海外放送事情

自由化による過当競争が招く事業免許紛争

~台湾衛星テレビチャンネルの事例から~

台湾では、1980年代末からの自由化・民主化に伴って、ケーブルテレビが急速に普及、政府当局もケーブルテレビ向けに番組供給を行う衛星チャンネル事業者についての新規参入を原則自由化した。その後衛星チャンネル数は急増、各局は生き残りのため、番組制作費の削減やなりふり構わぬ増収策に走っている。こうした中、最近独立規制機関である国家通信放送委員会(NCC=National Communication Commission)がコンテンツ規制違反を理由に、衛星テレビチャンネルに対し免許取り消しや免許申請の却下といった「強権」を相次いで発動し、事業者の強い反発を呼んでいる。本稿では、2011年2月に台北で行った現地調査をもとに、過当競争のテレビ市場における事業免許政策のあり方を考察する。

NCCは2010年12月、「年代テレビ」の総合チャンネルに対し、条件付免許更新の期間中に広告の要素が強い番組を放送する「番組広告化」という衛星テレビ法違反が3回あったとして、免許取り消しを決定した。これに対し年代は、「言論の自由の侵害」などと反発、行政訴訟を提起した。またNCCは新規参入を図った「壹テレビ」についても、「壹テレビ」が導入しようとしている「動新聞」という、CGを使って事件などの状況を再現する新しいニュース報道のやり方が青少年団体や婦人団体の批判を受けていることから、2回にわたって申請を却下、壹テレビは「原則自由の衛星チャンネル参入なのに違反の恐れがあるとして免許を出さないのは行政権の濫用」と批判している。NCCはこれに対し、年代総合チャンネルのケースは免許期間の6年間に49回と他局を大幅に上回る違反があったことや、番組広告化は行き過ぎた商業主義によるもので言論の自由とは無関係であることを強調、また壹テレビに関しては、そもそもニュースの内容をCGで再現しようとすれば「想像」による部分が含まれ、「ニュースは真実でなければならない」との原則に違反すると反論した。学者やメディアNGOの間では、年代のケースは違反が多くやむをえないが、壹テレビに関してはいったんは免許を出し、違反があれば取り締まるべきとの見方が多い。

この問題の根底には、そもそも人口2300万人の台湾で、台湾の事業者だけで167チャンネルものチャンネルがひしめいている“過当競争”の実態がある。言論・報道の自由という理念から言えば、行政当局が1つのテレビチャンネルの生殺与奪の権限を握ることは、好ましいことではないが、「メディアは公器」という理念から言うと、台湾に乱立する衛星テレビチャンネルの少なくとも一部に、「公器」の自覚に欠ける、もしくは「倫理より生き残ることが大切」という意識の蔓延が見られることも事実である。事業者による自主規制も必ずしも十分機能していない中で、NCCによる「強権発動」は徹底した情報開示を前提とすればある程度正当化されるが、それが壹テレビのような「入り口規制」まで含めるべきかは関係者でも議論が分かれる。今後は事業者の集約による再編が不可欠だが、台湾における政治の二極対立を考えると、再編は事業者の自主的な再編があるべきシナリオと考えられる。

広告市場の低迷や、それに伴う番組制作費の削減など、商業局をめぐる厳しい状況では似た環境にある日本でも、チャンネル数が台湾より少ないとはいえ今後BS局への新規参入があることを考えると、自由化による業界活性化というメリットと同時に、過当競争による質の低下の問題を考慮に入れた放送政策のあり方の議論が求められる。

(補記:)NCCは7月20日、壹テレビが「性、暴力、裸体に関するCGは作成しない」など7項目の公約を提起したのを受け、ニュースチャンネルの免許を賦与する方針を決めた。

メディア研究部(海外メディア) 山田 賢一