海外放送事情

白熱する香港の公共放送改革論議

~検討委員会報告書がもたらした波紋~(第二部)

香港の公共放送改革をめぐる議論が白熱化している問題について、10月号では香港の公共放送であるRTHK(Radio Television Hong Kong,香港電台)の概況や運営の枠組み、そして2007年3月に出された公共放送改革検討委員会による報告書の詳細を紹介した。11月号では第二部として、07年7月に行った現地調査の結果をもとに、香港の公共放送のあり方として具体的にどういった点が議論の争点になっているのかを分析・検討した。

報告書では新規の公共放送機構を設立するとした一方で、現在の公共放送であるRTHKについては「公共放送機構への改組は適切ではない」と述べるだけで、その将来について触れなかった。このため市民団体や香港の議会である立法会の民主派議員らから「報告書は編集権が独立したRTHKの抹殺を図るもの」との強い反発が出た。これに対し親中派は「RTHKはコールイン番組などで政府を罵る偏向がある」「政府の予算を使って金儲け指南の番組などを作り商業局の分野を侵犯している」などと応戦し、民主派の中にも商業局と競合する番組を作ることへの批判が見られた。一般市民についてRTHKへの評価を見てみると、中文大学アジア太平洋研究所が2006年5月に行った世論調査では、市民の63.8%がRTHKの仕事ぶりに満足(不満は7.9%)との結果が出ている。また親中派や検討委員会メンバーの発言にもRTHKを本気で廃止すべきとの声はなく、関係者の間では、報告書はドナルド・ツァン行政長官が親中派に迎合しつつ、時に政府に批判的なこともあるRTHKを牽制したものとの見方が出ている。

こうした香港の公共放送改革議論で厄介なのは、日ごろは表に出てこない影の主役とも言える中国政府が、今何を考えているのかよく分からないことである。香港が中国に返還された以上、RTHKのような主要メディアの将来について、中国政府が何らかの影響力を持とうと考えるのは現実問題としては避けられないように思われる。従ってRTHKの将来に関する問題は、欧米における公共放送の議論だけで語れるものではなく、香港の人が香港を治めるという意味の「港人治港」と称してきた香港の自治のレベル、ひいては中国本土の言論の自由化・政治体制改革などとも関連した、きわめて複雑な要素が絡み合う中で進展していくものと思われる。

主任研究員 山田賢一