海外放送事情

シリーズ 公共放送インタビュー

【第1回・フランス】ナタリー・ソナック氏(パリ第2大学フランス情報通信研究所所長)に聞く

~財源問題で揺れる仏公共放送~

デジタル転換期にある公共放送の在り方を考察する為、海外の研究者や実務者に公共放送をめぐる諸課題についてインタビューし、シリーズとして報告する。第1回目は広告廃止に伴う財源問題で揺れるフランスの公共放送について、パリ第2大学にあるフランス情報通信研究所のナタリー・ソナック所長のインタビューである。ソナック氏は、メディア業界の変動を主に経済学的なアプローチから分析する研究の第一人者である。

ヨーロッパでは多くの公共放送が財源の一部として広告収入に頼ってきたが、フランスでは2年前サルコジ大統領が広告放送の廃止を突然表明した。2009 年1月からプライムタイムの広告放送が消え、2011年末には全廃される予定だが、問題はその埋め合わせとなる財源だ。放送業界への参入が相次ぐ電気通信事業者への新規課税を国は見込んでいたが、欧州委員会が、自由競争を旨とするEU法に違反すると裁定し、困難な局面となっている。ソナック氏は広告廃止について、公共放送が市場競争の枠組みからはずれて、視聴率にあまり左右されず、多様で文化的な番組を提供しやすくなったとして評価しているが、ただ永続的な財源確保の見通しが甘かったと指摘する。経済モデルだけを考えれば、公共放送を廃止して民営化というオプションも場合によってはあるかもしれない。しかしソナック氏は、それは政治的な失敗を認めることになるという。なぜなら公共放送による多様で文化的な番組を担保するために広告をなくしたのに、その結果として民営化され、視聴率に左右されるようになっては、本来の目的と反対の結果を招いてしまうからだ。ソナック氏は、情報とは市場競争とは無関係に国民に提供されるべき公共サービスであり、公共放送が社会に情報を提供するという目的を果たすためどれだけのコストが正当化されるのか、経営モデルを検討し直すべきだと言う。その上でソナック氏は将来的には受信料の値上げが避けられないのではないかと言う。

メディア研究部(海外メディア)新田哲郎