海外放送事情

シリーズ 公共放送インタビュー

【第9回・アメリカ】 リチャード・ワイリー氏,リード・ハント氏(共に元FCC 委員長)に聞く

~公共放送の生き残りに必要とされるもの~

アメリカの放送界は、ケーブルや衛星が全国に浸透し、伝統のある地上局の影響力が低下する一方で、インターネットを利用した多様なコンテンツ配信が爆発的に増えるなど、“メディア激変”のまっただ中にある。そうした中で、アメリカの公共放送はいくつかの点で転換期にさしかかっている。長引く不況で商業局の経営が圧迫され人員や経費が削減される中、全国に展開し、景気の動きに左右されにくい公共放送の役割が見直されているほか、ピュリツァー賞を受賞した「プロパブリカ(ProPublica)」などのNPO系メディアが、新たな“公共的メディア”として実力と評価を得つつある。その一方で、昨年11 月の中間選挙で、公共放送への政府補助金の分配に反対してきた共和党が大勝して議会下院の多数派を占めたことや、Tea Party(茶会)運動に象徴される保守派勢力の勢いが増し、内容がリベラルだと指摘される公共放送のニュース番組への圧力が一層強まっている側面もある。

こうした中で、公共放送はどんな役割を果たせるか、果たすべきかを、FCC(連邦通信委員会)の元委員長2人に聞いた。リチャード・ワイリー氏(1974 から77年まで委員長)は、FCC委員長を退いてからも、多くのメディア企業の顧問やアドバイザーを務めるワシントンの重鎮弁護士。小さな政府や規制緩和を是とする共和党員ながら、放送の“多様性”を確保する観点から一貫して公共放送の重要性を認めてきたが、今の時代には公共放送も競争に生き残れる強さ・特性を持つ必要があると説く。時には、地方局同士の合併・吸収も必要であるという。民主党のリード・ハント氏(1993年から97年まで委員長)は、 1996年に62年ぶりの大規模な放送・通信法の改定が行われた時の委員長。現在の公共放送に最も必要とされているのは、良質なコンテンツを放送以外の多様なプラットフォームで提供する努力だという。将来的には、ネット中心の配信形態が主流になると予想する。両氏とも、アメリカにおいて公共放送が生き残るために必要なことは、これまで培ったネットワークと取材力・制作力を生かして、地域共同体に向けた情報発信(local journalism)に徹していくことではないかと指摘する。

メディア研究部(海外メディア) 柴田 厚