海外放送事情

迷走する香港の「無料テレビ」新規免許問題

~迫られる香港政府の「結論」~

香港で、現在TVBとATVの2社だけが持っている無料テレビ免許を、3社の新規事業者に開放するかどうかの問題が大きな注目を集めている。世論調査の結果では、香港政府が新規の無料テレビ免許を交付することについて、賛成が84.9%で反対の2.9%を圧倒している他、政府の規制機関であるBA(放送業務管理局)も2011年7月、「3社全てへの免許交付が妥当」とする提言をまとめている。ところが実際に最終決定を行う香港の最高行政機構である「行政会議」は、その後一向に結論を出さないまま2年近くが経過した。遅延の背景には、既存事業者のTVBやATVが香港の広告市場の規模の小ささを理由に反対しているという「経済的」理由があるが、香港のメディア関係者の間では、真の理由は「政治的理由」との見方が多い。市民の間で中国共産党への嫌悪感が少なくない香港でテレビ界の競争を促進すれば、視聴率を上げるため中国を批判する報道が多くなる恐れがあるとして、中国政府が免許交付に難色を示しているという見方である。どちらが主な理由なのかを判断できる明確な証拠はないが、1つ言えるのは、香港政府が理由を明確にしないまま結論を引き延ばしてきたことが「政治的理由」という推測に一定の根拠を持たせたことである。またメディア関係者が一様に指摘するように、3社への免許交付は、香港の言論の自由にとってプラスの影響を及ぼすことも期待されている。香港政府は早急にこの問題に結論を出すと共に、免許交付もしくは不交付の理由を香港市民の納得のいく形で開示しなければならない。

メディア研究部 山田賢一