海外放送事情

「氷点週刊」停刊事件と『大国崛起』に見る中国メディアの「規制」と「自由化」

中国では、ここ2~3年、言論の自由をめぐる事件が次々と噴出している。そのうち最も注目を集めたのは、世界中で報道された2006年1月の「氷点週刊」停刊事件だったが、もともと言論の自由が全くない体制下ではこうした事件は起こらない。中国でも改革開放政策のもとで一定の規制緩和が行われ、その中でメディア界に一層の自由化を求める声が高まっていることの表れと言える。「氷点週刊」は処分されたが、一方で、中国共産党がこれまで宣伝してきた歴史を見直すよう求める点で「氷点週刊」と共通点があった、中国中央テレビ(CCTV)のドキュメンタリー番組『大国崛起』(2006年11月放送)は、共産党の機関紙「人民日報」が賞賛の記事を掲載するなど、当局の反応は正反対のものとなった。

本稿では、「氷点週刊」の元編集主幹である李大同氏が、著作の日本語版の出版にあたって2006年12月に来日したのを機に、李氏へのインタビューを交えながら、「氷点週刊」停刊事件や『大国崛起』を主な材料として、中国のメディアが置かれた現状を分析した。その結果見えてきたのは、中国における言論の自由をめぐる現状はなかなか複雑で、今後を見通すことは簡単ではないということである。悲観的にならざるをえない要素は多く、特に西側メディアで日々報道される個別の事件は当局の厳しい姿勢を裏付ける。最近の香港の新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」の報道だけ見ても、江沢民元総書記が軍事委員会主席のポストを退く見込みという特ダネをニューヨーク・タイムズが伝えた後に拘束された同紙北京支局助手の趙岩氏は、地裁で受けた懲役3年の判決が高裁でも覆らなかった(12月2日付)。スパイ容疑で懲役5年の判決を受けた香港籍のシンガポール紙記者程翔氏について記事を書いた学者の陸建華氏は、国家機密漏洩罪に問われ懲役20年の判決を受け(12月20日付)、汚職や土地の強制収用の問題を報道していた北京の月刊誌「百姓」の編集長も更迭された(1月1日付)。一方で言論の自由の拡大を思わせる現象も少なくない。氷点週刊をめぐる問題を素早く全世界に伝える役割を果たしたインターネットの世界においては、先述の『大国崛起』でさえも「この番組は“国家本位”で“個人”の姿が見えない。イギリスやアメリカは“個人の尊重”を基本としており、“国家本位”ではない」とか、「この番組の根底に流れる論理は“建設的なちょうちん持ち、理性的なおべっか”といったところだ」などと厳しい批判が展開されている。こうした議論は、「『大国崛起』は為政者の大国化への野心という視点から見た作品で、人民にとっては無意味だ」と切り捨てる李大同氏の見方に近く、ネット上では匿名ながら「第二、第三の李大同」が続々と現れているようにも見えるのである。中国で今後言論の自由化がどの程度のスピードで進むかは、2007年秋の党大会後の指導部の新体制がどうなるかということと共に、「言論の自由は誰かがくれるものでなく、我々が勝ち取るものだ」と述べる李大同氏のような言論人がどれだけ出てくるかにも影響されそうである。

主任研究員 山田賢一