海外放送事情

「言論の多様性」と「公正な報道」には何が必要か

―台湾旺旺集団のメディア進出をめぐって―

台湾では、2008年11月、食品会社の旺旺グループが既存メディアの買収によってテレビと新聞の経営に乗り出しました。これに対してメディア研究者の間からは、メディア経営の経験が全くないワンマン企業の旺旺がメディアを所有することに強い批判の声が上がり、旺旺も傘下のメディアを使って反撃するなど、激しい論争となっています。本稿では、旺旺をめぐる一連の動きを事例として、報道の根幹を成す「言論の多様性」と「公正な報道」について考えます。

旺旺とメディア研究者・NGOの間の論争における論点の1つは、旺旺が大手の地上テレビ局とケーブルチャンネル向け衛星テレビ局、それに大手の新聞社を傘下に置く、いわゆる「クロスメディア所有」のメディアグループとなったことで、その「集中度」の高さが言論の多様性に影響しないかという点です。この点については集中度が高いとするメディア研究者・NGOと、そうでもないとする旺旺の主張は平行線です。しかし「メディア集中」はメディアの質を確保するのに必要な経営の安定化のためにある程度必要な側面もあり、本来最も重要なのはもう1つの論点である「公正な報道」です。メディア研究者・NGOの間では、これまでメディアと縁もゆかりもなかった旺旺が、オーナーの発言力が極めて強い企業風土の下で、メディアの責任を自覚して公正な報道が出来るのかという疑念があり、特に旺旺のオーナーが、「他のメディアに罵られるのを座視するより自らのメディアで罵り返せ」と傘下のメディアの社員に言ったことなどが懸念を大きくしています。また旺旺は中国でのビジネスで多大な収益を上げていることから、旺旺が大手メディアを握ることで、中国への批判的な報道が自粛されるようになるとの懸念もあり、既に中国返還後メディアの中国報道が「大人しくなった」とされる香港と同じ道を台湾が歩みつつあるようにも見えることから、今後「言論の多様性」と「公正な報道」を維持・発展させる上で大きな課題となっています。

メディア研究部(海外メディア)山田 賢一