海外放送事情

地域における公共放送の役割

〈第2回〉フランス
問われる公共放送のアイデンティティー

中央集権的な国家フランスでは、1972年末になって公共放送がようやくローカル向け放送を開始し、80年代後半まで公共放送によるローカル放送独占の状況が続いた。公共放送France3は、チャンネルそのものが「地域密着」型のチャンネルと定められ、今では全国の24の地域局が、地域向けのニュースや番組を発信している。一方、立ち遅れていた商業放送は、2000年代になって全国各地に相次いで設立されていった。地方分権化の流れや、地方自治体によるローカル商業放送への財源支援、地上デジタル放送の発展などが追い風となったもので、今では公共放送の2倍近い43のローカル商業放送局が、地域向けのきめの細かいローカル情報を提供している。公共放送は多チャンネル化で視聴シェアが相対的に低下している。一方で要員数が肥大化しているとして、政府による合理化要求の圧力にもさらされている。フランスのローカル公共放送は、合理化を進める一方で、そのアイデンティティーである「地域密着」を体現できるのか、困難な課題に直面する事態となっている。

メディア研究部 新田哲郎