地域づくり情報局

一人も取りこぼさない社会をめざして

大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さん。地域や家族から孤立する人々に寄り添い支える日々を綴ります。

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2018年06月25日 (月)

3つめのあぐり農園が空中に誕生!

イモ焼酎が完成

私たち豊中市社会福祉協議会では、定年退職後の男性に呼びかけて、みんなで耕す共同農園「豊中あぐり」を運営してきました。1つめの農園は、野菜が中心。少し広い2つめの農園では、お米のほかに、サツマイモを育てて焼酎を造ろうと計画していましたが、ついにこの春、イモ焼酎「豊中あぐり」ができあがりました。104本の限定版です。

大阪のベットタウンの豊中にはほとんど農地がないですし、地酒なんてものは聞いたことも見たこともない地域です。そこに初めてこういうものができて、みなさんの関心がたいへん高く、注文が殺到してすでに完売しました。この焼酎は、一般に販売するのではなく、5000円を支払ってあぐりのサポーター会員になっていただいた方に、お礼として焼酎とお野菜を差し上げるというものです。私たちの活動への理解者が広がっていく新しいツールになりそうです。

1-shochu.jpg大好評の芋焼酎

 

3つめのあぐりは空中農園

さらに新たな展開として、このたび豊中市の千里ニュータウンに空中農園が誕生しました。3つめの農園です。ここはタワーマンションも建っていて、高度経済成長の象徴みたいな人工的な集合住宅の町なんですが、そこにある有料老人ホームの屋上緑化スペースを使って農業をするというものです。

2-kuchu-teien.jpg空中庭園づくりに知恵をあつめて

 

わたしたち「豊中あぐり」の活動をメディアでご覧になった有料老人ホームの方から、この屋上緑化スペースを使ってほしいというお話をいただきました。

これまでの「豊中あぐり」2箇所は、道路に面した畑や田んぼで、いわば地域住民との共有空間だったのですが、今度の場所は、有料老人ホームの中にお住まいの方が屋上で緑に触れるための空間にあるので、プラスアルファの配慮が必要になります。利用者の皆さんとの連絡会のような場を作って、屋上にできる農園でどんなことをするのか、どんな方針で進むのか、説明会をさせていただいてからのスタートになります。

また、老人ホームの周りはマンションばかりの地域で農地はまったくありません。この屋上緑化スペースでは本格的に畝を作って野菜作りができるので、周辺の住民の中に、新たにあぐりの活動に関心を持つ人たちもいるだろうと思います。今週末から会員募集が始まりますが、20人くらいは活動できる場所になるだろうと思います。

そして、象徴的なタワーマンションがあるような町に、まずは「豊中あぐり」のランドマークを作ろうということで、案山子(かかし)を作ることにしました。ふるさとを離れタワーマンションに暮らす人たちが、自宅のベランダから外を眺めると、ビル群の中に畑と案山子が見える。私たちは、そんな風景を作ろうという試みをしています。新しい都市型の共有地、コモンズみたいなものがみんなの財産としてあることの面白さを作れるのではないかと思っているところです。

3-doraemon.jpgここにもランドマークのかかしと看板

 

千里の町には元々の大阪市民という人は、ほとんどいません。緑豊かなふるさとから出てきて、大阪でサラリーマンになったり、工場で働くようになったりした人たちです。そういう人たちにとって、ここがもう一度、土に親しみ、人とつながれる場所になったら良いなと思います。

 

地域の中で役割と居場所を見つけ始めた男性たち

今まで男性たちは地域活動には出てこないと言われ、私たち支援者にとって、地域活動への男性の参加は大きなハードルでした。しかし、今考えてみると、それはこちらの「仕掛け」が足りなかったのではないか。この2年あぐりの活動をしてきて分かってきたことは、地域の中での役割がはっきりして目に見える成果が上がっていけば、男の人たちはとても前向きに、能動的に動いていかれます。

たとえば、男性たちが力を合わせて農業をすることで野菜ができ、その野菜を使ってコロッケや焼酎を作ったわけですが、やったことが形になっていくことで、ワクワク感が生まれる。さらに、作った野菜が子ども食堂に運ばれて調理され、地域の子どもたちに食べられたり、地域の朝市で売られて、みんなに喜んでもらえる。多くの人たちに感謝されることでやりがいや生きがいが生まれます。

かつて、女性たちが地域で家族以外の人たちに食事を作ってみんなから感謝されたのと同じように、男性は自分たちのフィールドで役割を果たして社会的にほめられる。この活動を通じて新しい支えあい、循環が生まれているのかなと思います。すべての人に居場所と役割が必要ということなのだと感じています。

4-ojisans.jpgあぐりジュニア(40代~50代)のつながりづくりがはじまった

 

あぐりで活動されているのは、高度経済成長を支えた団塊の世代以上の、定年退職後の男性たちです。サラリーマンだった現役時代は、生活をすべて企業に捧げ、家には寝に帰るような生活です。その人たちが定年ということで一気に企業コミュニティから卒業させられ、地域コミュニティに放り込まれたとき、どこでどういうふうにつながればいいのか、その道筋が今までほとんどなかったんですね。男性たちが戸惑うのも当然でした。そこに、役割や居場所をもう一度考えていこう、もういちどふるさとを作ろうということで、この活動が始まりました。豊中には農地がないからこそ、都市型の共有地を作って農業でつながっていこうという挑戦が、豊中あぐりなのかなと思います。

市民農園はこれまでもありましたが、やはり人とつながる機会がなかったんですね。野菜を作るのが上手な人が、ひとりだけで作っていると、余り物は腐らせてしまうけど、みんなで作っていてみんなにそれぞれ特技やアイデアがありますから、余った野菜を加工してコロッケなどの商品を作ることができたり、PRがうまい人がブログに出す。それぞれサラリーマン時代の特技や長所を生かすことで、活動の幅が総体として広がっていったと思います。もともと会社人間だった人たちですから、会社から卒業した後に、新たな経済活動の中に参加しているかのような面白さを感じていらっしゃる方もいるように思います。

5-shugo.jpg野菜づくりと仲間づくりとまちづくり

 

あぐりメンバーに聞いた ”あぐり効果”

あぐりの活動が2年を迎えて、私たちはメンバーの23人にアンケート調査をしました。

”あぐり効果”としてメンバーがあげたのは、「楽しみだった」78%、「新しい友達ができた」60%、「体に良いと感じた」60%。特に血糖値が下がったという人が何人もいて、メンバーの一人芝龍男さん(78)の場合、300あった血糖値が100になったといいます。これまでの生活との変化は、「良く運動し、仲間と良く笑い、野菜を食べるようになった」という芝さん。体調が良くなって、「好きなお酒が飲めるようになったのが、一番うれしい!」と笑顔で話してくれました。

また、活動をしてみてどんな変化が生まれたかを聞いたところ、「元気になった」44%、「あぐり以外にも外出するようになった」44%、「明るくなった」35%。最も多かったのは「家族以外の人と話すようになった」で、48%に上りました。地域のボランティア活動に参加する方も増えています。メンバーの湯川荘一さん(68)は、地域の福祉便利屋に参加。さらに小学校区ごとに選ばれる校区福祉委員会の委員となり、地域で運転ボランティアもしています。

6-suika-shugo.jpg最高の笑顔 豊中あぐりのメンバー

 

「あぐりジュニア」も地域に居場所を

 今後、あぐりのような場所を、都会の中に増やしていくことが大切だと思っています。そして、増やしていくだけでなく、参加する方の世代の幅を広げていくことを考えています。定年になってからさあどうしましょう、ではなく、定年になる前から、地域に居場所を作る準備をしておくわけです。

そこで今、50代の方々に呼びかけをしようとしています。会社ではそろそろ卒業が見えてきて、家の中でも子育てが終わってお父さんの役割は少なくなっている、そんな世代の人たちに「あぐりジュニア」として、地域との交流の場を作ることを、次の挑戦としてやっていきたいなと思っています。もちろんまだ現役で働いているので、そんなにしょっちゅう野菜を作るわけにはいかないと思いますが、月に1回でも集まれるような場所を作って、地域デビューの経験者であるあぐりのメンバーと交流するような機会を作っていくことを考えています。

これまで地域活動の中心だった女性たちに、定年退職後の男性達が加わり、さらに現役世代の男性たちが加わっていくことで、豊中の地域づくりに、これまではなかったようなアイデアや新しい形の企業などとの連携が生まれるのではないか。これからどんなことが起こるのだろうかと、私たちは今からワクワクしています。

7-kome-shugo.jpgお米づくりも行い、稲わらで案山子もできました

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勝部麗子さん(コミュニティソーシャルワーカー)

10年前、大阪府で初導入された地域福祉の専門職=コミュニティソーシャルワーカーの第一人者。大阪府豊中市社会福祉協議会・福祉推進室長として、様々な地域福祉計画・活動計画に携わる。2006年から始まった「福祉ゴミ処理プロジェクト」では、孤立する高齢者に寄り添い、数多くのゴミ屋敷を解決に導いた。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員。信条は「道がなければ作ればいい」。

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