海外放送事情

シリーズ 世界の公共放送のインターネット展開

第2回イギリス・BBC

~公共サービス・コンテンツを360度展開へ~

シリーズ2回目は、イギリスの公共放送BBCのインターネット展開について、家庭のパソコンで見逃した番組を視聴できるiPlayerを中心にリポートする。

BBCのインターネットを利用したオンライン・サービスは1997年12月から本格化し、BBCはbbc.co.ukのホームページを入口にニュースや学習サイトを充実させ、番組情報や経営情報の提供によって視聴者への説明責任を果たしてきた。今回開始したiPlayerは、完全ブロードバンド時代の幕開けを前に、オンデマンド型の番組消費の拡大や可搬型デバイスの利用拡大など視聴者の変化を予測し、BBCが変化する視聴者と同時代的つながりを持ち続けるために構想されたサービスの1つである。

iPlayerは、BBCのテレビやラジオ番組について放送後7日間まで家庭のパソコンでストリーミングあるいはダウンロードして視聴できるオンデマンド・サービスである。サービス開始から半年ほどで、1週間に200万人のユーザー・アクセスがあり、iPlayerの登場によって、視聴される番組ジャンルやテレビ・チャンネルの幅が広がっていることが示されている。iPlayerは受信許可料を財源とする無料の公共サービスとして提供されているが、これは監督機関であるBBCトラストによる「公共的価値の審査」という手続きを経て可能となった。このことによって、番組制作プロダクションや出演者等著作権者との間で権利交渉が円滑に進んだと言える。

BBCはいま、iPlayerを含めたインターネット・サービスを総合的に強化し、メディアの複合的利用によって公共サービス・コンテンツから最大の価値を引き出そうとしている。そのため、組織の変革、職員意識改革、デジタル・コンテンツ資産管理に取り組んでいる。しかし、BBCが創造する公共サービス・コンテンツへのアクセスを向上させるために設計されたiPlayerやインターネット・サービスそのものが、視聴者主導と技術特性によって、市場中心的な思考をBBC内に浸透させる恐れもある。オンデマンド時代の「価値の最大化」とは何を意味し、それをどう評価するのか、引き続き検討すべき課題として残されている。

メディア研究部(海外メディア) 中村 美子