海外放送事情

【シリーズ】国際比較研究:放送・通信分野の独立規制機関

第7回 イタリアAGCOM

~二極体制の打開と多様性の確保~

このシリーズでは、放送規制を検討する上で重要な独立性や透明性の論点で各国の規制機関の現状や課題を調査している。シリーズ7回目は、1997 年に設立されたイタリアの放送通信分野の独立規制機関AGCOMについて、その組織の成り立ちや役割を概観した上で、法制度の紆余曲折も併せて、イタリア固有の特殊な状況を整理しながら、AGCOMの現状と問題点を紹介する。

AGCOMは、1997年放送通信改革法によって設立された。本部は首都ローマの南に位置するナポリにあり、ローマにも支部を置いている。現在約350人体制で、放送と通信の両分野の監督業務を行っている。

AGCOMの役割は、コミュニケーション分野において、イタリア共和国憲法第21条が保障する「個人の基本的権利」を保護することである。イタリアにおいては、国内の放送市場が少数の事業者によって独占されるという状況が続いているため、他の諸国と比べて、特に情報の多様性とメディアの多元性を保障する任務は非常に大きな重要性を帯びている。

AGCOMの意思決定機関である評議会のメンバーは、委員長と8名の委員の計9名で構成されており、委員長については首相と所管省庁である経済開発相が合同で指名し、8名の委員については上院と下院の合同委員会が指名するという方法がとられている。また、監督する分野における職務との兼任禁止の規定を、 7年間の任期中のみならず、その直後の4年間にも適用することで、独立性の確保をはかっている。しかし、メンバーの指名に首相や政府が関わっているために、監督機関AGCOMへ政治的圧力がかかるとの批判は依然としてつきまとっている。

AGCOM設立の背景には、商業放送Mediasetと公共放送RAIによる放送市場の寡占状態がある。このイタリアの特殊な事情ともいえる「二極体制」は、90年代始めから続いており、その是正が国内メディア分野の課題でもあった。そして、イタリアでその一大メディアネットワークMediasetを築き、「メディアの帝王」と呼ばれていたシルヴィオ・ベルルスコーニが1994年に政界に参入、首相に就任すると、今度はベルルスコーニへの全メディア支配への懸念が生まれる。そこで、ベルルスコーニが率いる中道右派陣営に対立する中道左派陣営は、ベルルスコーニへのメディア集中の打開をねらい、 AGCOMを設置してメディアの多様性・多元性を保障させることを目指した。しかし、Mediasetはその後も依然として勢力を保ち続け、ベルルスコーニ首相へのメディア集中の懸念はいまだ解消されていない。国内の政治的綱引きに巻き込まれ、制度的に権限の限界を抱えるAGCOMの現状と、改革の動き、今後の展望を見てみる。

メディア研究部(海外メディア) 広塚洋子