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地域づくり情報局

一人も取りこぼさない社会をめざして

大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さん。地域や家族から孤立する人々に寄り添い支える日々を綴ります。

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2016年07月29日 (金)

まちなかに現れた農園「豊中あぐり塾」の挑戦!

今年4月から、勝部さんたちは、豊中市で新たな取り組みに挑戦しています。まちなかに土地を借りて、地域のみんなで野菜を育てる「豊中あぐり塾」という場をつくり、地域の男性が社会参加していくきっかけにしていこうというのです。この夏、初めての収穫の時期を迎えたみなさん。これまでにない取り組みは、どんな足取りで進み、どんな成果を生んでいるのでしょうか。

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「豊中あぐり」外観


大阪府豊中市は、宅地がほとんどで、農地はほとんど残っていません。農業をやっていらっしゃる方もほんとうにごくわずかです。たまたま、昨年、私たち社会福祉協議会に土地を提供してくださる方が現れたので、貸してくださった宅地を「都市型農園」というかたちに変え、そこを男性の社会参加の場にしていこうという取り組みを始めました。農業=アグリカルチャーを通じた取り組みということで、「豊中あぐり塾」という名前を付けました。

もともと宅地で、都会の真ん中。周りは普通の住宅街というところでしたから、土をつくるところから始めることになりました。開墾して、ユンボを使って、皆さんで耕して。土を入れて、肥料を入れて、都市の中の農園というものをつくっていきました。
行政が一坪農園的にいろいろな方々に貸し出しする市民農園は、これまで豊中市にもありましたが、そういった個人の方が個人で楽しむということではなく、「共同ファーム」というかたち。みんなで耕して、みんなで収穫していくということで、そこに集える、関われる。人と人とのつながりをつくるということを目的とした、新しいかたちの農園を私たちは目指しています。

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「豊中あぐり塾」の主なメンバーは仕事をリタイアした男性たち


「豊中あぐり塾」の受講生は、5月から7月にかけて野菜づくりをしながら、地域の福祉やボランティア活動についても学んでいきます。参加費は5千円。運営はメンバーで運営委員会をつくって行い、趣旨に賛同してくださるサポーター会員の方々からも寄付をいただいてやっています。
まずは実験的に2本の畝をつくって、そこに夏野菜を植えています。さらにスイカを植えるための畝を、また新たにつくります。ゆくゆくは、障害者の方や車椅子を使っている方たちが座ったまま農作業ができるような「ユニバーサル農園」として整えていき、いろいろな人たちが関われる農園にしていきたいというのが、私たちの思いです。

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住宅街に囲まれた農園「はたして無事に育つのか?」最初は疑心暗鬼の日々―


農園がオープンしたのは、今年の4月23日でした。そして、5月17日から「あぐり塾」を始めました。キュウリ、ナス、トマト、シシトウ、それからピーマンなどを植えていますが、ものすごくたくさん!豊作です!最初は「こんなところでとれるのか?」なんてみなさん心配していたのですけれども、大豊作で毎日たくさんの量がとれて、朝市などで“地産地消”ということで販売もできるようになってきました。
朝市というのは、地元の校区福祉委員会が運営する「遊友」という地域の拠点があるのですが、そこで販売をしたり、それから豊中には地産地消の会があって月1回「暮らし館」という公共施設で地元の農家さんなどによる野菜の販売会があるのですけれども、そこに私たちもデビューさせていただきました。この7月、初めて直売に参加させていただいたのですが、すぐに完売でとてもうれしかったです。

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みなさん、「なぜ都会の豊中で農業を?」と思われたかもしれません。私たちがなぜ農業に目を向けるようになったのか―。そのきっかけは、これまで東日本大震災の被災へ行かせていただいた時の経験でした。
何度か被災地に行かせていただくうちに、一次産業のあるまちでは、高齢者の方々がすごく元気でいらっしゃることに気付いたのです。一次産業のあるまちというのは、いろいろな畑仕事やその準備など、高齢者の方々にもやることがたくさんあります。だからすごくお元気で、自分の居場所や役割がある。そのことを目の当たりにしたのです。

それに比べて、都市部の高齢者たち、特に定年後の男性の高齢者は、社会参加をしていく場所がとても少ない。お金にゆとりのある方ですとジムに行かれたり、時間に余裕のある方は図書館に行かれたり公園に行かれたりしていますが、どこに行っても一人で黙々と活動しているのですね。人とつながる機会が、なかなか無い。
また、その場所に行くか行かないかは、自分の気持ちだけで決められます。誰かのために行くとか、そこに自分の役割があり期待されているというわけでもない。動機の上でもたった一人なのですよね…。

仲間と野菜を育てるというのは、水をやったり、草を抜いたりと、日々の活動がたくさんあります。そうした“やること”に背中を押されて、外へ出ていくということは、私は人としてすごく理にかなった行動のように思えたのです。
それに、一次産業の営みが盛んなところは、やっぱり緑があって豊かですよね。お米にしても、野菜にしても、魚介にしても、私たちは消費するばっかりで、こういうところの方々にいつもお世話になっているのだということが、なかなか見えない。被災地から豊中市に帰ってみると、ほんとうにごく限られた農家の方がやっておられるだけで、その大切さに気付く機会がほんとうに無いなと感じたのです。

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新たにスイカの栽培にも挑戦してみることに

そう思っていた中で、ひとつの出会いがありました。原発事故をきっかけに、福島から豊中に避難して来られた方です。その方は福島ではずっと農業をされていたということで、豊中に来てからもずっと野菜づくりがしたいと思っておられました。でも、豊中には借りられる田んぼも畑もなく、毎日、そんな思いを抱きながら、アスファルトのわきの雑草を抜いて過ごしているとうかがいました。
私はその方に、何とか農地を融通してもらえないかと、市役所に相談を持ちかけました。その結果、農業委員会が事情を考慮・調整し、農家のご厚意により土地の一部を貸していただけることになったのです。すると、その方はとても元気になられました。こうした経験を通じて、やっぱり農業というものは、とても大切なのではないかと気付きました。

その後、東北の被災地を訪ねみなさんと話し合っている時、例えば「サロンをつくろう」といった話が出てくると、これまでの私でしたら、お茶を飲むといったような都市部でのサロンづくりを考えたと思うのです。その経験があってからは、「共同ファーム」をつくったらどうかということも提案させてもらうようになりました。そして、実際に仮設住宅の横に共同ファームをつくってみたところ、皆さんが一緒にそこで土いじりをして、すごく元気になっていかれたという経験もしました。
一般的なサロンとは違って、農業だと土いじりなど具体的にやることがたくさんあるわけです。そのことを通じて会話ができていったり、つながっていけたり、そうした可能性がどんどん開けていくのです。これは被災地から学んだことです。一緒に畑をすることで、あんなに元気になれるのであれば、そういう空間が全くない都会の人たちの中にも、どこかでチャンスをつくっていきたい。そのための何かをやってみたいと、東日本大震災からのこの5年間の歳月の中で思うようになっていきました。

いざ豊中市でやってみようとなると、都市部ですから、そんなにたくさんの土地があるわけではない。青空のもと、空き地を畑にしていくという作業から始まっていったわけですが、その中で人と人とがつながれる“共同空間”のようなものができあがっていきました。それを見ているうち、これは例えば会社人間だった高齢の男性たちが、新たな社会への参加のきっかけをつかむ場になるのではないかと。そういう思いがしました。

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初めての収穫祭 みんなで育てた野菜を地域の人々にふるまう

これまでの地域活動の担い手は、女性、特に専業主婦の方が多かったわけです。PTAとか地域の活動をずっと担ってこられていて、社会参加・社会活動をするということにおいては、いろいろなネットワークを持っている。自然と地域活動を担える存在になっていたわけです。
他方、男性の場合でしたら、例えば地元でずっと続く自営業の方でしたらつながりがありますが、そうではない方にとってはきっかけがない。ずっとサラリーマンで退職して、では地域活動にデビューしましょうといっても、これまで全く地域活動とつながっていないわけですから、なかなかハードルが高い。世間的にはそういう人たちのことを、「濡れ落ち葉」だとか「廃棄物」だなどと言う人もいるぐらい、やっぱり会社のルールで、会社人間として過ごしてきた方々が、退職を境に地域のルールで地域社会に参加していくというのは、なかなか難しい。

実際、豊中市でも、そうした方々が社会参加していける場面は、なかなかつくり出せずにいました。麻雀サロン、カラオケ、地域食堂…。いろいろなメニューをやるのですけれども、男性が居心地よくて居場所にできるようなところは、なかなかできませんでした。ですから、今回の「豊中あぐり」は、基本、男性の社会参加の場。まずは男性からということでやっています。いま、男性の会員は、50名ぐらいになっています。
始めてみたら、男性陣のみなさん、もう本当にワクワクしておられます。この間は収穫祭ということで、みんなでつくった野菜を一緒に食べようという企画を「豊中あぐり塾」講習会の最終日にやりました。その時は、みんなでそうめん流しをして、夏野菜を一緒に食べたのですけれども、そうめん流しの図面を書いてくれる人、竹を切ってくれる人、組み上げる作業をしてくれる人と、みなさん大活躍でした。それから、そうめんのゆで方を、一生懸命、奥さんや地域の料理上手なボランティアの方に聞きに行かれたりと、新しいつながりも広がっていきました。

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創意工夫を凝らして完成させた 渾身の流しそうめん台

みなさん最初は、ずっと会社人間でしたから、自分の守備範囲がちゃんと決まっていないと活動できないとか、これをやれという指示がないと何をしていいかわからず戸惑っていらしたりしました。ところが地域活動というのは、自分ができることを持ち寄るという活動ですので、指示を待って言われた範囲だけをやるということでは、前に進んでいかないのですね。自分たちの発意で動き出すということなので。それが、5月から野菜がずっと育っていく過程と合わせて、自分ができることをみんなで相談しながら進めていくように変わっていきました。

こうやって戸惑いを経ながらも、企業での働き方と地域での活動との違いに気付き、自分たちで変わっていくということは、とても大切な経験だったと思います。共同で一緒にやるという体験をしないまま地域でのボランティア活動などに参加していくと、昔の肩書きで地域デビューすることによって、これまでうまくいっていたグループがかき回されるとか、そういうパターンにも陥りがちです。

例えば良く出てくる話が、“効率性”。効率よく仕事をするためにはどうしたらいいかと。最初の頃の議論の中では、やっぱりそういう話が出てくるのですね。どれだけたくさんのキュウリがとれるか、といったような。
ただ、お天気がどうなるかわからないし、ものすごく手をかけたからといって、うまくいくかもわからない。そういうところが野菜づくりであり、その中でじゃあどうしていくかを、いろいろとみんなで話をするのが大事なのだと思うわけです。
実は参加された方々の中には、これまで一坪農園を経験したことがあるとか、ご自宅でプランターで野菜をつくったことかある人たちは結構いました。けれども、話を聞いてみると、相談する相手がいなくて、結局、みなさんほとんどうまくいかなかったそうです。今回は仲間がいるので、こうしたらいい、ああたらいいと教え合いっこをして、相談しながらやっていくので、そのことが結果としてたくさんの収穫が得られるという、非常に大きな成果が得られました。つながっていくことで友達ができ、そして野菜もできるという面白さ。そこに、みなさんだんだんと気付き、「この仲間から外れたくないので、ぜひ続けていこう」と思う人たちでいっぱいになっていきました。

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実り始めたきゅうり

それから、「豊中あぐり塾」では、ボランティア講座を取り入れ、男性の社会参加のロールモデルになるような先輩たちの話を聞いてもらったり、認知症サポーターの養成研修をやったり、車椅子の使い方や操作の仕方を体験してもらったりしました。先日、認知症の方たちを農園にお招きして、実際に野菜を収穫する作業を一緒にやりましたが、講座で勉強していたので、さりげないサポートが垣間見えたりしていました。この農園を通じていろいろな人たちと知り合うことを通じて、その人たちのことを考え、自然体でつながっていっているのです。

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「ユニバーサル農場」に向け 地域の人々を招いてのイベントも開かれるように

最終的には、これから介護保険の生活支援サービスが大きく変わりますので、地域の中におられる様々なお困りの高齢者世帯へ、例えば電球の交換をしに行くといったような在宅支援のサポート役にも回っていただけるのではと考えています。仲間がいますので、みんなで一緒に「こんなことができるよね」という話をしながら社会参加していただけるような、そんな活動の母体になればいいなと思っています。

これからは、地域の中での男性の活躍が、非常に注目されていきます。いま豊中では、ご本人たちもすごく意欲的に取り組み始めています。これからは、第二期工事を始め、畑を広げていく予定です。新たに土地を貸して下さる方も現れています。第二、第三の「豊中あぐり塾」ができ、さらにこの活動が広がっていくことで、地域社会に参加してくださる男性がたくさん現れてくれることを期待しています。

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一人も取りこぼさない社会をめざして

勝部麗子さん(コミュニティソーシャルワーカー)

10年前、大阪府で初導入された地域福祉の専門職=コミュニティソーシャルワーカーの第一人者。大阪府豊中市社会福祉協議会・福祉推進室長として、様々な地域福祉計画・活動計画に携わる。2006年から始まった「福祉ゴミ処理プロジェクト」では、孤立する高齢者に寄り添い、数多くのゴミ屋敷を解決に導いた。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員。信条は「道がなければ作ればいい」。

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