海外放送事情

公共放送拡大に向かう台湾

~“過当競争”改善への期待と課題~

台湾では、ケーブルテレビが普及していることもあって、人口2300万人の市場に150ものテレビチャンネルがひしめいている。このためほとんどの局は経営が苦しく、低コストで視聴率を上げようとセンセーショナルな番組作りに走る傾向があり、有識者の間では番組の低俗化を防いで質を向上させる必要性が繰り返し指摘されている。

視聴率競争に走らず商業主義と一線を画す公共放送を充実することが、そのための1つの処方箋である。1998年に地上波1チャンネルでスタートした「公共テレビ」(公視)は、NGOによる拡充運動もあって、2007年1月にはデジタル放送も含めるとテレビ8チャンネルの「公共放送グループ」(公廣集団)に拡大した。公共テレビは従来から番組の質の高さでは定評があるが、今後拡大したグループとして発展していく上では、課題も少なくない。本稿では、3月初めの現地調査をもとに、公共放送グループの現状や直面する問題について検討した。その結果、少数派住民向けの客家チャンネルと原住民チャンネル、それに海外向けテレビ放送の宏観衛星チャンネルについては、グループ加入がおおむね肯定的に見られているのに対し、従来商業局だった中華テレビという“異質”の局をグループへ統合する作業には、少なからぬ摩擦が生じていることが分かった。内部の融和を進め、デジタル化の推進を含めたグループ運営を軌道に乗せるには、安定した財源の確保が不可欠だが、「経済効率」などを理由にした“肥大化”批判が商業放送や立法院(国会)に見られることも、予算がすんなり配分されない状況を招く要因となっている。究極的には視聴者の支持獲得が欠かせないといえるが、筆者が公共放送グループの番組をいくつか見たところ、確かに質は高いのだが、図表や字幕を多用するなど、一般の庶民が見ても理解できるような「分かりやすさ」への工夫にまだ改善の余地があるように思えた。「高品質」と「低くない視聴率」の両立を目指す公共放送グループの今後の取り組みが注目される。

主任研究員 山田賢一