海外放送事情

「対外発信強化」に動く中国

~政府のメディア政策転換が国内外に与える影響~

中国の主要メディアが、最近こぞって「対外発信強化」に乗り出している。中国中央テレビ(以下CCTV)は従来からある中国語・英語・フランス語・スペイン語の対外向けチャンネルに加え、2009年7月にアラビア語チャンネル、9月にロシア語チャンネルを相次いで立ち上げた。また人民日報や新華社が海外支局を含む取材体制を強化しているほか、これまで対外発信の主軸となってきた中国国際ラジオ(CRI)は、アメリカの大手IT企業アップルの携帯電話「iPhone」のユーザーを対象にニュースなどを提供するといった具合に、中国の各メディアが対外発信を競っている。

広告が入りにくい対外発信業務をメディアが行う背景には中国政府当局の意向があるが、その短期的な要因としては2008年3月にチベットで起きた民族暴動の際、情報を封鎖した中国政府に対し海外メディアが強い批判の目を向けたことにあった。またより長期的には、中国経済が世界と一体化し、貿易摩擦なども増加する中で、中国が国際世論に向けて自己主張する必要性が高まってきたことが挙げられる。では中国による対外発信強化はいったいどのように進められていて、今後どれだけ「成果」があがるのだろうか。本稿では、2009年11月に北京で行った現地調査をもとに、主要メディアの対外発信強化の現状を紹介すると共に、それが中国の国内外に与える影響について考察する。

結論的に言うと、海外では共産党独裁の中国が国際世論を“カネで買う”ことへの脅威感が強いのに対し、中国国内の有識者は、人民日報・新華社・CCTV といった主要メディアが既に中国民衆の支持を失っており、対外発信の効果も非常に限られるという、冷めた見方をしていた。その一方で中国のテレビドラマがベトナムなど東南アジアで人気を集めだしたのも事実で、言論の自由が不十分な発展途上国などでは一定の影響力を持つ可能性もある。報道に関しては、「宣伝」色をどの程度払拭できるかという問題があるわけだが、2010年からスタートすると見られるCCTVの24時間英語ニュースチャンネルがどのようなつくりとなるかが、今後1つの重要なメルクマールになる。

ただ、ネットの急速な普及によって中国社会全体が「情報の民主化」に向かって進む中、既に「空洞化」が進んでいる従来の宣伝中心のやり方を続けていくことは、国内外ともに無理があるといえる。ある程度時間がかかるにせよ、中国は今後、対外発信の強化→対外交流の強化→国内報道の統制緩和という道を次第にたどっていかざるを得ないと思われる。

メディア研究部(海外メディア) 山田 賢一