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地域づくり情報局

教育からの地域・人・未来づくり

離島の高校を拠点に、地域の担い手づくりに取り組んできた岩本悠さん。さらに活動の場を広げ、人づくりを通じた持続可能な地域づくりに挑みます。

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2020年07月27日 (月)

県外からも応援したくなる地域を共創しよう

未来について世代を超えて語り合う

 隠岐島前高校の「島留学」は、いまでは全国の公立高校を巻き込む「地域みらい留学」へと発展している。地元の高校生と留学生が、価値観の違いを乗り越えて、地域の大人たちともかかわりながら、課題の解決に力を合わせる高校3年間。留学生だけではなく、地元の高校生たちにとっても、刺激に満ちた体験だ。

島根県では、2020年2月9日に松江市のくにびきメッセ国際会議場で、「しまね未来共創フェスタ」が開催された。県内外の島根出身の高校生・大学生や、地元の経営者・行政が、「未来を創る人材育成」と「県外に出た人材の還流」について、立場と世代を超えて話し合うイベントだ。地域留学がきっかけで島根とゆかりのできた若者たちも参加している。

 内容構成は大きく3つになる。高校生・大学生・経営者が実現したい、創りたい未来の自分や島根についてプレゼンを行う「マイプロジェクト・プレゼンテーション」、島根のつくりたい未来に対してのテーマをもとに世代を超えて、未来を語る「未来共創ワークショップ」、経営者・行政部長陣が集まり「人材育成・人材の還流を生み出すための人づくり作戦会議」。朝の10時から夕方の5時半までという長丁場だ。

 話し合いは会場で知り合ったファミリーと呼ばれる6、7人のグループが輪になって行われる。立場や世代が異なる人たちがバランスよく交じり合って、思いついたアイデアや意見を発表し合う。それらをあらかじめ配られた付箋や模造紙に記していき、代表者が発表し、他のファミリーとも共有する。

 

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イベントに参加していた県の教育委員会のある職員はしみじみ話す。「こんなイベントは10年前だったら考えられなかった。世代を超えて島根の未来を話し合おうと呼びかけても、高校生や大学生は自発的には集まらない。きっかけはやっぱり島留学。都会の生徒が隠岐諸島の高校に留学してくるなんて、そんな信じられないことが起きて、テレビや新聞でさかんに取り上げられて、県内の雰囲気が変わっていった」

 

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 会場に来ている高校生や大学生たちは、県庁の職員や学校の校長先生たちが来ていても、ひるむことなく自分たちの思いを述べていく。優等生的に島根の良さや将来の決意を話すのではなく、「そもそも若者がおらん」「職業の選択肢が少ない」「大人の本気が見えん」、そんな本音を飾らない言葉で語りながら、その状態をどうしていきたいのか、自分は何がやれるのか、いま何に悩んでいるのかを熱く語っていく。

 地域留学は、廃校寸前の高校を存続させるために応募者の数を増やしたり、疲弊した地域を再生させるために、人手不足を解消するのが目的ではない。違った環境で育った若者たちが交じり合うことで、田舎であろうと都会であろうと、それぞれの地域に魅力もあれば、課題もあることに気づき、たとえどこで暮らしていても、未来を切り拓いていく力のある若者たちを育てるためだ。「ここには何もない」という後ろ向きのつぶやきを「みんなで新たな魅力を創ろう」という前向きな決意に変えていくのである。

 

島根をルーツとする県外者とのつながり

 いま地域再生に関して注目されている概念のひとつとして「関係人口」がある。移住による「定住人口」でもなく、観光がもたらす「交流人口」でもなく、地域と継続的にかかわる人々を指す言葉だ。総務省は、地方の人口減少や少子化が進む中で、地域外にあっても地域とゆかりのある若者たちが、地方創生の担い手となることに大きな期待を寄せている。「しまね未来共創フェスタ」の会場にも、島根県出身者で現在は他県の大学に通っている大学生や他県で就職した若者たちが、「島根との関係を断ちたくない」「島根のために貢献したい」と会場に集まっていた。

 県外で暮らす若者の中には、「島根には何もない」と思って、東京や大阪などの大都市に向かい、しばらくは故郷を顧みることもなかったが、やがて島根の良さに気づき始めたというものもいる。そんな若者が、島根を盛り上げる活動をしている同世代の仲間に誘われて、休日県外からボランティアでイベントに参加することもあるという。

島根県出身で高知県在住の大学生は話す。「映画を見たり、ライブハウスに行ったりして得られるのは消費的な楽しみだけれど、自らイベントを作り上げていくのは生産的な楽しみ。学生であっても学生なりの役割を周りから期待されるし、同世代の同じような思いをもった仲間と知り合うこともできる。地域のために何かを作り上げたり、新たなつながりが生まれたり、普段は体験できない達成感を味わえる」

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 20年後、30年後の日本がどのような国になっているかは、誰も予想することはできないが、人口減少や少子高齢化の影響が過疎地だけではなく、日本全土に及ぶことになるのは確かだと言われている。日本社会が大きな転換点を迎えようとしているいま、若者たちに求められるのは、過去の知識を集約して蓄積するだけではなく、変化の担い手となって、新たな価値を創成する資質や能力だ。

かつては地域に縛られて生きるのか、地域から逃れて都市で生きるのか、どちらかの選択を迫られたが、いまは関係人口のような形で、自分の望む生き方を新たに生み出す若者たちが生まれている。自ら主体的にものごとを判断できる力をつけた若者たちは、たとえ故郷で暮らしていなくても、大都会にいても、海外で暮らしていても、自分を育んでくれた故郷のことを忘れることはない。県外の大学生たちや若いビジネスマンたちは「後輩たちの良きロールモデルになりたい」と誇らしげに話す。

もっともローカルな場所で育んだ生きる力が、日本全体の課題を、はては地球規模のグローバルな課題を解決する力へとつながっていく。未来を変える力は、自分の足元を見直すことから生まれてくることを若者たちには実感してほしいと思っている。

 

《終わり》

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教育からの地域・人・未来づくり

岩本悠さん(地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表)

大学時代から途上国支援や開発教育に取り組む傍ら、卒業後はソニー(株)で人材育成や組織開発に従事。2006年に東京から島根県の海士町へ移住し、廃校の危機にあった県立高校で教育改革に取り組んできた。

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