海外放送事情

ケーブル大国ドイツが直面するデジタル化の隘路

ドイツでは、地上放送のデジタル化が2008年11月に主要国としては一番早く終了し、また衛星アナログ放送の終了も間近とみられている。しかし、国内でもっとも重要な視聴手段となっているケーブルテレビで、デジタルサービスの普及が長らく低迷してきた。またケーブルによるインターネットと電話サービスの開始も、他の先進的な国に比べて遅かった。ドイツは世界でも有数のケーブル大国であるだけに、関係者はみな、その潜在力を生かせていない現状に不満と苛立ちを感じている。本稿では、こうしたドイツのケーブルテレビの現状と課題を、そのユニークな成り立ちを紹介しつつ報告する。

ドイツの現在のケーブルテレビの停滞状況の遠因は、1980~90年代の政策決定にある。第1に、1980年代に全国ケーブル網を敷設する際に、国家所有の部分と、民間所有の部分に「ネットワークレベル」の分割をしたこと。第2に、1990年代の郵便・電気通信民営化の際、ケーブル事業をドイツテレコムのもとに残したことである。

このことがケーブルテレビの発展に重大な影響を与え、特にデジタル時代に入ってからは機能不全が目立つようになった。その後2000年代に入り、ケーブル事業が外国資本の手に渡ったとき、いよいよドイツでもケーブルのフルサービス化が始まるものとの期待が高まった。しかし鳴り物入りで参入した外資第一陣はあえなく撤退し、期待は失望感に取って代わってしまったのである。

その後、ドイツのケーブル事業者は、慎重に機をうかがいながら、体制を立て直すことに努めた。そして2006年以降ようやく攻勢に転じているかのように見受けられる。しかし過去の構造問題の克服は容易ではない。一方で衛星放送や地上デジタル放送、他方でドイツテレコムとの競争にさらされている。さらに、 2012年にアナログ供給路が絶たれた後の措置も講じなければならない。1980年代に輝かしい成功を誇ったドイツのケーブルテレビは、狭い隘路を抜け、 2010年代の情報化社会で再びその存在感を示すことができるだろうか。

メディア研究部(海外メディア)杉内 有介