海外放送事情

調査研究ノート

‘Bowling Alone’と‘Watching Alone’

~公共放送と「社会関係資本」~

この小論は、公共放送の社会的機能・役割を、「社会関係資本」の概念との関係において捉えるアプローチの可能性と課題について考察を試みたものである。

NHKは「経営計画」などにおいて、公共放送としての自らの役割のひとつとして「社会的連帯の育成」を掲げている。「社会的連帯」は具体的にはどのように作られるのか、またどのような意味で社会にとって重要なのか。私見によれば「社会的連帯」は、近年、社会科学の様々な領域で注目されている「社会関係資本」という考え方と重なる部分が多い。「社会関係資本」は、「信頼や規範に基づくコミュニティやネットワークとそこに埋め込まれた社会的資源」といった意味で用いられている概念である。

放送やテレビ視聴と「社会関係資本」との関係については、大別して二つの見方がある。テレビ視聴が「社会関係資本」を減少させるという見方と、逆に放送は「社会関係資本」を生成・維持する機能を持つという見方である。前者の代表的なものとして、アメリカの政治学者R.パットナムの著書‘Bowling Alone’『孤独なボウリング』、後者ではイギリスの経済学者M.ブルックスの論文‘Watching Alone’『孤独なテレビ視聴』がある。

「社会関係資本」の概念を用いることで、公共放送が果たす社会的機能・役割をより明確化させることができるほか、公共放送の「娯楽番組」に関する評価に新たな光を当てることもできる。さらに公共放送と視聴者の関係性を考えるうえでも重要な視座を得ることができる。その一方で、未だ抽象的で未成熟な概念である「社会関係資本」概念を、より理論的に精緻化していく作業が必要であり、同時に公共放送と「社会関係資本」との関係をより具体的に実証していくための調査や研究も要請されている。

専任研究員 米倉 律