海外放送事情

台湾の“独立規制機関”ようやく成立

~政治対立に翻弄され前途多難~

台湾では、放送と通信の融合に対応すると共に、政府からの独立性を高めたメディア規制機関として、アメリカのFCCなどに範を取った NCC(National Communications Commission、国家通信・放送委員会)が2006年3月正式に発足したが、委員の相次ぐ就任辞退などで危機にさらされている。

その背景には、台湾における二極化した激しい政治対立があり、もともとの構想では政党・政府・軍などによるメディアへの介入をなくすという目的を持っていたNCCが、与野党による露骨な陣取り合戦の舞台と化してしまった。NCCを設立すること自体については与野党の合意があったのだが、委員の選考方法について与野党で主導権争いが起き、野党が多数を占める立法院では2005年10月、強行採決によって野党案を通過させた。その結果、13人の委員の内訳は、与党系5人に対し野党系が8人と、野党に著しく有利な形となり、与党系の学者1人が抗議のため就任を拒否した。またその後与党側が「委員の選考を立法院が主導するのは行政権の侵犯」と主張し、これを受けて行政院が司法院に憲法解釈を要請、その間にさらに3人の委員が就任を辞退、結局4人が欠員のまま発足した。今後もし司法院の憲法解釈が「違憲」と出た場合、NCC組織法の改定と委員選出のやり直しが求められることになるし、一方「合憲」という結果になったとしても、現在のNCC委員に占める与党系と野党系の委員は、2人対7人とバランスを失した形であることから、NCCを早期に機能させるのは難しいと見られる。するとケーブル向け衛星テレビ局大手TVBSの株主が、実質的には100%香港資本であることが明らかになった問題や、2005年7月に免許更新を拒否された「東森新聞S台」などの処分見直し問題といった多くの課題は棚上げのままとなりそうだ。台湾のような政治風土の地では、そもそも“独立規制機関”が成り立つのか疑問を呈する声もある。台湾では、「台湾人意識・独立色」の強い与党と、「中国人意識・統一色」の強い野党の間で鮮明なイデオロギーの違いがあり、一般市民であれ、学者・専門家であれ、完全に中立な人材を見つけるのは非常に困難である。メディア論を専攻する政治大学新聞学科の馮建三教授は、「党派性の存在自体は止むを得ないが、今の政党は全体の利益を考えず、あまりにも狭い視野で短期的利益に固執している」と批判する。その一方で馮教授は、NCCが情報公開を通じて透明度を高めること、そしてテレビ局の免許更新の際に、少数派住民のための番組を増やすなどの条件をつけることで、現在の新聞局よりもメディア規制機関としての役割を改善しうると述べている。今後のNCCの行方に注目が集まっている。

主任研究員 山田賢一