海外放送事情

ネットの普及は中国メディアをどこまで変えられるか

~東京・札幌国際シンポジウムに参加して~

中国ではインターネット人口が、2009年末段階で3億8400万人に達した。中国におけるインターネットは、既存のメディアより自由度が高く、ユーザー自らの情報発信も可能なことから、特に若い人たちがアクセスするメディアの中心的存在になりつつある。最近はネットが報じる「特ダネ」を既存メディアが後追いするケースも多い。本稿では、中国におけるネットがメディアひいては中国社会そのものをどこまで変えられるのかという観点から考察を行う。

北海道大学大学院東アジアメディア研究センターでは2010年1月、東京と札幌で中国のインターネットと言論の自由をメインテーマに日中国際シンポジウムを開催した。そこでは中国側の各報告者から、2009年にネット上で、地方政府が隠そうとした様々な問題が「特ダネ」として暴露され、ネットユーザー達の圧力が社会正義の実現に貢献した実例が報告された。また、「弱者の武器」と言われる「パロディー」の形を取った、既成の権威や秩序に対する消極的抵抗もネットという媒体を通じ市民の間で広がっている実態が明らかになった。中国におけるネットの普及は、これまで共産党の強い統制下にあった既存メディアからの限られた情報しか得られなかった市民に対して多彩な情報を供給すると共に、ユーザー側からの発信とユーザーの相互交流機能の拡大を通じて、様々な社会問題を明るみに出し、一般市民にとってより良い解決策を見出すための重要な役割を果たしつつある。

しかしその一方で、ネットの「破壊力」を警戒する中国政府が、ネットを含めたメディア管理の強化に動いていることも事実である。さらに一見タブーがないと思われるネット上でも、ナショナリズムへの批判や懐疑の声はたちまち「ネット民族主義者」達の集中砲火を浴びるなど、ナショナリズム=「政治的に正しい言論」という構図が変わる兆候はほとんど見られない。

中国のネットが今後真の意味で中国のメディアそして社会を変えていくためには、現在の中国社会の諸矛盾の解決にあたって、ナショナリズムへの誘惑をいかに乗り越え、言論の自由化や政治体制の民主化に舵を向けられるか、そうした問題意識を持ったネット活用が欠かせないと思われる。

メディア研究部(海外メディア) 山田賢一