海外放送事情

“激動の一年”における中国のメディア政策

~重大ニュースはどう伝えられたか~

中国にとって2008年は、まさに“激動の1年”と呼ぶにふさわしい重大ニュース多発の年であった。本稿執筆の10月下旬時点でみても、「中国産ギョウザへの農薬混入事件」、「チベット暴動」、「オリンピックの聖火リレーをめぐる海外での数々の妨害・抗議」、「四川大地震」、「北京オリンピックとその前後のテロ事件」、「メラミン入り粉ミルク事件」と枚挙に暇がない。そして中国政府にとって2008年の至上命題である「オリンピックの成功裏の実施」が、これらの重大ニュースの取り扱いに少なからぬ影響を与えた。本稿では、既述の6つの重大ニュースを対象に、中国メディアがどのように伝えたかを海外メディアと比較しながら見ていき(主に人民日報と日本経済新聞)、中国政府の国内・海外メディアへの対応にどのような特徴が見られたか分析した。

全体を通じて感じられたことは、中国政府のメディア対応が中国語で言う「内外有別」あるいは「内緊外鬆」(鬆=ゆるい)、つまり「国内メディアの管理は厳しく、海外メディアの管理は緩く」という側面が強まっているということである。もちろん海外メディアとの間に様々なトラブルがあったことは事実だが、中国政府は10月17日で期限が切れることになっていた海外メディアへの取材規制緩和を今後も継続するとした「中華人民共和国駐在外国メディアと外国人記者取材条例」をこのほど公布した。これによって、チベットのような政治的に「敏感」な地域は別として、今後も外国人記者が中国を取材する際、原則として現地の外事部門の許可を得る必要がなく、中国側の同行者を伴う必要もない状態が続くことになった。その一方で、人民日報をはじめとする中国の公式メディアは、 2008年の重大ニュースに関して、いずれも当局に都合の悪いことは報じないという紙面に終始した。ただ、中国のメディアの中でインターネットは例外的な存在であり、「チベット暴動」や「聖火リレー」のような「愛国」事案では当局と同盟するものの、「ギョウザ事件」や「粉ミルク事件」のような事案では多様な言論を展開していた。今の中国のメディア管理形態は、国内メディアと海外メディアの間で「内外有別」となっているのに加え、国内メディアについてもネットとそれ以外のメディアで一種の「内外有別」の様相を呈しているのである。こうした状況については、そもそも海外メディアは管理できないし、ネットも他の国内メディアより管理しにくいからという、管理の技術的難度が原因とする説と、中国政府の指導層にも海外メディアやネットくらいは規制緩和しても良かろうと考えている勢力が存在し、当局の考えをある程度反映した措置だとの説がある。また、オリンピック後に国内メディアへの管理が緩和されるのか、あい変らず厳しい状態が続くのかについても、オリンピックが規制強化の原因と考える関係者は今後の規制緩和を見込んでいるのに対し、中国社会全体の不安定化が規制強化の原因と考える関係者は厳しい管理の継続を予想する。中国のメディア政策の動向から目が離せない時期が、今後も当分続きそうである。

メディア研究部(海外メディア)山田 賢一