インターネット時代のジャーナリズムの行方は
文献紹介 A.Currah,“What’s happening to Our News”
(英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所,2009,未邦訳)
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インターネットが急速に台頭する中、欧米ではインターネットとジャーナリズムや民主主義社会との関係をテーマにした興味深い調査・研究が蓄積されてきている。A.カラー『ニュースに何が起きているか』(英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所、2009、未邦訳、全166ページ)も、インターネットが台頭する時代におけるジャーナリズムのあり方を考えるうえでは示唆に富む文献である。本稿ではこの文献の概要について紹介し、インターネットやジャーナリズムを巡る議論の一助としたい。
日本においても参考になると思われる論点としては以下の三つがある。
- ①「クリックの流れ」(3章)
ウェブの世界では、ユーザーがどのページにどのような順でアクセスしたか、その流れを詳細
に記録したデータが様々な形で使われるようになっているが、著者はこれがジャーナリズムにも
大きな変化をもたらしているという。 - ②「ニュースルームの統合」(5章)デジタル化とともにニュースルーム(報道局)は様変わりし、ジャ
ーナリストの仕事も変化している。ニュースルームの統合は巨額のデジタル投資を伴うものであ
り、経営の全面的な転換も必要とする。 - ③民主主義の後退と再生(8章)「クリックの流れ」を重視する「ニュースルームの統合」は民主主義
に悪影響をもたらす。短期的な利益が社会での公共的な責務という長期的課題よりも優先され
ることになりかねないからである。
―――これらの変化について、本書では関係者への詳細なヒアリングに基づき具体的かつ説得的に分析している。