海外放送事情

「国際化」にまい進する中国の地方放送局

~四川・重慶・広西の現状調査報告~

中国の放送局といえばまず思い起こされるのは、唯一の国家レベルのテレビ局である中国中央テレビ(CCTV)だが、広大な中国は31もの省・直轄市・自治区に分かれており、各省内では省レベルのテレビ局の方がCCTVよりも身近な存在で、視聴率も高かったりする。このうち北京・上海などの放送メディア集団は比較的有名だが、内陸部の放送局の実態はほとんど知られていない。そこで筆者は2006年9月、内陸部では比較的放送番組のレベルが高いと専門家から指摘されている四川省と重慶、それに広西チワン族自治区について、テレビ・ラジオ放送の現状を日本との関係を含めて現地調査した。特に最近中国では全国的に「韓流」ブームで、日本の番組は影が薄くなっていると言われることから、各地の放送関係者が日本を含む海外の番組の購入についてどのような考えを持っているのかについて、詳しくヒアリングをした。

調査の結果、各地の放送局では予想以上に国際化に向けた取り組みが進んでいる他、市場化・デジタル化という課題にも着実に対応しているとの印象を受けた。特に、毎晩6時半から1時間にわたって、情報チャンネルで国際ニュース番組を放送している広西テレビなど、各地方放送局に国際報道強化の傾向が見られたことは、最近の中国のネット上などで目立つ“極端なナショナリズム”の抑制という観点からは大きな意味を持つと思われる。もちろん、中国において放送メディアは、共産党政権から最も強くコントロールを受けるメディアであることは否定できず、言論・報道の自由化という課題は残されたままである。また、2005 年に湖南衛星テレビのスター選抜歌謡番組『超級女声』が全国的なブームを呼んだことや、この番組への関係者の肯定的な見解からすると、中国の放送メディアは今「市場化」と称する商業主義への道をひた走っているようにも見える。中国のメディア関係者の中にもこうした商業主義化の弊害を警告する声があるが、一方で中国共産党のメディア支配を告発する文章「中央宣伝部を討伐せよ」がネット上に流され話題を集めた中国のメディア研究者、焦国標氏は、この問題に関する筆者の質問に対し、「言論の自由が規制されている国では、メディアにおける商業主義の進行は基本的にプラスの価値を持つ」との判断を示す。商業主義によって扇情的な言論や報道・番組が出てきても、一方でそれを正そうとする動きも出てくるものであり、商業主義すらない規制状態と比べれば進歩であるとの考えである。今後地方局を含む中国の放送メディアが「国際化」「市場化」「デジタル化」の進む中で、「言論・報道の自由」や「商業主義」の問題にどう対応していくのか、注目される。

主任研究員 山田賢一