海外放送事情

白熱する香港の公共放送改革論議

~検討委員会報告書がもたらした波紋~(第一部)

香港では07年3月、公共放送改革検討委員会がまとめた報告書が行政長官に提出された。この報告書の発表によって、香港の公共放送改革をめぐる論議が最近白熱化の度合いを高めている。

香港の公共放送といえば、1928年に設立されたRTHK(Radio Television Hong Kong,香港電台)を指すのだが、RTHKはイギリスBBCの影響を強く受けてはいるものの、組織的には香港特別行政区政府の一部分、即ち「官営」である。このため特に香港の中国返還後は、親中派から「政府の一部門なのに政府を批判するのはおかしい」との非難を繰り返し受けており、「官営の公共放送」という組織形態が行き詰まりつつあるとの印象も出ていた。こうした中、香港特別行政区政府の曾蔭権(Donald Tsang Yam-kuen)行政長官は2006年1月、公共放送見直しのための検討委員会を設置、委員会では07年3月、公共放送の基本理念や統治・説明責任といった点に詳しく触れた上で、新しい公共放送機構を設立することを提言した報告書をまとめた。しかし報告書では、現在の公共放送であるRTHKに関して、「新しい公共放送機構への改組は適当ではない」と退けただけで、その将来については一切触れず、香港政府にゲタを預けた形となっていた。このため議会の民主派や市民の間からは、「報告書はRTHKをつぶすための策略」との批判が噴出、RTHKを守ろうという市民運動も始まる事態となった。本稿では、第一部でRTHKの概況や運営の枠組み、そして検討委員会の報告書の詳細を紹介し、次号の第二部で07年7月に行った現地調査の結果をもとに、香港の公共放送のあり方として何が議論の争点になっているのかを分析・検討することとする。

主任研究員 山田賢一