海外放送事情

放送人養成と放送経営教育(1)

日米の大学学部課程における放送関連教育

~米オハイオ大学スクリップス・ジャーナリズム・スクールでの実地調査を通じて~

この報告について

これは今年(2008年)3月号で御紹介したように、放送文化研究所が,昨年度(2007年度)に新研究領域創成のための共同研究として行った「大学・研究機関における放送経営関連教育の実態調査」の報告の1つです。このプロジェクトでは、この報告を(1)として、以下、

(2)「グレッグ・ダイクのBBC改革とコッター経営学」(横山)

(3)「アメリカにおけるジャーナリスト教育と財団」(仮)(日本大学・別府三奈子准教授)を次号以降に掲載する予定になっています。

メディア研究部(海外メディア) 横山 滋

1.大学教育と放送現場の「壁」-日米大学教育の差異

「日本では『大学でジャーナリズムを専攻した様な学生は我が社では採用しない』とするメディア企業が多いというのが現状である」という指摘がありますが、アメリカでは大学とメディア産業界との関係はどうなっているでしょうか。オハイオ大学のスクリップス・ジャーナリズム・スクール(The E. W. Scripps School of Journalism)を訪問し、関係者から学部および大学院教育について行なった聞き取り調査をもとに、学部での教育について報告します。

オハイオ大学スクリップス・ジャーナリズム・スクールは、コミュニケーション学部(The Scripps College of Communication)に属しています。

アメリカの大学におけるジャーナリズム教育のカリキュラムは、米国ジャーナリズム教育評議会(Accrediting Council on Education in Journalism and Mass Communication)の基準に沿っていて、一般教養(リベラル・アーツ)科目を重視しています。卒業に必要な単位のおよそ3分の2は一般教養、残りの3分の1が専門科目で、これは日本と大きく違っています。

専門科目の教育では、Precision Language for JournalistsやNews Writingのような言語運用能力と、Communication LawやEthics, Mass Media, and Societyのような法と倫理が必修科目として重視されている一 方で、それぞれの希望に応じた分野(ラジオ、テレビ、新聞、雑誌、広告、インターネットなど)で充実した制作実習教育が行われています。

大学教員の採用についても、日本の場合とは異って、多くの現役のメディア関係者が勤務後の夕方や夜に非常勤講師として実習教育を支えています。専任の教員についても、放送や雑誌などメディアの現場での経験を有する人材がその後大学で博士号を取ってから教員になるというルートが確立されていて、現場を知らない空理空論でもなく、単なる現場の体験談でもない教育が成立しているようです。

日本とアメリカではこのように放送関連教育をめぐる環境は大きく違いますが、日本の場合も、放送業界と大学が人材育成という点で戦略的に連携する必要があるのではないでしょうか。放送業界の側では、就職後に社内のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)によって人材は育成すればよいという人事政策が、十分に機能しているのかを問い直す必要があるでしょうし、一方大学は、自らのカリキュラムが放送業界が求める「職業知」の養成に適切に対応しているかを検証しなければならないでしょう。これらの作業には、放送関係者と大学の率直なやり取りが不可欠だと思われます。

法政大学社会学部教授 藤田真文