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2018年03月08日 (木)

番組担当ディレクター・取材見てある記 vol.7:見守りから始まる地域づくり

NHKの復興支援番組「明日へ つなげよう 復興サポート」では、震災の年の2011年から取材を進め、地域の住民と共に、「孤独死のない地域づくり」をテーマに話し合いを続けてきました。津波でふるさとを流された人たちは、ふるさとのコミュニティから離れ、仮設住宅で生まれた新しいコミュニティからも離れて、災害公営住宅などの「終の棲家」に入ります。その時、そこで孤立し、引きこもり、決して孤独死などしないように、これまで岩手県釜石市で5回、大槌町で2回、全国から専門家を招いて話し合いの場を持ち、番組を放送してきました。

今回は、釜石市・大槌町の住民が一堂に会して、8回目の話し合いの場を持ちました。番組を担当した倉田園子ディレクターに、取材で感じたこと、考えたことを記してもらいました。

kurata1.jpg釜石で行われた「復興サポート」収録

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私はNHKグループのひとつであるNHKプラネット東北支社に勤務し、ふだん仙台を拠点に東北で番組を作っています。今回担当した孤独死をテーマとした「明日へ つなげよう 復興サポート」は、通算8回目の放送ですが、過去の番組シリーズは、一人の視聴者として見ていました。

釜石市での番組は初め、避難所から仮設住宅に移った被災者が、仮設住宅で孤独死を出さないためにはどうしたら良いかを話し合うものでした。復興サポーターとして釜石支援に訪れたのは、かつて「年越し派遣村」の村長を務め、今は法政大学教授の湯浅誠さんと、大阪府豊中市社会福祉協議会のコミュニティ・ソーシャルワーカー、勝部麗子さんです。勝部さんは、阪神・淡路大震災の被災地となった豊中市で、住民ボランティアと共に孤独死対策に成果を上げた方です。

釜石での番組は、年1回のペースで5回作られてきましたが、初めは、仮設住宅での見守りについて話し合っています。豊中市の勝部さんたちの実践をVTRで見ながら、「地域の見守りの主役は、地域の住民である」ことを学びました。                   

関連動画:「地域の課題を発見・解決する見守りネットワーク」

その後、復興公営住宅の建設が始まると、復興公営住宅の中でのコミュニティづくりと、近隣住民とのつながりづくりを、これも豊中市の実践から学んでいます。   

関連動画:「住民のつながりで ひきこもりなど地域の課題を解決」

一方、大槌町は、津波が町役場までを襲うなど、震災で壊滅的な被害を受けた町です。住民たちは震災後、行政だけに頼るのではなく、自分たちで出来ることは自分たちでしようと、次々にボランティア団体を立ち上げました。そうしたボランティア団体に対してアドバイスを続けてきたのが、阪神・淡路大震災の被災地、神戸市東灘区にあるNPO、コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)の理事長、中村順子さんです。

番組の中で中村さんは、阪神・淡路大震災の当時、避難所で自然に立ち上がっていった「炊き出し」や高齢者の「病院への送迎」「サロンづくり」などのボランティア活動が、その後、地域のNPOが取り組むコミュニティ事業に発展していった経験を話してくれました。

大槌町では、中村さんからの学びを生かして、住民たちが主体的に、様々なボランティア活動を始めていきました。                         

関連動画:「災害復興ボランティアからコミュニティ事業へ」

大槌町でも、釜石市でも、住まいが変わったり町の状況が変わったりするたびに、新しく持ち上がってくる地域の課題に対して、「自分たちの手でなんとか解決しよう」と立ち向かう住民の皆さんの姿は、とても力強いもので心を動かされました。今回、ディレクターとして入った現場で、直に感じた皆さんの熱気をお伝えします。

釜石市 見守りから始まった地域づくりが発展

釜石市では、津波で流された沿岸の地域でも、新しい家の建築が進み、計画されていた1300戸の復興公営住宅のほとんどが完成しました。課題は、暮らしている人の高齢化です。復興公営住宅の高齢化率は、48%。復興公営住宅に住む人のうち、約3割は一人暮らしの高齢者です。復興公営住宅には、別々の仮設住宅からバラバラに住民が移り住んできますから、住民同士のつながりはありません。特に、高齢者の孤立が問題となっていました。

この課題に向き合ってきたのが、釜石市野田町5丁目の町内会です。ここには、元々、「野田住宅団地」と呼ばれる320戸の一戸建ての分譲住宅地がありました。震災後、そこに戸数32戸の復興公営住宅が建ったのです。「孤独死のない地域づくり」を掲げる町内会の活動は、復興公営住宅だけでなく、地域全体に広がっています。

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釜石市野田町・暖チーズの見守り活動

活動の中心は、結成から2年、団地に住む人なら知らない人はいない、ピンクのベストの女性ボランティアグループ『(だん)チーズ』です。町内会の女性たち11人が、ゴミ出しや掃除、買い物などの高齢者の困りごとを手伝いながら、きめ細かに見守りをしています。また、月に一度、お茶を飲みながら気軽におしゃべりが出来るサロンも開いています。去年12月のサロンの日、復興公営住宅にある公民館に行ってみると、復興公営住宅やその周辺に住む一人暮らしの住民など、30人以上の住民が集まっていました。この日の催しは、ボランティアのゲストによる女形の舞踊。男性とは思えぬ妖艶な舞に、会場は大いに盛り上がりました。

kurata3.jpgのサムネイル画像

サロンの出し物は女形の舞踊

サロンを見ていて印象的だったのは、参加者それぞれがリラックスして楽しんでいたこと。その雰囲気を作り出しているのは『暖チーズ』の心配りです。会場への案内、食事の配膳、休憩の間にも、参加者一人一人に声をかけたり、事前に席順を決めて一人で参加した人も周りと交流できるように配慮したりと、行き届いた工夫がされていました。

お昼に振る舞われたのは『暖チーズ』お手製の温かい「ひっつみ(すいとん)」。野菜がたっぷり入り、お年寄りもおいしく食べられる薄味で、参加者からは「おかわり」が続出していました。メニューは毎回メンバーで話し合い、3月はひな祭りに合わせて「ちらし寿司」、夏は「冷やし中華」、ときには「カレーライス」など、季節に合わせたものや、お年寄りがふだんあまり食べていないものを作っているそうです。クリスマス間近には、靴下のプレゼントまである充実ぶり。出歩くのが億劫になり、つい家に引きこもりがちになってしまうお年寄りたちも、サロンに通ううちに顔見知りが増え、連れだってやって来るようになったそうです。

また『暖チーズ』では、より多くの人に参加してもらいたいと、サロンの前には高齢者の家を一軒一軒訪ね、直接会ってサロンに誘い出す工夫も続けています。忙しい主婦業の合間に、こうした活動をこなす『暖チーズ』のメンバーたち。「自分たちも楽しみながら、できる範囲のお手伝いをしているだけ」と話す、その気負わない優しさと地道な活動が、住民たちに安心感を与えているように感じました。

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野田町のもちつきイベント

去年の末、野田復興公営住宅の駐車場では、町内会主催の餅つきイベントが開かれました。地区の子どもたちと大人たちが一緒に杵を持って餅をつき、交流を深めました。同じ日、町内会では今後の交流活動の資金作りのため、初めてバザーも開催しました。商品は、住民たちに提供してもらった家庭にあった品々。熊本の被災地か送られてきたスダチやユズも、格安で販売されました。「自分たちのことは自分たちで」という町内会長の黒田至さん。ボランティアの力だけでは足りないところは、行政の支援を引き出しながら、震災をきっかけに始まった活動を、これからの地域づくりにつなげていきたいと熱く語ってくださいました。

関連動画:「阪神淡路に学んだ 見守りボランティア」

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不用品など持ち寄ったバザー

大槌町 コミュニティ事業が動き始めた

津波で壊滅的な被害を受けた大槌町では、今ようやく沿岸部の土地のかさ上げ工事が終わり、復興公営住宅の建設もおよそ6割が終わりました。まだ仮設住宅に暮らす人も多くいます。この町では、震災直後から、長引く避難生活でバラバラになった住民同士のつながりをつくろうと、住民がボランティア団体を作って活動してきました。ずっと大槌町への支援を続けてきた、CS神戸の中村順子さんのアドバイスもあって、その活動は今、様々なコミュニティ事業に発展しています。

kurata6.jpg大槌町の農園

大槌町のボランティア団体のひとつ『新生おおつち』では、引きこもりなどさまざまな課題を抱える人や、仮設住宅や復興公営住宅に住む人、子育て中の家族など、みんなで集まって野菜を育てる農園を通して、つながりづくりをしてきました。そして去年4月には、「地域食堂」の事業をスタートさせました。

「地域食堂」が開かれるのは月に一度。地域の集会所を会場に、一食大人300円、子ども100円の夕食を、30食限定で提供します。食材には、農園で収穫した旬の野菜と、地元の個人商店で購入した肉や魚を使っています。震災後の人口流出で、かつての常連客が町を離れる中、「地域食堂」は、商店の売り上げにも貢献しています。

食堂の料理を作るのは、『新生おおつち』のメンバーと、地域の女性たちです。中には仮設住宅に住む一人暮らしの女性もいます。その女性は、作るのも食べるのも一人、ということが多く、自分が作った料理をみんなにおいしく食べてもらうことが、生きがいになっていると言います。さらに、会場に机を並べるなどの力仕事は、引きこもりがちだった青年たちが行っています。この人たちには、1回1,500円の謝礼が支払われ、小さな収入にもなっています。

kurata7.jpg大槌町の地域食堂

夕方、食堂がオープンすると、近所に住む一人暮らしのお年寄り、親子連れ、単身赴任者、農園の仲間などさまざまな人がやってきます。印象的だったのは、避難でバラバラになった人たちが偶然再開して懐かしむ様子を、一晩で何組か見かけたことです。「アレ~!久しぶりだったね~!」といった声が、食堂のあちこちから聞かれました。最近では「地域食堂に行けば誰かに会える」と、遠くの地域からわざわざやって来る人もいるのだそうです。今も、震災で途絶えてしまったかつてのコミュニティへの愛着は消えていないのだと改めて感じました。「地域食堂」が、さまざまな形のつながりを作りだしていました。

関連動画:「ボランティア活動からコミュニティ事業へ」

 

神戸市 高齢者が気軽に集まれる 常設の居場所づくり

釜石や大槌の住民たちの地域づくりに、具体的なアドバイスを送ってきたのは、阪神・淡路大震災を経験した、CS神戸の中村順子さんと、大阪府豊中市の社会福祉協議会の勝部麗子さんでした。そこでは、震災から23年が過ぎた今も、地域の課題を解決しようと、住民たちの活動が続けられています。今回の番組では、神戸市と豊中市の、現在の課題と、それを解決しようと進められている取り組みを紹介しました。

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神戸市東灘区の居場所「木洩童」。運営しているのは、『東灘こどもカフェ』(市民がつくるボランティア団体)

阪神・淡路大震災で最も大きな被害を受けた地域のひとつ、中村順子さんの暮らす神戸市東灘区では、今、マンションなどの集合住宅に住む高齢者の孤立が課題となっています。

その解決のために作られたのが、元旦以外は一年中開いている居場所『木洩童(こもれど)』です。7年前にできたときは20人だった会員は、現在、650人にまで増えました。ここに集まる人たちには、それぞれに役割があります。『木洩童(こもれど)』では、玄関先で、会員や近所の人たちが持ち寄った品物を並べて、バザーを開いています。品物を整理し値札を付けているのは、長年ボランティア団体でバザーの運営を行って来た徳永愛子さん。コートが800円、お皿は50円…商品の値段は全て徳永さんに任されています。バザーの売り上げは、居場所の活動資金になります。思わず買いたくなる徳永さんの絶妙な値付けが、居場所の活動を支えているのです。ここは、子どもの食育などを通して多世代の交流を目指すボランティア団体「東灘子どもカフェ」が運営しています。

また番組の撮影中、『木洩童』に立派な本マグロの塊を持ってきて、見事な刺身の盛り合わせを作り始めた人がいました。2年前まで鮮魚店を営んでいた大杉忠廣さんです。大杉さんは、引退後の悠々自適の生活を楽しみにしていたそうですが、いざ店を閉めてみると張り合いをなくしてしまったそうです。しかし今は、良い魚が手に入ると居場所『木洩童』に持ち込んで、自慢の腕を振るう他、定期的に『木洩童』で開かれる子どもの料理教室の講師を務めるなど、自分の特技が生かせる環境に、幸せを感じているそうです。神戸では、支援する側とされる側ではなく、お互いに支え合うつながりづくりが進められていました。

関連動画:「人のつながりが生まれる都会の居場所」

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マグロをさばく大杉さん

豊中市 ひとりぼっちを作らない地域づくり

釜石市にアドバイスを送ってきた、大阪府豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さんが活動してきた豊中市では、今も、多くの地域課題を解決しようと、合わせて8000人の住民ボランティアが勝部さんたち社会福祉協議会のコミュニティ・ソーシャルワーカーや市などの関係機関と連携して活動しています。これまで、阪神・淡路大震災の後に多発した孤独死をはじめ、引きこもり、ごみ屋敷、認知症高齢者の徘徊などのテーマに取り組んできましたが、今取り組んでいるのは、地域で孤立しがちな定年後の男性の居場所づくりです。

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「豊中あぐり」を視察する「新生おおつち」メンバー

大きな駐車場だった土地を掘り返して、農園『豊中あぐり』を作り、定年後の男性たちが、野菜を共同で栽培しています。男性たちは、とても楽しそうでした。夏には、農園でそうめん流しをしたり、水田も作っているそうです。男性たちは、ボランティア講習も受けていて、これからは地域を支える側に回っていくのだそうです。

今回私は、豊中市に行くにあたって、大槌町で地域食堂と農園をやっているボランティア団体『新生おおつち』のメンバーの見学に同行させてもらいました。『新生おおつち』の佐々木亮副会長は、都会のど真ん中に作られた農園『アグリ』を見て、ビックリ。自分たちにとっては、当たり前になっている農業の、都会人にとっての魅力を、改めて感じたようでした。

勝部さんたちが最近始めた『びーのマルシェ』というお店も、大槌町の皆さんと一緒に見学しました。1階は、『豊中あぐり』などでとれた野菜や地元のお菓子などが買えるようになっていました。店員として働いていたのは、引きこもりがちだった人たちでした。コーヒーを飲める休憩スペースもあり、大槌町の皆さんも店員のみなさんと楽しく会話して交流しました。さらにここには、東北や熊本から取り寄せた品物を販売する被災地支援のスペースもあり、さまざまな人がつながる拠点となっていました。建物の2階にあったのは、地域の人たちが集まる居場所です。ここには誰でも簡単にできる内職が用意されていて、集まった人たちは小さな収入を得ることもできます。今はまだ、町の施設などを借りて活動をしている大槌町のみなさんは、居場所を作る方法を、勝部さんに質問していました。とても勉強になったと、喜んでいました。

関連動画:「都会の農園でつながりと生きがいを取り戻す」

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 「びーのマルシェ」を見学

今回8回目になった「孤独死のない 地域づくり」を目指す復興サポート。番組の最後には、これまでアドバイスを送ってきた3人の方からメッセージがありました。法政大学教授の湯浅誠さん、豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さん、CS神戸の中村順子さん。3人ともおっしゃっていたことは、地域の課題解決というものは、「ひとつ越えると、また次が見えてくる」というものでした。そして、「課題から逃げずに、向き合い続けることで、良い町になっていく」。目の前の課題を、一つ一つクリアして、神戸市も豊中市も20年以上経ってみたら「地域づくりの先進地」と言われるようになっていたといいます。私は、東北に基盤を置くディレクターとして、釜石市や大槌町が、これから地域づくりの先進地になっていく姿を、見つめ続けていきたいと思いました。

kurata12.jpg左から湯浅さん、中村さん、勝部さん

 

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