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持続可能な地域づくりへ!LOHAS & Sustainable style

日本にLOHAS(ロハス)を紹介した先駆者・大和田順子さん。人・地域社会・地球が健康になれる取り組みの最前線リポート。

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2016年08月18日 (木)

山あいの青空に昇る竜。椎葉村の焼き畑・火入れ ―世界農業遺産 高千穂郷・椎葉山地域の新たなとりくみ(第2回)―

「このヤボに火を入れ申す
ヘビ、ワクドウ(蛙)、虫けらども、早々に立ち退きたまえ
山の神様、火の神様、どうぞ火の余らぬよう
また、焼き残りのないよう、お守りやってたもうれ」

椎葉勝(しいば・まさる)さん(63歳)は山の神にお神酒を上げた後、山に向かって火入れの唱え言(となえごと)を発しました。その後、乾いた竹の先に火を付けたものやバーナーで山に火を付けます。1,000年以上続く焼き畑の火入れです。

8月3日、晴天。宮崎県椎葉村尾向地区、標高900メートルの山中で、古来より続く焼き畑の火入れが行われました。
今回は世界農業遺産に認定されてから初の火入れということもあり、「焼畑蕎麦苦楽部」(やきはたそばくらぶ)のメンバーや地域の人たち20人を始め、近隣の町村や宮崎市内、遠くは京都、東京、岩手などから90人ほどが見学に来ました。新聞各社やテレビ局も取材に来ていました。

001_P8031696.JPG山にお神酒を供え、唱え言をする


002_P8031704.JPG参加者も全員お神酒をあげる

循環型の農法と森づくり


伝統的農法である椎葉の焼き畑は、30アールから1ヘクタール程度の小規模な範囲で森林を伐採し、木材を搬出、下草を焼き払って耕地を形成し、初年度はソバ、2年目にヒエ、アワ、3年目アズキ、4年目ダイズを栽培した後、20年から30年程度の休閑期間を設けて森林に戻し、地力が回復した後、再び焼き畑を行う循環的な農法です。 

焼き畑は、かつては西日本、日本海沿岸地域を中心に全国の山間地で行われていましたが、戦後拡大造林が行わるとともに減少し、昭和30年代にはほとんど行われなくなりました。今では山形県鶴岡市、富山、静岡など何か所かで行われている程度です。

火入れを夏のこの時期に行うのは、周辺の木々が水分を含み延焼しにくいことや、ソバを蒔いてから75日、霜が降りる前に収穫ができるからです。
ソバ、ヒエ、アワ、いずれも椎葉家がずっと種継ぎをしてきた在来品種。特にソバは前年のものを蒔かないと発芽率が下がってしまうので毎年蒔いて収穫する必要があるといいます。

20160818_003.png


竜が天に昇るように


昨年秋に木を切り出し、下草や竹などを刈っておいた山の斜面に火を入れます。今回の場所は30アールほど。焼く場所の周辺は木や草をどけて防火帯をつくります。そして上から火を入れていきます。



003_P8031719.JPG上の方から火を付けていく


004_20160818.jpg私もやってみました

パチンパチン、と竹が爆ぜる音が向かいの山にこだまし、だんだんと火の面積が増えていきます。山を這う火の手はとても熱く、熱風があたりを覆います。木や草が焼ける匂いが広がります。両脇から段々と火が中央に集まり、最後に空に上がっていく白い煙は、あたかも白い竜が天の昇っていくようでした。


005_P8031726.JPG006_P8031786.JPG 火は山を下り、白い煙が天に昇る


30アールは11時に火を入れてから2時間ほどで鎮火します。昼食を挟み、13時からソバの種まきです。火が消えてあたり一面灰に覆われた斜面に、ソバの種約15キロを勝さんらが手早くまきます。参加者はササの枝で地面をならして灰に混ぜ込んでいきます。灰がもうもうと上がって息が苦しく早々に私は退散しました。するとほどなくして雨がざーっと降ってきたのです。

「火入れには前日まで晴天が続き、火入れが終わって雨が降るという天候がベストパターンです。今日のようなベストなタイミングの天候は7,8年ぶりです。」と椎葉勝さんは喜んでいました。3日後には、もうソバの芽が出るそうです。9月下旬にはソバの花が咲き、10月下旬には収穫です。



007_P8031807.JPG手早くソバを蒔く


008_20160818.JPGササほうきで灰をかぶせる


元気な椎葉村尾向地区


椎葉村は、日本の民俗学発祥の地とも言われており、焼き畑や狩猟、神楽、山菜・川魚料理など豊かな山の暮らしが継承されてきた村です。森林を循環的に利用し、環境と調和した伝統的な焼き畑農業が今も続いています。椎葉の「焼き畑」は平成24年に村の文化財指定を受け、また27年に県の指定が決定したところです。

尾向地区の椎葉勝さんを中核としたグループ「焼畑蕎麦苦楽部(やきはたそばくらぶ)」(20年設立)により、椎葉家が所有する約50ヘクタールの森林での焼き畑農業が継続されています。22年には体験・交流施設「焼畑粒々飯々」(やきはたつぶつぶまんま)を開設し、焼畑の見学やソバ打ちなど体験や交流を行ってきました。

尾向地区の人口は469人(27年12月1日現在)、高齢化率36.2%、平均年齢51.3歳と条件不利な山間地にしては比較的若く、またUターン者も多い(Uターン率36.9%41人)活気のある地域です。農林業はシイタケや施設園芸(ミニトマト、花)、林業、狩猟などを行っています。旅館は8軒あり、登山や釣り客など宿泊者数(年間宿泊者数1,400人)が最も多い地区でもあります。

また、椎葉勝さんの母、椎葉クニ子(91)さんは、「クニ子おばば」と呼ばれ、山菜や焼き畑、山里の生活文化に深い造詣を有し、書籍、テレビやメディア等でしばしば紹介されています。昨年4月、クニ子おばばの知恵に学びたいと、青木優花(広島より移住、30代)さんが同地区に定住したことにより、さらに取材が増え、椎葉ならではの山里暮らしへの関心が高まるとともに、住民にも活気が出てきたそうです。

009_IMG_3820.JPG 5月の茶摘み。集落の家々を「かてーり」で手伝う


伝統農法が広がっていく


焼き畑は都市部からの新規就農を希望するIJターン者の関心を引く取り組みでもあるようです。実際に隣の水上村では、椎葉勝さんの指導を受け、都市部からの移住者により三年前から焼き畑が行われるようになりました。

また、世界農業遺産認定を機に、椎葉村内でも夜狩内地区で8月7日に新たに焼き畑が行われました。椎葉の焼き畑の歴史や価値を調べ、振り返る「椎葉焼き畑研究会」も開始され、循環型の椎葉の焼き畑が広がろうとしています。

そして、地元の尾向小学校では生徒や保護者が参加し、28年前から「子供焼畑体験学習会」が行われてきました。今年8月1日に行われた火入れに私も参加しました。小学生31人、中学生13人、保護者や先生、地域の方々など、総勢103人が集まりました。火入れをするのは小学校6年生の3人です。保護者の中には自分が2年生だった時、この体験学習が始まったと言うお母さんもいました。

「これまで見ていたときは簡単そうだったけれど、急な斜面で実際に火を付けるのは大変でした。熱かったし怖かったです」と火入れをした6年生の女子生徒。

鎮火した後に皆でソバの種を蒔きました。秋に収穫して皆でソバを食べるそうです。30年近くも地域ぐるみで体験学習として焼き畑がずっと続けられていることに感動しました。

 

010_P8011466002.JPG小学生も火入れの前に唱え言を全員で


011_P8011471.JPG火入れは毎年6年生の役目


012_P8011524.JPGお父さんたちが周囲に放水し延焼を予防

山里の暮らしを継承する


椎葉勝さんは、焼き畑をした場所に近年は栗や桜を植えるなど、広葉樹の森に再生し、水源涵養機能や、生態系の豊かな森を造ろうと取り組んでいます。栗は6000本植えたそうです。そのおかげかシシやシカなどの害が減ったように思うとも。

椎葉の焼き畑には動物や虫などの生き物の命を大切にする心や、自然への畏敬、山の神や火の神への祈りや豊作への願い・感謝など、多くの民俗的な文化要素が含まれています。また、椎葉村には狩猟文化や神楽などの祭礼との関わり、そして「かてーり」と呼ばれる助け合いの精神が、今なお暮らしに深く生きています。

東京という都市部に暮らす私に、日本の多くの地区で失われてしまった暮らしの本質が、川の最上流にある椎葉の山里で、今も綿々と息づいていることを教えてくれます。


013_P8031623.JPG椎葉村の朝焼け




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大和田順子さん(サステナブルコミュニティー研究家)

百貨店、環境コンサルティング会社等で約20年のソーシャルマーケティング実務を経て、2006年に一般社団法人ロハス・ビジネス・アライアンス設立。年間150日を各地の農山村で地域の人々と過ごす。企業と地域をつなぎ課題解決を目指すCSVプロジェクトをコーディネート。有機農業・生物多様性を核としたコミュニティデザインで地域創生に取組む。農林水産省世界農業遺産専門家会議委員、総務省地域資源・事業化支援アドバイザーなどを務める。

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