海外放送事情

「東日本大震災」は日中韓でどう伝えられたか

~国際シンポジウムでの報告・議論から~

「東日本大震災」は、世界中で大きく報道され、特に隣国の中国や韓国ではそうだった。しかしその内容については、韓国の報道に関して「扇情的」との批判がある一方、日本の主要メディアの原発事故報道についても、原発がメルトダウンしたのかどうか等の問題について、東京電力の発表をそのまま伝えるだけでかつての「大本営発表」のような報道だったとの批判が、特にネット上で多く見られた。

日中韓の3か国の放送関係者が毎年制作番組を持ち寄って交流する国際会議「日韓中テレビ制作者フォーラム」が今年は9月に北海道で開催され、3か国の東日本大震災報道をメーンテーマに議論を繰り広げた。本稿ではその概要を紹介する。

韓国外国語大学のキム・チュンシク(金春植)教授は、「韓国メディアの報道は扇情主義的」との指摘の検証などを目的に、東日本大震災が発生した3月11日から25日まで、NHKと韓国KBSの震災報道をそれぞれ夜9時からの1時間のニュース番組で比較分析した。この中で記事の土台となる情報の信頼性について、キャスターの導入部を中心に調べた結果では、NHKのニュースは全て“確認された情報”だけを土台に記事を作成していたが、KBSは“未確認情報”を土台に記事を構成する事例が半数近くを占めた。こうした結果を元にキム氏は、KBSは興味本位になりすぎだと批判したが、同時にNHKの問題点として、あまりにも公式的な取材源に頼っていると指摘し、政府や東京電力が自分たちに有利なように情報を出してくることを視野に入れた報道を求めた。

個別の番組の紹介では、震災から100日後の段階で放送されたKBSのドキュメンタリー『揺れる日本』が会場で上映された。この中では、自民党政権時代の原発政策が政・官・業・マスコミの癒着構造を招いたと批判している、自民党衆議院議員の河野太郎氏や東大教授のカン・サンジュン(姜尚中)氏のインタビュー、それに日本政府に不信感を持ち、自ら放射線量の測定を各地で進めている市民を紹介していた。さらに国際環境保護団体「グリーンピース」が独自に行った、原発近海で取れた魚の放射性物質調査に同行し、調査した21個体のうち14個体で日本政府が定めた基準値をオーバーしたとの結果を紹介するなど、日本のメディアではあまり出ていない内容も伝えた。これに対しパネラーからは、一部の映像について「あのシーンをそのまま流すと“不安をあおるのではないか”との批判が来る気がする」との声も出たが、原発事故を機に福島から北海道に避難している市民の宍戸隆子氏はKBSの番組を支持した。そして「事故が起きたとき、テレビにはメルトダウンの話は一切出ていなかったが、ネットには出ていた。福島ではテレビや新聞だけ見ていた人は地元に残り、ネットも見ていた人は逃げ出したという側面が強い」と述べ、テレビや新聞に対し、政府の発表のみでなく自発的な取材で報道して欲しいとの要望を表明した。

今回の国際会議では、災害報道の基本スタンスとして「冷静」で「慎重」な日本の大手メディアと、「扇情的」だが「政府批判」の姿勢に富む韓国メディアの対照的な対応が浮き彫りになった。今後3か国のメディアとも、隣国のメディアの良い点に学ぶという姿勢を持つことが、災害報道に限らずそれぞれの国で視聴者・読者の信頼を高めていくために必要と思われる。そうした視点で日本の既存メディアの課題を考えると、特に原発事故への対応に当たって、政府や大企業への批判的視点を持つことはもとより、「パニック」や「風評被害」の防止、そして情報の100%の確実さを重視するあまり、現地の住民にとって危険かもしれない情報が十分提供されなかった可能性について深く検証していくことが重要である。

メディア研究部(海外メディア) 山田賢一