海外放送事情

韓国大手新聞社の放送事業本格参入から1年
―「総合編成チャンネル」はいま―

韓国では1980年に、当時のチョン・ドゥファン(全斗煥)政権が「言論統廃合措置」を断行して以来、30年近くにわたって、新聞と放送の相互所有が法律で禁止、あるいは制限されてきた。しかし、経済の再生・活性化を大義名分に保守系のイ・ミョンバク(李明博)政権は、所有規制の緩和を図り、その結果、全てのケーブルテレビや衛星放送での送信が認められている総合編成チャンネルに、政府の許可を得た保守系の大手新聞社4社が進出した。

これら総合編成チャンネルの編成表を分析すると、かつて、報道分野の放送番組を専門的に編成するチャンネルであった頃の実績を活かして、他チャンネルとの差別化を図っているチャンネルがある一方で、サッカー国際試合の単独中継やドラマの独自制作など、話題性のあるコンテンツによって視聴者の獲得を目指しているチャンネルがあるなど、スタートから1年を経過した現在、それぞれが独自のスタンスで生き残りを図っている姿が浮かび上がった。

しかし、問題点も浮かび上がった。韓国政府による事業者の選定にあたっての審査の不透明性の問題と、過当競争による各社の今後の行方についてである。とりわけ、今後の行方については、平均視聴率も2011年12月の開局以降、1%に満たない状況が続く中、韓国のメディア研究者からは「投資がないため良い番組が出てこず、視聴率が落ちてしまって、広告が集まらないという悪循環に陥っている」と、場合によっては総合編成チャンネルから撤退する戦略も選択肢として考えるべきであるといった指摘まで出ている。

今後の事業の継続については、総合編成チャンネル各社の努力もさることながら、過当競争のリスクがある中で、一度に4社に許可を与えた韓国政府が責任をもって、政策を再検討する必要があろう。

メディア研究部 田中則広