開しているのである。森林組合がカバーしている面積は複数市町村にまたがっている場合も多い。つまり、伐採業の企業経営と森林経営は全く別物で、森林経営の消滅は森林の劣化や消滅にもつながると危惧する。最近、この伐採業の企業経営が継続することを「持続的森林経営」と言い換えていることが多く、この使い方は大いに問題があると思っている。

こういう状況に加え、平成に入ってから木材の需要減や木材需要構造が変化し、原木価格が4~5分の1に下落するという環境激変が起った。これに対応するには根本的な林業手法の改革が行わなければならなかったが、根本療法は実施されず、ただ補助金の増額という対症療法的な対策ばかり実施され、環境対応力のあるレベルの高い林業への脱皮ができないまま今日に至ってしまった。

また、材価が下がり、売り上げが下がっているにもかかわらず、大規模化の中で、大型機械化・高性能機械化だけは推進され、高投資・高コスト型となり、この高コストが山への負荷へつながり、列状間伐や過間伐(大量間伐)+荒れたままの作業道、さらに皆伐などの荒い施業が急増している。
これにより、土砂流出が起こりやすくなり、環境悪化が顕著になり、特に重要な持続的・永続的森林経営が不可能となる山が増えていることが何よりもまずいと感じるのである。山の劣化という、何とも深刻な状況といえる。


20161011_002.jpg 過間伐&荒れた作業道により持続的森林経営不可能となった森林

そしてこの木材価格は、現在一般化している50~60年という短い期間で皆伐・再造林する手法を破たんさせた。主伐(成熟した木を伐採)・皆伐(対象区画の木をすべて伐採)による収入で、造林・育林費用を賄うことができず、大赤字になるということである。ちょっと足りない程度ではなく、収入の何倍も費用が生じているのである。国有林の赤字拡大や、県行造林や大山林所有者の経営破綻したのはこれが主原因である。つまりこの手法は低価格時代には不可能であるのだが、問題は、この不可能な手法をいまだに高額補助金を積んで、存続させ続けているという点である。

木材需要面では、付加価値のある需要(無垢材利用等)の維持や新規需要開拓(家具や海外需要等)がされなくてはいけなかった。しかし、向かったのはB材(低質原木)を素材とする合板・集成材需要ばかりであった。現在、住宅に使われる建材のうち9割が合板・集成材となっている状況だ。この構造が原木価格を超安値安定させた主原因である。

このように日本林業は、問題山積という状況である。以下は上記のまとめである。

① 林業が農業等の中山間地域産業と分離された
② 山林所有と林業経営が分離され(所有と経営の分離政策)、山林所有者は林業せず、森林組合に委託することが一般化し、森林組合が独占する状況になった。これにより地域住民と山林所有者が林業から切り離され、経営意欲や知識を失った。林業から森林経営が減退し、伐採業・素材生産業ばかりになった。
③ 戦後政策的に短伐期(50~60年)で皆伐・再造林型の林業一辺倒に誘導したが、材価下落により、再造林の採算がまったく合わなくなり、国有林や県行造林(市町村や個人などの所有地に県が造林)・山林所有者が大赤字になり、森林経営者の破綻が続出した。
④ 施業を大規模化させる政策により、高投資・高コストとなる高性能林業機械が導入され、さらに採算性が悪くなり、山に負荷をかける施業が一般化し、環境破壊・土砂流出する森林、持続性を失う森林が急増中。

20161011_003.jpg作業道崩壊

20161011_004.jpg 皆伐跡の土砂流出@高知県(グーグルアースより)

 

この問題点を、自伐型林業が解決できるかが重要である。それはまた次回。

「自伐型林業は、現行林業と中山間地域が抱える問題点を根本的に解決し、どの地域でも展開できる林業の王道、中山間地域の主産業」に続く

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土佐の森から~未来へのたより

中嶋健造さん(NPO法人 土佐の森・救援隊 理事長)

IT、自然環境コンサルタント会社等を経て、2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。現在、理事長。地域に根ざした環境共生型の林業は、山の所有者が自分で伐採する”自伐”であると確信し、「林業+バイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立。森林・林業の再生、中山間地域の再生、地域への人口還流、地方創生、森林環境の保全・再生等のために、自伐型林業の全国普及にまい進している。

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