海外放送事情

シリーズ 世界の公共放送のインターネット展開

第1回アメリカ・PBS

~「市民参加の場」としての公共放送へ~

デジタル技術の高度化にともない、今や世界の主な放送局ではインターネットによる番組配信は、放送事業の重要な柱となっている。そうした中で、世界の主要な公共放送は、VOD(ビデオオンデマンド)をはじめとしたインターネットサービスにどのように取り組み、デジタル時代にどんな「公共放送サービス」を行おうとしているのか。現地調査を基に、6回シリーズで、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、台湾・香港の現状や課題について報告する。

アメリカの放送では商業局が先行し、4大ネットワークを中心に圧倒的な影響力を保ってきた。それに対して、地域や大学に根ざした教育放送局としての歴史をもつ公共放送PBS(Public Broadcasting Service)は、厳しい財政や視聴率競争の中で、教育や歴史、科学、ニュース、ドキュメンタリーなどで質の高い番組を放送し、独自の存在感を示してきた。PBSは、インターネット展開に関しても積極的に取り組んでいる。一例が、アメリカを代表するドキュメンタリー番組の『FRONTLINE』。番組ホームページでは、放送で紹介できなかった膨大な資料や映像を公開する一方で、ネットを通じて制作者と視聴者の意見交換の場をもうけるなど、これまでの放送の在り方を変える試みを行っている。また、『News Hour with Jim Lehrer』では、ニュースを中高校生の教育の題材として使い、多角的なものの見方を育てる取り組みを行っている。PBSでは、“番組”を“コンテンツ”に再構成してあらゆるプラットフォームで配信するために、組織改革も行った。視聴者・ユーザーとの双方向性を高めて、「市民参加(civic engagement)の場」としての公共放送を目指すPBSの様々な試みについて、関係者へのインタビューもまじえて報告する。

メディア研究部(海外メディア)柴田 厚