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2018年10月19日 (金)
明石市の"社会実験"に注目 ~養育費立替えパイロット事業~
いろいろやる明石市が、またやった。
今度は、養育費の立替払い事業だ。
「ついにここまでやったか」との感慨を抱く。すごい。
「子どもはカバンじゃない。『どっちが持ってく?』っていう話じゃない」というのが、明石市長・泉房穂(いずみ・ふさほ)氏の口癖だった。
そして2014年「こどもの養育に関する合意書」を全国の自治体で初めてつくり、役所に離婚届を取りにきた夫婦に渡す取り組みを始めた。
離婚家庭における養育費は、デリケートな問題だ。
離別した元夫が取り決めた養育費を支払わないことが母子家庭の貧困の原因の一つになっていることは長く指摘されてきたが、欧米のような制度は整えられてこなかった。
「離婚を促進し、家族を壊す」という声が、隠然たる力を持ってきたからだ。
結果として、母子家庭のお母さんたちの就労率は先進国トップクラスなのに、母子家庭の貧困率は先進国最悪という状態を招き、それが子どもの貧困率を押し上げてきた。
母子家庭の母親たちは、家事も育児も仕事もする「スーパーウーマン」なのに、働いて貧困という「ワーキング・プア」の典型のような存在となってきた。
「スーパーウーマン」が「ワーキング・プア」というシュールな現実が、この国にはある。
明石市の「こどもの養育に関する合意書」は、そこに風穴を開けた。
おもしろく思わなかった人たちはいたはずだ。それでも2017年には、国が合意書を普及させる役割を担うまでに、この取り組みを普遍化させた(法務省ホームページ参照)。
そして今回、そこからさらに一歩踏み込んで「養育費立替パイロット事業」を開始した。
自治体発の取り組みを国レベルに普遍化させたところで、次の一手に着手した。
「養育費立替パイロット事業」のスキームはこうだ。
1)まず明石市が取り決められた養育費と同額(月一万円なら一万円)を保証会社に納める。2)約束された養育費が支払われなかった場合、保証会社が母子家庭にその一万円を立替払いする。3)保証会社が離別した元夫にその一万円を取り立てる。
一度取り決めた金額が支払われなかった場合、それを母子家庭の母親が自分で取り立てることは容易なことではない。裁判も起こせるが、膨大なエネルギーがかかることはすぐに想像がつくだろう。
結局泣き寝入りというのがこれまでの「常識」で、だから養育費をアテにしていたら「バカじゃない?」と言われかねなかったわけだが、その状況を変えようというのが今回の取組みだ。
元夫にしてみれば、元妻に取り立てられるよりも、保証会社に取り立てられたほうが「こわい」に決まっている。徴収力を強化し、子どもの養育に不利益がいかないようにするというのが、今回の取組みの本義だろう。
「子どもの養育に不利益がいかないように」というのがポイントだ。
言うまでもなく、養育費は成人するまでの子どもの育ちのためのお金だ。2人でつくった子どもの育ちは、たとえ別れても2人で責任持とう、という仕組みだ。民法も「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定めている(766条1項)。
だから養育費は、元妻の生活費ではない。もちろん「離婚」というハプニングに対しても中立的だ。養育費が心配で別れられない「形だけ家族」が増えればいい、とは誰も思っていないだろう。
だから今回は「パイロット事業」だ。
予算は今年度90万円。上限は月額5万円で、18世帯分。
明石市に未成年の子どもがいるひとり親世帯は約2,500あるというから、対象になるのは全体の1%未満。
これで効果を検証して、養育費支払いに効果があるか、支払われた養育費がちゃんと子どものために使われるか等々が確かめられるだろう。
元夫が結局払わず、また元妻がちゃんと子どものために使わなければ、その時点でこの試みを止めればいい。また、これで明石市の離婚が統計的に有意に増えるなら、それはそれで問題にすればいい。
でも、試してみるに値する取り組みだとは思う。
もう国がリードして、自治体が横並びでついていく時代じゃない。
先進的な自治体が実験的な取組みをし、その成果を見ながら国が横展開し、普遍化していく時代だ。
「地方創生」って、そういうことだろう。
明石市の社会実験の行く末を注目したい。