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地域づくり情報局

学校を拠点にまち(地域)育て

「秋津コミュニティ」顧問として、学校区の生涯学習の充実に尽力してきた岸裕司さんが、学校と地域が一体となった学びの場作りの極意を語ります。

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2019年01月15日 (火)

子ども「も」民主的なコミュニティ育ての主体者仲間

楽しいことなら子どもは自主性を発揮する

「岸さん、あの子、秋津の子じゃないのよ!」と、PTA役員のお母さんが、私に言いに来た。

前回に紹介した「秋津っ子バザー」の最中に。

「お、またチクリかな?」と、私は思いつつ、その子の売り場に行った。

確かに秋津っ子ではない。

「きみは、どこの子?」と、私はきいた。

「はぃ、香澄でㇲ」と、少しきまりが悪そうに語尾を下げながらこたえた。

「そうか、出張販売か!」と、思わず私は言っていた。

「おまえ、偉いなあ!」と、横にいたコミュニティ仲間のお父さんが、その子を褒めた。

この子は隣町から販売に来ていたのである。

 

で、「出張販売」のことで思い出すのは、チューボー(中学生男子)のこと。

毎年開催してきた秋津っ子バザーが6年くらい過ぎた頃、秋津小を卒業して中学生になった数人のチューボーが、バザーのコーナーを開いていた。

「おじさん、〇君はね、横須賀に越したんだけど、来たんだよ!」と、顔見知りのチューボーが言う。

「へえ~、きみ、横須賀からか? 遠いじゃん!」と、私は驚いて〇君に投げかけた。

「うん、でも楽しいから来たんだよ!」

「売るものも、前から貯めていたんだ!」「重かったけど、電車でもってきたんだよ!」と、〇君は得意顔で言う。

「そうか、遠くからもってきての出張販売か! 偉いなあ!」と、私は思わず言っていた。

このときが、「出張販売」の言葉を使った最初であった。

で、思った。 

子どもでも、遠くても、たとえ電車賃をかけてでも、楽しいことであれば自主性・主体性を発揮してやって来るんだ、とね。

だから、大人がすることは、子どもの声をきくこと、意見に耳をいつもそばだてていることが大切なんだ、ということを、である。

 

「子ども参画の8段のはしご」~子どもの自主性・主体性を高める~

子どもの自主性・主体性を養うことの大切さは、子どもたちと触れ合う際に、いつも意識している。

 そのことを、より強固な確信に意識させてくれたのは、ニューヨーク市立大学教授のロジャー・ハート著の『子どもの参画』(※)を読んでからである。

この本には、「子ども参画のはしご」の図と解説があった。

「はしご」は、8段ある。「参画」は、「参加」よりも自主性が高い意識のこと。

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「子どもの参画の8段のはしご」。図はロジャー・ハート著『子どもの参画』に所収

 

はしごは、下から1.「操り参画」、2.「お飾り参画」、3.「形だけの参画」と、参画の度合いが上昇し、この3段階を、ハートは「非参画」と言う。

で、4段目の「子どもは仕事を割り当てられるが、情報は与えられている」から、徐々に参画意識が高くなり、5.「子どもが大人から意見を求められ、情報を与えられる」、6.「大人がしかけ、子どもと一緒に決定する」、7.「子どもが主体的に取りかかり、子どもが指揮する」であり、最上段の8段目が「子どもが主体的に取りかかり、大人と一緒に決定する」である。

  

そこで、このはしごを、先の「出張販売」の子らに当てはめてみた。

6.段目に相当するのではないだろうか、と思った。

以後、秋津っ子と触れ合う際には、このはしごを当てはめて考えるようになった。同時に、子どもたちのより主体的な参画意識を高めるためには、どのように仕掛けたらよいのだろうか、とも意識するようになった。

で、この本の出版社から推薦文を頼まれた。

で、書いたのがこれである。一部であるが再掲させていただく。

「参画のはしご」と「融合の発想」

「秋津コミュニティは、何をするにも「融合の発想」により習志野市立秋津小学校を地域の拠点にしながら年間365日を通してさまざまなことを行い、まちづくりにまで発展してきています。(略)本書でハート氏は、「私たちの究極の目的は、学校および学校のカリキュラムをコミュニティづくりと結びつけることが当り前の教育概念になるようにすることである」(59頁)と述べています。「学校を地域に開放すること」で、学校教育が間違いなく充実し、まちづくりにまで発展することは、もはや疑いはありません。本書を特に教育関係者におすすめする所以です。」

 

「秋津っ子ガイドサークル」が発足し

ある日の休校日。コミュニティルームで、いつものように子どもたちと戯れていた。

「ユーくん(私の愛称)、今日は見学はないの?」と、〇子ちゃんにきかれた。

「うん、今日はないよ、どうして?」と私。

「だって、見学があるとお菓子とかくれるじゃん!」と、〇子ちゃん。

「そうか! この子らは、秋津コミュニティに視察にやってくる大人たちのくれるお土産が楽しみなんだな!」と気付くと同時に、むかっ腹がたって、こう叫んだ。

「おまえらな~っ、おじさんおばさんだけに見学案内をさせないで、おまえたちもやれよ!」と。

すると、一様に「いいね!」「おもしろそう!」と乗ってきた。

おじさんおばさんの後姿をみて育ったせいか、この子たちも立派な秋津の仲間に成長していたのである。

 

そこで直ぐに秋津コミュニティの登録用紙への記入をうながし、どんな案内ができるのかを話し合い決めた。

登録用紙に書いたことは、以下である。

・名称:秋津っ子ガイドサークル

・活動:秋津小や秋津コミュニティの活動や手づくり施設の解説・説明ガイド

・目標:見学視察の方々からほめられるガイドになること。ガイドを通して秋津のことを「ふるさと」と想えるようになること。

どうでしょうか。このような経緯で誕生した秋津っ子ガイドサークルは、はしごの何段目になるでしょうか。6.「大人がしかけ、子どもと一緒に決定する」あたりでしょうか。

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「秋津っ子ガイドサークル」の女の子らが、秋津コミュニティの参観者をご案内。

 

で、私たちがこの子らへのガイドの案内を、2週間ほど頼まなかったことに業を煮やし、〇子ちゃんから電話があった。

「ユーくん、いつやるの!」と。私はどぎまぎした。

で、「押しかけガイド」(〇子たち、ごめん!)のようにしてデビューしたのが、2002年の11月17日(日)である。

ガイドを受けたのは、千葉県が主催のボランティアコーディネーター養成講座の受講者と担当2名の計21名。

後日、ご担当の方からお礼のメールをいただいた。

ガイドの子らへの温かい励ましや、秋津コミュニティの様子もわかるので紹介する。

 

「私たちを出迎えてくれたのは、小学校と中学生で今年から組織された案内ボランティアの子どもたちでした。感心しました。21人分のお茶の接待も彼女たちが見事にこなしていました。ここで本当に楽しそうに過ごす大人たちを見て、私たちもこのおじさんやおばさん、お姉さんのようになりたいと感じつつ始めたのが彼女たちの案内ボランティアなのでしょう。

彼女たちの案内で建物内と校庭の陶芸窯、ビオトープ、秋津の住民が学校から借りている農園や花壇、秋津コミュニティ発祥のシンボルである初代、二代、三代の飼育小屋の説明を受けました。

人任せではなく自主・自律・自己管理をしてきた秋津の方々は、学校という公共施設を生涯学習施設に変えてこられたんだなぁ、ということがよく理解できました。

日も暮れかけてきた頃、いつのまにか子どもたちの姿は消え、大人たちの輪になっていました。これだなと思いました。子どもたちは、大人たちにバトンをわたして家路についている。ここに集うおじさんやおばさんや地域の大人の人たちを、本当に好きなんだなぁという思いがしみじみと感じられ、大人と子どもたちが自然に楽しく集うことのできる場が秋津小、秋津コミュニティであったのだろうと思いました。学校の新しい機能を発見した今回の訪問視察でした。」

 

このガイドサークルは、コミュニティの41番目の登録サークルとして発足した。

メンバーは、中学1年生が1人、小学4・5・6年生が5人の全員女の子。

内部に「子どもの部」と、私を含むおじさん2人と大学院生のお姉ちゃんとの「案内内容の検討などの大人の部」とをつくった。子どもの部は、中学生が「子どもの部の会長兼書記」、小学生が「会場係」2人、「進行司会」1人と、面白いのは「接待係」が2人である。これらの仕事(?)は、自分たちで相談して決めた。

 なので、先の視察者が感心した「21人分のお茶の接待も彼女たちが見事にこなしていました」も、接待係の少女らが行ったのである。

 この事実から、先に述べた「子どもたちのより主体的な参画意識を高めるためには、どのように仕掛けたらよいのだろうか」の、大きな手掛かりを得たのである。

 

子ども「も」まち育ての主体者仲間

この頃に、竹中工務店副社長の石川史郎さん(残念ながら故人です)が、秋津コミュニティの視察にお見えになった。石川さんは、経済同友会の「学校と企業・経営者の交流活動推進委員会委員長」である。その視察後に、彼はこのように、子どもたちのことを言った。

「ここの卒業生は、全員うちの会社で採用したい」とね。

おせじかもしれないが、私はとてもうれしかった。

で、その後に石川さんのお誘いで、こども環境学会の発起人になり、2004年5月の同会の設立大会に参画し、同時に秋津の紹介コーナーを出した。

その大会の国際シンポジウムに、『子どもの参画』の著者のロジャー・ハートさんが、海外からのほかの方々とともに参画した。

その際、ハートさんに、秋津コミュニティの活動とともに、ビデオの映像を交えて紹介した。

彼は、感嘆の声をあげた。そして、私が持参した著書に、コメントを寄せてくれた。

Good luck in involving children in your commnity work Akitsu.

Roger Hart May.2004.

(子どもたちを巻き込んでの秋津コミュニティに幸運あれ! ロジャー・ハート 2004年5月)

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ロジャー・ハートさんが秋津へのメッセージを寄せた著書

 

その後の秋津っ子の参画度合いは、「子どもの自主性をうながすには、子どもに聞くことが大切」と思い実行したことで、どんどんとあがっていった。

たとえば、「秋津ストリート・バスケットサークル」である。

土曜日も全部学校が休みになり、主に中学高校生男子の居場所づくりをねらって開始した。

経緯の詳細は省くが、うろつく彼らに「おまえたちは何をしたいんだ?」ときき、彼らを主体に大人が応援したのである。

これは、最上段の8.「子どもが主体的に取りかかり、大人と一緒に決定する」ではないかと思う。

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「秋津ストリート・バスケットサークル」の中学高校生ら。組み立て式のバスケットをおやじらが3万円出して購入した。

 

もっと上段ではないか、と思ったのは、「星★卵(ほしたまご)」の誕生である。

小学生の女の子たちが、コミュニティルームで、秋津祭りの「星空コンサート」に出演するために、歌と踊りの練習をしていたのである。自主的に。

その自主的で元気な様子に、大人たちは感激して巻き込まれていった。

ということは、この子らの参画度合いは、ハートさんのはしごにない新しいあり方ではないか、と思った。

すなわち、9段目(?)「子どもが主体的に取りかかり、大人が巻き込まれる」ではないだろうか、とね。

このように、子ども「も」民主的なコミュニティ育ての主体者仲間と考えて、さまざまなことを実現してきたのである。

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「星★卵(ほしたまご)」の女の子たちが、秋津祭りで歌と踊りを自主的に御披露。

 

※ロジャー・ハート著『子どもの参画~コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』(IPA日本支部訳、木下勇・田中治彦・南博文監修、萌文社、2000年)

学校を拠点にまち(地域)育て

岸裕司さん(「秋津コミュニティ」顧問)

「秋津コミュニティ」顧問。文部科学省コミュニティ・スクールマイスター。1986年から習志野市立秋津小学校PTA会長を含む役員を経験し、以後、学区の生涯学習に取り組んできた。「学校開放でまち育て-サスティナブルタウンをめざして」(学芸出版社)など著書多数。

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