海外放送事情

調査研究ノート

現代思想と最近の視聴者研究をめぐる問題

~N.ガーナム著「解放、メディア、現代性:メディアと社会理論をめぐる議論」から~

このところ、テレビ番組の内容や、評価、製作手法、モラル等をめぐる問題が頻発するようになっている。ここで取り上げる、N.ガーナム(Nicholas Garnham)の『解放、メディア、近代~メディアと社会理論をめぐる議論(2000)』(Emancipation,the Media and Modernity Arguments About the Media and Social Theory)は、このような事態が、近年のメディア研究のあり方にもあることを示唆するものである。

著者のN.ガーナムは、もとイギリスのウェストミンスター大学の教授で、メディアについて40年にわたる研究と学生の指導を続けてきた。そうした中で、いまの視聴者研究の主流となっている個別のメディアの利用や消費に重点をおく研究は、マスメディアの社会的コミュニケーションという本来の性格を考えたとき、きわめて問題があるという。著者は、その問題点を、この研究の背後にある現代思想とマスメディアが登場した近代の啓蒙思想とを比較、検討しながら明らかにしている。論点はメディアの生産物をめぐる評価と知識人の役割、公共圏をめぐる議論にも及んでいる。ガーナムは、メディアの生産や供給の側面を取り入れた研究を回復させることがいまこそ必要であると主張している。著書は、英文200ページで8つの章から構成され、メディアをめぐる議論を幅広く取り上げている。

メディア研究部 越川 洋