災害報道と国際協力
〔第1回〕 2011年タイ大洪水
混乱した政府の防災情報と放送局の役割
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2011年3月の東日本大震災では日本の災害報道が改めて注目された。特に災害多発地帯のアジアの国々では近年、国際協力のもとで防災体制づくりが進められており、その過程で放送局に役割を期待する声が高まっている。そこで、災害報道と国際協力について3回シリーズで考察する。
第1回は、2011年タイ大洪水の事例を取り上げる。2011年8月から12月まで続いたタイのチャオプラヤ川の大洪水では、農地だけでなく、日系企業が多く入居する工業団地やバンコクなど都市部も含む広範囲に浸水被害をもたらし、800人を超える犠牲者を出した。洪水被害が拡大した要因に、記録的な降雨量に加えて、政府の防災情報の混乱や防災意識を欠いた工業団地の開発など様々な問題点が指摘されている。中でも政府が住民に適切に防災情報を出せなかったという指摘は、次の災害に備えて早急に改善すべきポイントといえる。
では、政府からの防災情報が混乱する中で、タイの放送局はどんな災害報道を行ったのであろうか。筆者は2012年2月、国営放送NBTと公共放送タイPBSを訪問し、責任者に聞き取り調査を行った。本稿では、未曾有の大洪水で、放送局が果たした役割を報告するとともに、タイの防災体制の現状と課題をまとめ、今後の国際協力の在り方について考察する。