海外放送事情

韓国KBSのパブリック・アクセス

~実施5年の現状と課題~

視聴者・市民が自主制作したテレビやラジオの番組を放送局が放送する、いわゆる“パブリック・アクセス”には、世界各国において様々な形態があるが、韓国の公共放送KBS(韓国放送公社)が2001年から放送しているパブリック・アクセス番組『開かれたチャンネル』は、その規模や理念において非常に先鋭的な取り組みのひとつである。本稿は、この『開かれたチャンネル』の成立の経緯、運営の実態、放送されている番組などについて検討しながら、公共放送によるパブリック・アクセスの取り組みの意義と課題・展望について考察するものである。

2000年施行の韓国の新放送法は、KBSにパブリック・アクセスの実施を義務付けており、また実施・運営はKBS自体ではなく、KBSの視聴者委員会が行っている。その意味で『開かれたチャンネル』はKBSの取り組みという側面よりも、韓国社会としての取り組みという側面が強調されるべきであろう。

2001年にスタートしてから5年間の間に、制作する市民の数が増加し、また放送される番組が取り扱うテーマやジャンルも多様化、『開かれたチャンネル』は徐々に韓国社会の中に新しい放送文化として定着しつつある。

『開かれたチャンネル』は、市民が直接制作した番組を無償で、また放送局側が編集の手を加えることなく放送するもので、社会を構成する成員の多様な意見や主張を伝え、民主的で多元的な討論の空間を形成する、とうい公共放送本来の使命の実現に貢献し得る。また、先進諸国で進展するマス・メディアの巨大化・商業主義化の中で、人々の中に生まれている「メディア不信」を払拭していくための、放送と市民の新たな関係性を構築していく可能性も持っている。

しかし幾つかの課題もある。曖昧な審査基準、制作者の裾野の拡大等である。日本では、現在のところ地上波において本格的なパブリック・アクセスは実施されていないが、今後実施を検討する場合、これらの課題を含めてKBSの『開かれたチャンネル』は非常に有益な参照材料となるであろう。

専任研究員 米倉 律