調査手法の研究

世論調査における代替サンプル使用の問題点と検討

調査実施の際、回答が得られなかった正規の調査相手を他の人に置き換えることがあり、このときに置き換える人の集まりを”代替サンプル“という。日本の調査関係のテキストや文献で代替サンプルについて書かれたものをみることはほとんど無い。代替サンプルを用いると、ランダムサンプリングでは無くなり、母集団を推定できなくなるため、取り上げられてこなかったのだと思われる。

現在、世論調査の調査有効率の低下が問題になっており、それによる偏りを補正するために、代替サンプルを用いたらどうかという声が聞かれることが多い。また、すでに、その問題点を理解しないままに代替サンプルを安易に用いている場合も多いと思われる。また、現在では、インターネットなどを利用した非確率抽出法の調査が当たり前のように出てきており、「ランダムサンプリングではない」という説明が理解されにくくなってきている。そのため、代替サンプルの問題点を整理して示す必要があると考える。

本稿では、まず、代替サンプルを用いるのに多くあげられると考えられる4つの理由について、それぞれの考え方の誤りや問題点を指摘した。また、代替サンプルを用いると、調査実施管理手順や調査員の調査に向かう態度が変わり、そのことによる調査の質への影響があることについて考察を行った。さらに、日本では「代替サンプル」を使用していることを公表しない場合が多いが、国内外の公表のルールや公表を実施している調査の例をあげ、公表の重要性を示した。そして、NHKが実施した過去の調査データを使用して、シミュレーションにより、代替サンプルが属性分布や回答分布に与える影響を検討した。

主任研究員 小野寺典子