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2017年02月07日 (火)

番組担当ディレクター・取材見てある記 vol.4「地域魅力化ドキュメント ふるさとグングン!熊本県山都町大野地区×吉本哲郎」より

番組の舞台となったのは、九州のちょうど中心部に位置する熊本県山都町(やまとちょう)大野(おおの)地区。地区の人口は、400余りで、その半数近くが65歳以上のお年寄りという、高齢化と人口減少が進む地域です。子どもの数も年々減少し、唯一の小学校は2012年に閉校になってしまいました。

住民たちの願いは1つ、「地区をもういちど元気にしたい」。

そこで、大野地区に向かったのが、地域づくりの達人、熊本県水俣市の元職員・吉本哲郎さんです。吉本さんは、「地元学」というご自身の方法と考え方で地区を元気にしようと試みます。1本目の動画「地域の宝を探そう」の中で吉本さんが行ったのが「聞き書き」と言われる手法。住民1人1人に対して、これまでの生い立ちや様々な出来事、今の暮らしなどについて話を丁寧に聞き取り、吉本さんがその方の生き方を文章にまとめて手渡しています。

地元学とは、地域に暮らす人々の声に耳を傾け、地域を知り学ぶことで地域の活性化につなげていく動きのことです。その基本的な考え方は、「ないものねだり」ではなく、「あるもの探し」。つまり、その地域にもともとある自然や文化、人の魅力を最大限に引き出して、磨きをかけることで、地域を元気にしていきます。吉本哲郎さんは、そうした地元学の提唱者の一人。吉本さんが行った「聞き書き」は、人の魅力とやる気を引き出すための地元学の手法なのです。

今回、番組制作を担当したのは、吉永亮二ディレクター。3カ月にわたって住民たちを取材した中で、吉本さんの「聞き書き」をきっかけに、大野地区の住民たちに“希望の連鎖”が起こっていくのを目の当たりにしたと言います。取材を通して、吉永ディレクターが感じたことを聞きました。

この番組の動画は、地域づくりアーカイブスの「コミュニティ・商店街」のカテゴリーに、「地元学で地域を元気に」というタイトルで「【1/3】地域の宝を探そう」「【2/3】水俣の経験に学ぶ」「【3/3】動き出した地域づくり」の3本をアップしています。


「聞き書き」から始まる“希望の連鎖” 吉永亮二ディレクターの話


吉本哲郎さんが大野地区に入った当初、住民たちから聞こえてきたのは現状を嘆く声ばかり。そこで、吉本さんは住民1人1人をまわり、「地域の宝探し」を行っていきました。

これは、番組では紹介しきれなかった吉本哲郎さんの聞き書きの文章の一節です。大野地区で暮らす村山誠美(よしみ)さんの人生を綴ったものです。


昔のことはいい、今と未来が大事

  楽しみを今に生きる力に替え 大野に生きる村山誠美さん(70歳)

20170207_001.png 村山誠美さん

大野に暮らす村山誠美さんを訪ねた。花と提灯桜が迎えてくれた。桜は、今は亡き母の植えたものだった。誠美という名前は亡き実父が生前につけていて、男でも女でもいいようにとつけていたと母から聞きました。まだ私がおなかにいたときに父は亡くなって、母は料理してもつわりで食べられないから、生大根とかをかじらせて、食事していたみたいです。生まれたのは終戦後の昭和二十一年三月、朝鮮に生まれ日本に帰って来たのは昭和二十一年の五月。終戦後もすぐには帰れずにいたようで、帰ったのは私が生まれてまだ三ケ月のこと。 
私が生まれて、まだ首が座らずに顔が真っ黒になっていた状態で帰ってきたようです。母は、卵を一日二~三個飲んでいてそれで乳が出ていたから私が生きていたんです。私が元気に育ったのが不思議なくらいですよ。


現在、誠美さんは一人暮らし。自宅を取り囲むように、手入れの行き届いた たくさんの花が咲いています。誠美さんの父・健次さんは戦時中の朝鮮で亡くなり、誠美さんは終戦後に現地で生まれました。戦後の混乱の中で母・ハツミさんは亡き夫の墓に花を供えることができないまま、誠美さんを連れて日本へ帰国しました。
母・ハツミさんは、その無念を晴らすように庭に花を植え続けました。ハツミさんが亡くなった後は、誠美さんが花の手入れを引き継ぎ、大切に育てています。晩年は認知症を患った母・ハツミさんを誠美さんは介護し続け、その最期を看取ったといいます。
誠美さんは「苦労したという気持ちはあんまりない」と笑いながら話を続けました。


母は、晩年には認知症になっていたがずっと面倒を見ました。親離れ、子離れといわれるけど、母は子離れしていなかったかな。

昔のことはあまり話さないようにしいます、それよりも今と未来が大事。悪口は言わない聞いても聞き流す。悪口は言われない。そうねぇ、人生を振り返ってみると、これまでは、やさしさに恵まれています。


単に相手から話を聞いて記録するのではなく、その人が迷いながら下してきた人生の決断にじっくりと寄り添いながら、その人らしさを尊重して文章にしていくのが「聞き書き」です。吉本さんは、1人1人のかけがえのない個性や魅力をゆっくりと時間をかけて受け止め、その生き方を丸ごと包みこんで、肯定していきます。

吉本さんは、こう考えています。「自分では、当たり前と思っている人生の中にこそ、特別で格別な素晴らしい生き方が埋もれている。当たり前は、当たり前じゃないんですよ」

20170207_002.png 聞き書きをまとめる吉本さん

誠美さんは大野に生きる、生きている。昔のことはいい、今と未来が大事だと語る。苦労したという気持ちはあんまりない。辛かったのかもしれない昔よりも今に生きていた。これからの未来に生きていた。美しい生き方だった。

 

自分の人生を他人から認められるということは、どれほどうれしいことでしょう。長く生きるほどに、苦労を重ねるほどに、その喜びはひとしおだと思います。人は誰もが、「私の人生の選択はこれで良かったのだろうか」と迷いの中に生きていると思うのです。「聞き書き」を通じて、第3者に自分の人生を認めてもらい、これまでの生き方に誇りが生まれる。さらには、自分でも気づいていなかった自身の特別な魅力を改めて知ることができる。「聞き書き」は、人を根っこから元気づけるツールなのだと教えられました。

20170207_003.png 聞き書きを読む誠美さん

吉本さんから聞き書きの文章を手渡された誠美さんは、以前にも増して生き生きと美しくなりました。そして、「(地域のために)自分で何か力になれることがあるのかなというふうに感じたから、活動しなきゃいけないなと思いました」と語り、大野地区の地域づくりに積極的に参加し始めました。地域のために、誰かのために、何かをしたいという思いがわき上がったのです。


20170207_004.png 地域づくりに参加する誠美さん

誠美さんの聞き書きをはじめ、吉本さんが聞き書きをした何人もの方の生き様をまとめた文章は、住民たちの全体会合で披露され、本人に手渡されました。すると、それを聞いた他の住民たちの表情も明るくなったように見えました。大野地区の地域づくりが一層進み始めたのも、その頃からです。ある住民は、閉校となった小学校の掃除を1人で始め、ある住民は、子どもたちを楽しませるためのイベントを企画しました。住民1人1人が自分にできる特技や強みを発揮し、次々に地域での役割を担っていきました。それはまるで「聞き書き」が住民同士の架け橋となって地域に希望が連鎖して広がっていくようでした。


20170207_005.png みんなで畑づくり


地域には、様々な人生を歩んできた人たちが暮らしています。それぞれの人生は、一つとして同じでなく、かけがえのないもの、それぞれの生き方です。「地域づくり」というと、住民たちの取り組みをまとめて指す場合が多いですが、1人1人を尊重して1人1人が認め合うことが「地域の元気」を生み出し、地域に希望を広げて、活気ある地域をつくっていくことになると感じました。


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