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地域づくり情報局

一人も取りこぼさない社会をめざして

大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さん。地域や家族から孤立する人々に寄り添い支える日々を綴ります。

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2022年12月19日 (月)

3年目のコロナ禍 住民の中に広がるつながりの輪(2)

1年を通して楽しめる場所に

 これまで私たちは、主に定年後の男性たちが地域との関わりを持つための場として「豊中あぐり」という共同農園の運営を行ってきました。今年でその活動も7年目になります。昨年4月にはその8番目の拠点として体験型農園「豊中あぐりパーク」がオープンしました。あぐりパークで作った野菜を地域のみなさんに販売したり、地域の子ども食堂の食材にしてもらったりするなどの活動のほか、子どもたちや外国人、認知症の方や地域の方たちがさまざまな農業体験を通して交流できる場所にしていきたいという思いがありました。そのために昨年から準備を重ね、今ではあぐりパークは1年を通して、地域の人たちがさまざまに楽しめる場所に成長しました。

 イモほりが終わったあと、みんなで播いたれんげの種は、春には見事に一面に咲き誇り、4月にはれんげ祭りを行い、みんなで竹とんぼも飛ばしました。畑の中にあぐりの男性たちが竿を立て、滑車もつけて、見事な鯉のぼりを上げることもでき、新聞紙でカブト作りを楽しみました。そのころ、今度はひまわりの種を播き、夏には大きなひまわり迷路ができて、たくさんの子どもたちが遊びにきてくれました。

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一面のれんげ畑のまんなかに、みんなで鯉のぼりをあげました

熊本の被災地から届けられた苗

  あぐりパークには地域のさまざまな方が遊びにきてくれます。地域にはベトナムやフィリピンなど、海外ルーツのお子さんたちも多くいますが、言葉のコミュニケーションがむずかしくても、こういった農業体験なら交流の良いきっかけになります、認知症の高齢者の方たちなども含めて多世代、多様な人たちが集える場にしたいという思いがありました。イモ掘り体験では、子どもたちが自分たちの顔よりも大きなおイモを掘って大騒ぎになったり、ジャガイモは食べるけどサツマイモは初めてというドイツの方がいたり、認知症の方も一度掘ったことを忘れて何度も堀りにこられたりして誰もが楽しんでおられました。

  実は、このイモ畑のイモの苗は、熊本地震の被災地である西原村から頂いたものです。以前、私たちが熊本地震後に支援に行った際に、被災地の方が、「被災した家も片付けないとならないけれども、イモの作付けもしないといけない」と悩んでおられたんです。そこで、「農業支援もボランティアに来た私たちに頼んでください」とお伝えし、農業ボランティアが始まりました。その後、私たちもイモの作付けボランティアを行い、とても感謝していただきました。そうした縁から、毎年春になると、西原村から農家の方々が、シルクスイートというとてもおいしいサツマイモの苗を送ってくださるようになったんです。

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 子どもからお年寄りまで、さまざまな世代が集まりイモ掘りを楽しみました

 あぐりの畑では、イモの収穫が終わったあと、かかしコンテンストも行いました。認知症の家族会の方たちが「老老介護」のかかしを作ったり、ネパールの方がネパールの神様のかかしを作ったり、たくさんのユニークなかかしが畑を彩りました。また、収穫後の田んぼで凧あげ大会も行いました。地域にとても凧作りの上手な方がいて、その方に作ってもらった凧にみんなが思い思いの絵を描いて凧をあげたのです。豊中あぐりに集う中高年の方々も童心に返ってみなさん楽しんでおられました。都会ではこのように広々とした場所凧を上げられることは本当に少なくなりましたから、子どもたちは大騒ぎで、かけまわって凧上げを楽しんでいました。

 あぐりパークで1年を通して行われるさまざまなイベントは、引きこもりがちの人や、普段社会や地域との接点を絶たれてしまっている人たちが、一歩外に足を踏み出すとても良いきっかけ作りにもなっています。

みんなで力を合わせて 大きな壁画を完成

  ひとりの女の子がいました。中学校を卒業した後も自分の進路が見つけられず、小学校から6年近く引きこもり状態だった子です。私たちは彼女の家に、毎週お弁当を届けていたのですが、そのうち、彼女が自分が描いている絵や漫画を見せてくれるようになりました。「来週、続きを見せてね」と伝えると、続きを創作して描いてくれるようになったのです。そんな中「あぐりパークで、れんげ祭りをやるよ」と話をしたら、彼女が見に行きたい、と言ってくれたので一緒に出かけました。ずっと家にこもっていた彼女は肌もすきとおるように真っ白で、そんな彼女がレンゲを摘んでいる姿はとても素敵で、楽しそうでした。私たちも嬉しくて、その日摘んだれんげを押し花にして、彼女に記念にと持っていきました。

 それから2ヶ月ほどして、美術大学の学生さんから、あぐりパークの横にある長いブロック塀に卒業制作で壁画アートを描きたいという申し出がありました。そこで私たちは一つ注文を出しました。「この壁に絵を描くとき、是非ひきこもりがちな子どもたちも一緒に参加させてほしい。社会につながりにくい子たちが絵に関わることで元気が出るような、そんなプロジェクトであれば私たちもぜひ協力したい」、と伝えました。学生さんたちは私たちの提案を快く受け入れてくれました。

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 みんなが思い思いに書いた絵が、大きなひとつの作品に

 そのプロジェクトは今年の夏から始まりました。前述のれんげ畑にきてくれた彼女に声をかけたら、恐る恐るですが「やってみたい」と言ってくれました。とはいえ、ひきこもりの子たちの多くは生活が昼夜逆転しているので、朝から壁面に絵を描くというのはなかなか大変なのです。私たちが朝、迎えにいってもまだ寝ている、なんていうことが何度もありました。それでも、みんな頑張って絵を描きに通いました。自分が書いた絵がだんだん形になっていくのは、とてもとても嬉しいことだったようです。

 壁画は1ヶ月半ほどで完成しました。先日、完成式が行われましたが、彼女が最後に一筆入れることで正式な完成となり、みんなで拍手してお祝いをしました。完成式では、ほかにも壁画に関わっていただいたさまざまな方たちが、それぞれの思いを語りました。彼女も、この壁画を描くということがきっかけで、外に出られるようになったこと。それから、毎日散歩をしたり外を走ったりすることを心がけるようになれたと話してくれました。

 同じように壁画作りに参加した男の子は「はじめて達成感を感じることができた」と話していました。その子は、自分をずっと見守ってくれた民生委員さんに知らせて、その絵をわざわざ見に来てもらったそうです。

 地域や社会とのつながりを絶たれてしまっている人にお弁当を届けるという小さなアウトリーチが、続けていくうちに家族や子どもたちの心の扉を開けることにつながったこと。それが、その人たちにとってもう一度社会の中に戻っていこうと思うきっかけになったこと。そういう応援ができて本当に良かったと思っています。

みんながワクワクできる遊び場に

  あぐりパークではきっと、来年の春にはまたれんげが一面に咲き誇り、多くの人に楽しんでもらえると思います。来年の夏には田んぼの近くにザリガニのビオトープを作ろうという計画も持ち上がっています。あぐりパークは、これまでの都市型の公園と違って、昔懐かしい自然の遊びができるのも魅力です。これからもみんながワクワクする場所にしていきたいと願っています。

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お正月のたこ上げでは、みんなが童心にかえりました

 

 

 

 

 

 

一人も取りこぼさない社会をめざして

勝部麗子さん(コミュニティソーシャルワーカー)

10年前、大阪府で初導入された地域福祉の専門職=コミュニティソーシャルワーカーの第一人者。大阪府豊中市社会福祉協議会・事務局長として、様々な地域福祉計画・活動計画に携わる。2006年から始まった「福祉ゴミ処理プロジェクト」では、孤立する高齢者に寄り添い、数多くのゴミ屋敷を解決に導いた。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員。信条は「道がなければ作ればいい」。

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