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2022年03月14日 (月)
番組担当ディレクター・取材見てある記 vol.8:結城登美雄さんと巡る三陸の浜【1】石巻・十三浜の漁師さんたち
3月12日(土)放送のETV特集 『揺れながら 迷いながら~民俗研究家・結城登美雄が見た三陸~』。東北を中心に全国の農山漁村を訪ね歩き、地域にあるものを生かした地域再生への提言を続けてきた、仙台在住の民俗研究家・結城登美雄さんが、震災11年目の三陸の浜を歩き、海に生きる人々の心を見つめました。
番組制作を担当した窪田栄一ディレクターに、取材の現場での魅力的なエピソードやこぼれ話を紹介してもらいました。
結城登美雄さんは、これまで東北を中心に全国の農山漁村を訪ね歩いてきました。地域の暮らしや民俗、食文化などを掘り起こして著作や新聞・雑誌などに発表するとともに、各地の地域づくりを応援してきました。
三陸の浜を巡る結城登美雄さん
2011年に東日本大震災が発生すると、結城さんは毎年、被災した三陸の浜に通い、漁業再生をめざす漁師さんたちの姿をカメラに収めるようになりました。今回の番組では、震災10年を経た宮城県石巻市・南三陸町・気仙沼市を訪ねる結城さんに同行取材しました。
石巻市では、北上町十三浜を取材しました。十三浜は石巻市街から車で40分あまり、北上川の河口の先に続くリアス式海岸に小さな漁港が点在しています。十三浜の漁業集落では、家族単位での漁船や養殖業が主体です。
石巻市北上町十三浜
今回の番組で、十三浜の小指集落で50年以上も刺し網漁をされている、佐藤公男さんと妻のとみ江さんを取材させていただきました。
佐藤公男さん
ウニの殻をむく佐藤とみ江さん
公男さんは、海中に網をしかけておいて、かかった魚をとる刺し網漁をしています。最近は以前ほど魚がとれず、新型コロナの影響もあって高級魚の値段も下がっているそうです。
公男さんは震災後、自宅を流されたため高台に家を再建しましたが、海の近くにあった自宅跡地には、小さな作業小屋を建てました。海の近くにいないと落ち着かないそうで、ふだんはそこに寝泊まりされています。この作業小屋は、自力で建てたそうで、電気の配線も自分でしたそうです。器用でたくましく、生きる力のある漁師さんです。
公男さんが自力で建てた作業小屋
室内
作業小屋に結城さんと伺うと、公男さんがとった魚介類を料理して、もてなしてくださいました。クロソイの刺身。カレイやドンコ、タコの煮付け、そしてツブ貝。すべて十三浜の海の恵みです。
とったばかりの魚をさばく公男さん
食卓にならんだ十三浜の海の幸
干し魚
さらに、小屋にはタラなどの魚が干してありました。とった魚ですぐに食べない分は干し魚にして親戚やご近所に配り、かわりに畑で育てた野菜などをもらうそうです。
公男さんはじめ、十三浜の多くの漁師さんたちのお宅では、自分たちでとる魚介類や海藻だけでなく、野菜や山菜・キノコなど、食卓にのぼるほとんどの食材を、店で買わずに、物々交換などでまかなうことができると聞いて驚かされました。
十三浜での海藻の採取(撮影:結城登美雄さん)
キノコの採取(撮影・結城登美雄さん)
結城さんは、十三浜を含む北上町がさまざまな食材に恵まれていることに注目してきました。地域の食文化を見直して子ども達に伝える「みやぎ食育の里づくり」を宮城県の事業で手がけるなど、震災前から関わりを持ち続けてきました。
「この地域の女性から、『ここは一年を通じて、海から川から山から畑から田んぼから、ごちそうが次々にやってくる、私の食べ物のデパート。お金がなくても安心して子育てができる場所です。』と聞いたことがあります。食べなければ、人間は生きられない。その食べ物が身近にあるということが豊かさなんです。そして、それを作る人がいるということ。これが、良い地域である一番の基本なんです。」と、結城さんは言います。
十三浜では現在、ワカメやコンブ、ホタテなどの養殖が盛んです。今回、取材させていただいた大室集落の佐藤徳義さんは、ワカメとコンブの養殖を手がけています。
ワカメやコンブは、晩秋に、種苗をロープにはさみつける「種付け」を行います。そのロープを海中に張って、翌年の春に収穫するのです。養殖といっても肥料をやるわけでもなく、海水中の養分と太陽の光だけで育ちます。
佐藤徳義さん
ワカメの種付け(11月)
ワカメの種苗
津波で、十三浜の漁師さん達は大きな打撃を受けました。佐藤徳義さん(66)も、家や漁船、養殖設備を流され、ローンを抱えて、ゼロからの再スタートとなりました。そんな状況の中で、復興への大きな力になったのが、支援者とのつながりでした。
震災直後、被災した方々の状況を全国の人達に伝えて支援につなげようと、十三浜の避難所に東京の出版社の雑誌記者がやって来ました。そして、結城さんのアドバイスも受けながら、漁師さんたちを支える新たな取り組みを始めたのです。それは、全国の家庭に直接ワカメやコンブを届けるとともに、雑誌の記事などで、浜の暮らしや漁業の実態を知ってもらおうというものです。この取り組みに賛同した多くの読者から、ワカメやコンブの購入申し込みが来るようになりました。
全国の家庭に届けられるワカメ
漁業は、気象や海水温など自然環境に左右され、市場価格の変動の影響も受けやすい産業です。そんな中で、食べる人と直接つながり、生産現場の状況も理解してもらいながら、一定価格で買い支えてもらえることは、漁師さん達にとって生活の安定につながりますし、感想の手紙などをもらえば大きな励みにもなるのです。この取り組みは「浜とまちをつなぐ 十三浜わかめクラブ」として、今も続けられています。
さらに震災後、東京の自由学園高等科の生徒達が毎年、ボランティアで収穫作業などを手伝いにやってくるようになりました。漁業者の家族に混じって作業を行い、どのようにして食べものがつくられているのかを身をもって知るとともに、とれたワカメやコンブは学校の食事にも使われています。一昨年からは新型コロナの感染拡大でこの交流は中止されていますが、感染がおさまれば交流を再開したいと、自由学園の佐藤史伸先生はおっしゃっていました。十三浜の佐藤徳義さんたちもそれを望んでいます。
十三浜でボランティアを続けてきた高校生たち
日本の沿岸漁業は、経営的に厳しい状況が続いていて後継者不足に悩まされています。「最初は被災した漁師さんたちを支える目的でしたが、危険と隣り合わせの海の仕事を知るうちに、私たちの食卓は漁師さんに支えられていたのだと気づきました。これからも、生産現場への理解を深めながら、支え合う関係を育てていきたいです」と、「十三浜わかめクラブ」代表の小山厚子さん(仙台在住)はおっしゃいます。
震災で大きな打撃を受けた十三浜。海に向かい合って生きる漁師さんたちの営みが、これからも続いていってほしいと思います。そして、「十三浜わかめクラブ」や自由学園のような取り組みを、これからも取材し続けていくつもりです。
>> 取材見てある記 vol.8【2】浜は祈りの空間である はこちら