海外放送事情

台湾メディアを揺るがす「ニュースを装った広告」=「置入」

~読者・視聴者を“騙す”悪弊~

台湾のメディア界では現在、「置入性行銷」(略称・「置入」、中国語で「チールー」)という言葉が大きな話題になっている。これは政府や企業がメディアに金を払って行う政策や商品のPRについて、メディア側が「広告」と明示せず、一般のニュースのような形で“報道”するものである。放送・活字メディア共に過当競争が繰り広げられる台湾では、各メディアの経営は必ずしも順調ではない。こうした中、政府や企業が広告効果を高めようと「一般記事」の形での出稿を要求してきた場合、メディアがそれを受け入れている実態があると以前から指摘されてきた。このことが突然大きな社会問題になったきっかけは、大手紙の「置入」横行を見るに見かねて会社を退職した一人の元記者が、自らのブログでその内情を告発したことだった。本稿ではこの元記者へのインタビューを含む2011年2月の現地調査を通じて、「置入」問題の現状と今後の対策について紹介・分析する。

2010年12月、中国時報の元記者、黄哲斌氏の個人ブログに、1日で10万件を超すアクセスが殺到した。ブログでは、以下のように記されている。「ニュースが字数で値段を計る商品と化し、価値のない発表用原稿が次々とデスク席に送られ、『これは“業配”(=置入)だ、一字たりとも削ってはならない』と言われる」「記者は広告業務員と化し、広告代理店と広告主がニュースの執筆者と化す。政府と大企業の手が直接編集卓に伸びてきて、記事の内容を指定する」「“業配”ニュースは読者を騙し、メディアの専門的な倫理に違反するもので、社会の信頼を破壊する怪物である」。黄哲斌氏によると、「置入」には政府によるものと企業によるものがある。このうち、政府の「標案」というプロジェクト的なものでは、政府が特定のイベントなどについて広告・宣伝費をどこに投じるかを放送や活字メディアを対象にした入札にかける。そしてイベントの時期に合わせ、何月何日から何日間、ニュースを何本、評論を何本書くといった取り決めをする。2009年に南部の高雄市で行われたワールドゲームズ(世界運動会)では、野党の民進党が市長を握る高雄市政府がこの「置入」をふんだんに行い、一方2010年に台北市で行われた国際花博覧会では、与党の国民党が市長を握る台北市政府が同様に「置入」による「ニュースの購入」に精を出し、新聞もテレビもほとんどのメディアが市政府の金をもらって“報道”を行ったと黄氏は証言した。政府による「置入」は与野党を問わず普遍的に行われているのである。

この告発からわずか2週間のうちに台湾では、メディア学者131人による「置入」反対の署名が集まった。また記者協会など民間の215団体も共同で「置入」反対の組織を立ち上げるなど世論の声も高まったため、与党国民党と野党民進党は大急ぎで法改正に取り組み、1月中旬、政府による「置入」を禁止する予算法修正案を立法院で通過させた。しかしその後も新聞紙上では、「広告」と明記せず「広編」「専輯」などと付記した“記事”が横行、メディアNGOの調査では聯合報や中国時報で毎月数件から二十数件の「置入」と認定される“記事”が確認された。「置入」が跋扈する背景には、台湾の新聞・テレビ界が慢性的な過当競争下にある点が指摘されているが、一方でりんご日報やその系列の壱テレビのように「置入」をしないと明言するメディアもあり、台湾メディア界の倫理により大きな問題があるといえそうである。

メディア研究部(海外メディア) 山田 賢一