地域づくり情報局

教育からの地域・人・未来づくり

離島の高校を拠点に、地域の担い手づくりに取り組んできた岩本悠さん。さらに活動の場を広げ、人づくりを通じた持続可能な地域づくりに挑みます。

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2020年06月29日 (月)

魅力化された高校で身に着く能力

非認知能力を育む「学びの土壌」

 近年、教育の世界では、「非認知能力」の重要性が言われるようになった。非認知能力とはIQで測るのは難しいけれど、社会を生きる上で大切な能力のことである。魅力化された高校で実施される課題解決型の学習の場では、従来の知識や技能だけではなく、非認知能力も重要な役割を果たすことになる。

 知識や技能といった測定しやすい認知能力は短期的には教え込めばある程度は高められるが、それだけでは指導がなくなった瞬間に成長が止まってしまう。誰かの指導がなくても伸び続けるためには、自らの意思で考え行動する「主体性」、ものごとを深く掘り下げる「探究性」、多様な人と関われる「協働性」、地域や社会のことを自分ごとにできる「社会性」が重要になる。それらの非認知能力は、従来の認知能力を活かす上でも必要とされる能力である。

 非認知能力は学校の教科書を読んでいるだけで身につくものではなく、能力を育むベースとして大切になるのは「学びの土壌」である。学びの土壌とは、子どもを取り巻くコミュニケーションや人間関係などの環境や風土の総体のことである。私たちの調査研究からは、上記のような非認知能力を育むには、主に以下の4つの土壌が重要だと示唆されている。

「安心安全の土壌」:失敗がバカにされることなく、挑戦や試行錯誤が応援される。

「協働の土壌」:異質性を排除するのではなく、多様性を受け容れ、違いを活かそうとする。

「対話の土壌」:一方的な話や指示だけでなく“なぜ?”“どう思う?”といった問いが日常的に行き交う

「開かれた土壌」:学校内だけに閉じず、地域や社会の人や資源にアクセスできる。

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大人が変われば、子どもも変わる

さらに言えば、この「学びの土壌」を下支えしているのは何かと言うと、それは子どもを取り巻く「大人のあり方」だ。我が身を振り返って、大人自身が子どもたちに期待するような「主体性」「探究性」「協働性」「社会性」を重視する生き方を実践しているかどうかが問われることになる。

例えば、最近では教員の働き方改革やICT導入などが進んでいるが、就業時間や情報環境の問題だけではなく、自らの仕事のやり方を顧みているだろうか。誰かのせいにして、愚痴や不満を漏らすだけでなく、何のためにやるのか、何が課題で、どう解決すればよいのか、自分たちができることは何なのかを主体的に考えて働いているだろうか。

あるいは探究性に関しても、大人が学ぶことの喜びを忘れず、今でも好奇心や探究心をもち続けながら、学んでいるだろうか。「忙しい」「時間がない」と言い訳せずに、今までのやり方にあぐらをかかず、試行錯誤や探究をしているだろうか。

協働性や社会性が大事と言われるが、大人が多様な人々とチームで仕事ができているだろうか。教員であれば、教科や学年、分掌等の壁を越えて協働しようとしているか、校内の教員集団だけでなく、保護者や地域社会の多様な人たちと対話し協働しようとしているかを、改めて問い直してみる必要があるかもしれない。

私も含めてだが、大人はなかなか変わろうとしない。年齢を重ね、成功経験を重ねてきた人間ほど、かたくなになりやすいものだ。できれば従来のままのやり方を踏襲しようとするし、周りもそのことに異を唱えるのは難しい。

ただ、そうした人たちがいったん変わろうとすると、周りに与える影響は大変大きい。だからこそ、年をとるほど意識的に学ぶ必要があるのかもしれない。いずれにしろ、自分が変化することや学ぶことをあきらめ、大人が変わろうとしないままで、今はやりの「探究風」の授業のやり方だけを導入し、子どもにだけ変化を期待しても、望ましい成果は得られないだろう。

2020年度から文部科学省は、AI新時代にふさわしい学習指導要領を小学校から高等学校まで順次導入していくことになった。新時代の教育を支える重要ポイントと位置付けた「カリキュラム・マネジメント」においては、現代社会が抱えるさまざまな問題に対応できる資質を育てるために、教科を横断した学習や地域の人的資源の活用も求めている。

これまでの教育改革は教育課程の内容を見直すことばかりに視点が置かれて、教育現場は学校の授業の変革だけを考えていた。しかし、新しい学習指導要領は、社会全体の教育観を質的に転換することで、児童・生徒の主体性を引き出しながら、深い学びを実現していくことをめざしている。それはまさに私たちが高校魅力化によって実現していきたいと思っている教育に呼応するものである。

私は魅力ある学校づくりは、大人にとっての「総合的な探究の時間」だと思っている。唯一の絶対解はない。大人も忙しかったり、さまざまな困難や問題を抱えている。それでもよりよい教育や学校に向けて希望をもち、主体的に課題を見つけ、多様な人たちと協働しながら、粘り強く試行錯誤や挑戦をしていくことが求められる。よりよい未来へ向けて私たちが探究している姿やその過程自体が、学びの土壌を豊かに耕し、学校と生徒を変えていく。大人も子どもと共に探究していくことが重要なのである。

《続く》

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教育からの地域・人・未来づくり

岩本悠さん(地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表)

大学時代から途上国支援や開発教育に取り組む傍ら、卒業後はソニー(株)で人材育成や組織開発に従事。2006年に東京から島根県の海士町へ移住し、廃校の危機にあった県立高校で教育改革に取り組んできた。

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